(20)戦場を舞う獣
塔の巨大な部屋の隅では、金属がぶつかり合う甲高い音が響き、火花が飛び散った。ロクスとグリフォンがぶつかり合う一方で、もう一つの激しい戦いが始まっていた。
赤いロングコートを翻し、双剣を構えるカーライル。対するは、銀灰色の髪を揺らしながら短剣を手にした獣人族の戦士――ラヴァン。
黒と赤を基調とした戦闘服に身を包んだラヴァンの動きは無駄なく、洗練されている。その鋭い金色の瞳がカーライルを見据え、余裕の笑みを浮かべた。
「おいおい、指揮官殿の召喚獣とやらは怖いねえ。あんな暴れん坊と同じ部屋にいるのはごめんだ。巻き込まれたら洒落にならないからな。」
軽口とは裏腹に、彼の動きには一切の隙がない。
カーライルは双剣を交差させ、一歩前に出る。
その瞳には鋭い光が宿っていた。
「同感だ。さっさとお前らを倒して静かにさせたいもんだ。やかましいのは酒場だけで十分だ。」
言葉を交わす間にも、二人の間に流れる殺気は膨れ上がる。
瞬間、ラヴァンの姿が霞む。
短剣が閃き、カーライルの喉元を狙う。鋼が鋼を叩く甲高い音が空間を満たし、カーライルは紙一重でその一撃を受け止めた。
「へぇ、なかなかの反応じゃないか。」
ラヴァンは笑みを浮かべ、軽やかに後退する。だが、その笑みの裏には確かな狩人の目が光っていた。
一瞬の間。
次の瞬間、ラヴァンが鋭い突きを繰り出した。その動きはまるで疾風。人の目には映らぬほど速く、空気すら切り裂くような鋭さだった。
カーライルは双剣を巧みに操り、辛うじてその連撃を捌く。しかし、ラヴァンの動きは衰えない。
「短剣の技術は一流だな。」
カーライルは息を整えながら、次の一手を探る。
「だが、それだけじゃ俺を倒すには足りない。」
一閃。双剣が鋭く走り、ラヴァンの首元を狙う。だが、ラヴァンは身体をひねり、最小の動きでそれを回避すると、カウンターで短剣を振り抜く。鋭い刃がカーライルの肩をかすめた。ロングコートの布が裂け、血が滲む。
「おいおい、油断が過ぎるぜ。」
ラヴァンは挑発するように笑う。その動きはまるで舞うように優雅で、美しさすら感じさせた。カーライルは眉一つ動かさずに双剣を構え直す。
「口がよく回るな。獣人ってのはそういう生き物か?」
冷静な声とは裏腹に、彼の双剣が動き出す。鋭い連撃が、今度はラヴァンを追い詰めた。風を切り裂く剣閃が幾重にも重なり、戦場の空気が一変する。
「速いじゃねえか。」
ラヴァンの瞳が鋭く細められる。
「だが…本気を出すとどうなるか、見せてやろう。」
金色の瞳が妖しく光を宿す。瞬間、彼の全身に圧倒的な気迫が漲った。
「――これが獣人の力だ。」
短剣を握るラヴァンの動きが、一気に加速する。ただ速いだけではない。鋭さと重さを兼ね備えた一撃が、カーライルの双剣を押し込んでいく。
「どうした? 人間の腕力じゃ、そろそろ限界か?」
ラヴァンは鼻で笑いながら、短剣にさらに力を込める。鋼が軋み、カーライルの腕に鈍い痛みが走る。しかし、彼の瞳は未だ冷め切ったままだった。
カーライルは双剣を握り直し、低く呟く。
「笑わせるな。狩られるのは、お前のほうだろ。」
轟音が響く。鋼が激しくぶつかり合い、火花が散る。ラヴァンの動きは獣そのもの。鋭い勘と本能的な技術が混ざり合い、刃がまるで生きているように襲いかかる。しかし、カーライルは一歩も退かない。
「なるほど、少しは楽しめるかと思ったが…」
ラヴァンが低く笑う。
「それじゃあ、牙を抜かれた獣と変わらねぇな。」
短剣に宿る圧倒的な重みが、カーライルの剣をじわじわと押し込んでいく。腕に痺れが走る。しかし、カーライルの表情は変わらない。
「…舐めた口を叩くな…!」
瞬間、双剣が閃いた。鋭い刃がラヴァンの頬をかすめ、赤い血が一筋流れる。ラヴァンの動きが一瞬止まる。
「…ほう?」
金色の瞳が、静かにカーライルを見据える。次の瞬間、不敵な笑みが口元に浮かぶ。
「やっと狩り甲斐が出てきたな。」
ラヴァンは短剣を軽く回しながら、囁くように言う。
「なら、獲物じゃなく、狩人として相手をしてやるよ。」
二人の間に漂う空気が、さらに研ぎ澄まされる。鋼と鋼が交錯し、火花を散らす激戦は、さらに熱を帯びていく。この勝負の行方は、まだ誰にも分からない。
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