表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
愚痴聞きのカーライル ~女神に捧ぐ誓い~  作者: チョコレ
第一章 霊草不足のポーション
16/189

(14)闇を暴く決意

 広場に張り詰める緊張の中、監査官の冷たい声が響いた。


「これは驚いたな。領主の娘様が、こんな場違いな陰謀論を展開するとは。」

「だが、君の“意見”に誰が耳を貸すだろうか?」


 皮肉めいた口調。挑発の意図を隠そうともしない。しかし、アルマは微動だにせず、真っ直ぐ彼を見据えていた。その毅然とした態度に、監査官の余裕がわずかに揺らぐ。


「私も特級ポーションの紛失を疑っていないわけではない。」


 監査官は冷淡に言葉を継ぐ。


「だが、それを誰かに押し付ける証拠もない。」

「王子の側近全員の荷物を調べようものなら、不敬罪で処罰される。」

「私はただの監査官だ。騒ぎを起こせば、王子の儀礼に支障をきたす。」

「それを君が背負えるとは到底思えないが?」


 監査官の言葉には挑発が込められていたが、アルマは冷静に受け止める。


「証拠がない限り、誰も動かないつまり、そういうことですね?」


 彼女はゆっくりとローブのポケットに手を伸ばす。


 その動作に、監査官の目がわずかに鋭く光った。


 アルマは、静かに小瓶を取り出す。

 龍の文様が刻まれた美しいデザイン。

 中には、真紅の液体が揺れていた。


 場の空気が一変する。


「これが証拠です。」


 アルマの声には、冷静さと確信が溢れていた。

 小瓶は暗闇の中で淡く光り、その存在が広場全体を支配する。


「これは第三王子の宿で発見しました。」


 監査官の表情が変わる。


「隠蔽魔法を使い、探知魔法でマナの流れを追跡した結果です。」

「建物内には多くのマナ反応がありましたが…」

「特級ポーションのマナは際立って強かったため、目立っていましたよ。」


 監査官の目が、小瓶に釘付けになる。

 表情には、隠しきれない動揺が滲んでいた。


 アルマは一歩前へ進む。

 そして、小瓶を高く掲げた。


「あなたが何を企んでいるのかは分かりません。」

「でも、この証拠があれば、話は変わります。」


 監査官の額に、汗が滲む。

 手がかすかに震え始める。


「私がそんなことを…」


 声が力を失い、言葉が続かない。


 カーライルはその様子を見守りながら、小さく呟く。


(嬢ちゃん、本当にやりやがったな。)

(証拠を作るって、こういうことだったか…。)


「第三王子の儀礼に支障をきたすのは、むしろあなたの行動次第ではなくて?」

「ポーション工房の密造、特級ポーションの隠蔽――」

「領主の娘として、これ以上見過ごすわけにはいきません。」


 その瞬間、監査官の表情が一変する。


 焦燥と――決意。


 監査官の手が、ゆっくりとコートの内側へ伸びる。

 取り出したのは、黒く輝く魔石だった。

 光を吸い込む、異様なオーラ。


「闇のマナが封じられた魔石…!」


 アルマは目を見開く。

 カーライルも即座に察知し、叫ぶ。


「嬢ちゃん、離れろ!」


 その警告と同時に、監査官は魔石を宙高く放った。

 魔石が、不気味な光を放つ。

 空気が歪む。


 次の瞬間――


 黒い波動が放射状に広がり、広場全体を呑み込んでいく。

 触れた瞬間、立っている感覚が消えた。


 重力が狂う。

 闇が、二人を引きずり込む。


「くっ…!」


 カーライルは踏ん張るが、抗えない。

 アルマも必死に体勢を整えようとするが――

 波動が、全てを呑み込んでいく。

 視界が闇に閉ざされる。


 そして――

 二人の姿は、広場から消えた。


 静寂が戻る。

 冷たい風が、何事もなかったかのように吹き抜ける。


 監査官の姿も、消えていた。

 広場には、月明かりだけが残されていた。

 彼らの行方を知る者は、誰もいない。

ページを下にスクロールしていただくと、広告の下に【★★★★★】の評価ボタンがあります。もし「続きを読みたい!」と思っていただけた際は、評価をいただけると嬉しいです。Twitter(X)でのご感想も励みになります!皆さまからの応援が、「もっと続きを書こう!」という力になりますので、どうぞよろしくお願いいたします!


@chocola_carlyle

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ