(24)滅びの序曲
カーライルの双剣がラヴァンに振り下ろされる寸前、空間が歪むように揺らぎ、黒い闇が渦を巻いた。闇の球体が瞬時にラヴァンを包み込み、その不気味な輝きが雷の煌めきすら飲み込んでいく。稲妻が弾かれ、球体の内部で異様な静寂が広がる中、カーライルは双剣を構え直し、険しい表情を浮かべた。
「…闇の転移魔法か。」
彼は低く呟くと、双剣を下ろし、雷の牢獄を解いた。轟音が収まり、稲妻の光が消え去ると同時に、ラヴァンの姿も球体と共に霧散する。闇の魔法陣が消えたその先――ゼフィアの足元に、瀕死のラヴァンが転移されていた。
「全く役立たずだな、ラヴァン。」
ゼフィアの冷酷な声が響く。闇の光を反射する銀髪が微かに揺れ、その冷徹な紫の瞳がラヴァンを見下ろしている。ラヴァンは荒い息を吐きながら、苦しげにゼフィアを睨みつけた。
「…助けたと思ったら、今度は何だ? 文句を言うためか?」
ゼフィアは肩をすくめ、氷のような声で言い放つ。
「完全に獣人化しろ。」
その言葉に、ラヴァンの表情が強張る。
「お前の力はそんなものではないだろう?全力を出せ。」
彼の中で、怒りと躊躇がせめぎ合う。ラヴァンはゼフィアの冷たい眼差しを正面から受けながら、苦々しく口を開いた。
「あれは制御するアイテムがねえと理性を完全に失う…俺が俺でなくなるんだ。この国だと獣人化を解く術がねえ。それに、モンスターになってまで生き永らえたいとは思わねえよ。」
ゼフィアは冷笑し、わずかに首を振る。
「では、お前に選択肢を与えよう。」
彼女は足元の瓦礫を踏み鳴らしながら、冷酷な提案を突きつける。
「マナ抽出庫に入れ。そこでマナキャノンの一部となれ。」
「…何だと?」
ラヴァンの目が見開かれ、声がかすれる。ゼフィアの視線は鋭く、彼の動揺を捉えたまま淡々と言葉を続ける。
「お前が国から受けた特務は、この国を内部から滅ぼす糸口を見つけることだったはずだ。ここでその力を捧げることは、本望ではないか?」
「くそっ…!」
ラヴァンは拳を握りしめ、歯を食いしばる。
だが、次の瞬間、彼の表情は怒りに染まる。
「もう付き合い切れるか!」
瓦礫の上に踏み込む彼の足元が軋む。
金色の瞳が鋭く光を帯び、抑えきれない憤怒が声に滲む。
「もう十分にマナは集まっただろうが!」
獣人としての力が溢れ、彼の身体が膨れ上がっていく。筋肉が隆起し、瞳は赤く輝きを帯びる。牙を剥き出しにし、彼の存在がまさに"獣"へと変貌しつつあった。
「キャノンの稼働準備も進んでる!これ以上、俺がここにいる必要はねえ!」
ゼフィアは冷ややかな笑みを浮かべながら、その光景をじっと見下ろす。
「ならば勝手にするがいい。
我が成し遂げるこの国の崩壊を、遠くから眺めて悦に浸るが良いさ。」
その言葉が、ラヴァンの心を抉った。
怒りに燃えた金色の瞳がゼフィアを睨みつけ、低く唸る。
「黙れ…!」
咆哮と共に、ラヴァンは残る獣人の力を解放した。全身の筋肉が弾けるように膨張し、骨格が軋む音が塔の中に響き渡る。鋭く伸びた爪が瓦礫を抉り、毛並みは荒々しく逆立つ。
「くそっ…ここまで追い詰めやがって…!」
最後の力を振り絞り、ラヴァンは地面を蹴り上げた。その瞬間、塔全体が揺れるほどの衝撃が走る。巨大な体躯が一気に跳躍し、瓦礫を弾き飛ばしながら、ロクスたちが駆け上がってきた階段へと向かった。ゼフィアは、撤退するラヴァンの背中を冷たい眼差しで見送りながら、小さく呟く。
「…愚か者め。」
ラヴァンの姿が闇へと消え去ると、ゼフィアは何の感情も浮かべることなく、静かにマナ抽出庫へと視線を移した。青白い輝きが彼女の冷徹な横顔を照らし、その影が不気味に揺れる。彼女の唇の端がわずかに持ち上がる――計画には何の支障もない。
その一方で、ロクスは遥か先に感じる戦いの気配に目を凝らしていた。戦場に充満する緊張と、迫りくる危機への不安が胸を締めつける。彼の視線はカーライルへと向けられた。
突如、黒い雷が嵐の中で暴力的に弾ける。空間を裂くように降り注ぐ黒雷の中心に立つのはカーライル。双剣が唸りを上げながら黒雷を纏い、まるでこの世界そのものを引き裂かんとするように荒々しく脈動している。
「いいねぇ…もっと俺を楽しませてくれ…もっと俺を取り戻させてくれ!」
狂気を滲ませた笑みを浮かべ、カーライルはグリフォンに向け双剣を掲げる。
「ラヴァンとやらは練習台にもならなかった。次はもっと楽しませてくれるんだろうな?」
その言葉に、ロクスが声を張る。
「カーライル、やめろ!今のお前は――!」
だが、その声は無情にも轟音にかき消された。カーライルは振り返りもせず、目の前の獲物――グリフォンへと突進を開始し始めた。
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