(14)闇を暴く決意
広場に張り詰める緊張の中、監査官の冷たい声が響いた。
「これは驚いたな。領主の娘様が、こんな場違いな陰謀論を展開するとは。」
「だが、君の“意見”に誰が耳を貸すだろうか?」
皮肉めいた口調。挑発の意図を隠そうともしない。しかし、アルマは微動だにせず、真っ直ぐ彼を見据えていた。その毅然とした態度に、監査官の余裕がわずかに揺らぐ。
「私も特級ポーションの紛失を疑っていないわけではない。」
監査官は冷淡に言葉を継ぐ。
「だが、それを誰かに押し付ける証拠もない。」
「王子の側近全員の荷物を調べようものなら、不敬罪で処罰される。」
「私はただの監査官だ。騒ぎを起こせば、王子の儀礼に支障をきたす。」
「それを君が背負えるとは到底思えないが?」
監査官の言葉には挑発が込められていたが、アルマは冷静に受け止める。
「証拠がない限り、誰も動かないつまり、そういうことですね?」
彼女はゆっくりとローブのポケットに手を伸ばす。
その動作に、監査官の目がわずかに鋭く光った。
アルマは、静かに小瓶を取り出す。
龍の文様が刻まれた美しいデザイン。
中には、真紅の液体が揺れていた。
場の空気が一変する。
「これが証拠です。」
アルマの声には、冷静さと確信が溢れていた。
小瓶は暗闇の中で淡く光り、その存在が広場全体を支配する。
「これは第三王子の宿で発見しました。」
監査官の表情が変わる。
「隠蔽魔法を使い、探知魔法でマナの流れを追跡した結果です。」
「建物内には多くのマナ反応がありましたが…」
「特級ポーションのマナは際立って強かったため、目立っていましたよ。」
監査官の目が、小瓶に釘付けになる。
表情には、隠しきれない動揺が滲んでいた。
アルマは一歩前へ進む。
そして、小瓶を高く掲げた。
「あなたが何を企んでいるのかは分かりません。」
「でも、この証拠があれば、話は変わります。」
監査官の額に、汗が滲む。
手がかすかに震え始める。
「私がそんなことを…」
声が力を失い、言葉が続かない。
カーライルはその様子を見守りながら、小さく呟く。
(嬢ちゃん、本当にやりやがったな。)
(証拠を作るって、こういうことだったか…。)
「第三王子の儀礼に支障をきたすのは、むしろあなたの行動次第ではなくて?」
「ポーション工房の密造、特級ポーションの隠蔽――」
「領主の娘として、これ以上見過ごすわけにはいきません。」
その瞬間、監査官の表情が一変する。
焦燥と――決意。
監査官の手が、ゆっくりとコートの内側へ伸びる。
取り出したのは、黒く輝く魔石だった。
光を吸い込む、異様なオーラ。
「闇のマナが封じられた魔石…!」
アルマは目を見開く。
カーライルも即座に察知し、叫ぶ。
「嬢ちゃん、離れろ!」
その警告と同時に、監査官は魔石を宙高く放った。
魔石が、不気味な光を放つ。
空気が歪む。
次の瞬間――
黒い波動が放射状に広がり、広場全体を呑み込んでいく。
触れた瞬間、立っている感覚が消えた。
重力が狂う。
闇が、二人を引きずり込む。
「くっ…!」
カーライルは踏ん張るが、抗えない。
アルマも必死に体勢を整えようとするが――
波動が、全てを呑み込んでいく。
視界が闇に閉ざされる。
そして――
二人の姿は、広場から消えた。
静寂が戻る。
冷たい風が、何事もなかったかのように吹き抜ける。
監査官の姿も、消えていた。
広場には、月明かりだけが残されていた。
彼らの行方を知る者は、誰もいない。
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