(18)仇成す者
階段を駆け上がり、ついに塔の最上部にたどり着いたカーライルとロクス。冷たい湿気が漂う空気が肌にまとわりつき、青白い光が不気味に揺れるその空間は、威厳と恐怖が交錯していた。石の床に響く足音が、静寂をわずかに破るたび、異様な緊張感が空間を満たしていく。
彼らの前に現れたのは、紫の装束を纏ったダークエルフの女。銀髪は青白い光を反射し、その瞳には復讐の炎が揺らめいている。冷たく整った顔に浮かぶ微笑みは、見る者を圧倒する冷酷さを帯びていた。
「ここまでたどり着いたか。」
静かに発せられたその声は、場の空気を支配するほどの威圧感を放っていた。
「嬢ちゃんを返せ。」
カーライルは剣を構え、一歩前に出る。その低く鋭い声には、怒りと焦りが滲んでいた。
ダークエルフの女は冷笑を浮かべながら、無数の魔石と月光花が脈動するように光を放つガラスで閉じられた格納庫を指差した。その中央には、横たわるアルマの姿があった。
「嬢ちゃん!」
カーライルが鋭く叫び、剣を握る手に力を込める。その瞳には、アルマを救い出そうとする一心が宿っていた。
女は冷淡に肩をすくめ、静かな声で言った。「彼女のマナはこの計画に欠かせない。月光花が使えなくなった今、彼女の膨大なマナが計画の完成に必要不可欠なのだ。」
ロクスは冷静な瞳で女を見据え、低い声で問いかける。「お前は何者だ?この計画とは何を指す?」
その声は静かでありながら、その場の空気を引き締める力があった。
女は口元をわずかに歪め、冷笑を浮かべた。「質問か。まあ、いいだろう。名を明かそう。我が名はゼフィア。ダークエルフの末裔だ。」
「ゼフィア…?」
カーライルが眉をひそめ、その名を繰り返す。その横で、ロクスは目を光らせながら女の言葉を促した。
ゼフィアはわずかに顎を上げ、冷たい笑みを浮かべ続けた。「我らが目的は一つだ──五百年前、我々の里から奪われた秘石を取り戻し、復讐を果たす。それが全てだ。」
「秘石…?」
ロクスが鋭い視線をゼフィアに向け、隣に立つカーライルも眉をひそめる。
ゼフィアは静かに語り始めた。「そうだ。お前たちが特級魔石と呼ぶそれは、神にも等しい存在の力を内包する魔石。我々の祖先が発見し、長きにわたり崇めてきた。我々ダークエルフの属性は闇。そして、その秘石の属性は光。正反対のその力と向き合うことが、我々をさらに高みへと導く鍵だった。」
その声には、秘石への深い敬意と失った苦痛が滲んでいた。「我々は秘石を通じてマナの研鑽を積み、召喚魔法を極め、かつての栄華を誇っていた。しかし、五百年前…。戦乱の中で傷ついた一人の魔法使いを助けたことで、その秘石は持ち去られた。その魔法使いこそ、お前たちが称える初代国王だ。」
「初代の王が盗人だったってことか。」
カーライルは低い声で呟き、その顔には怒りが浮かんでいる。「だがな、お前の言うことが事実だったとしても、嬢ちゃんを犠牲にしていい理由にはならねえ!」
さらに挑発するように、カーライルは剣を握り直し、ゼフィアを睨みつけた。「そんなにマナが欲しいなら、自慢の秘石とやらで鍛え上げたお前自身のマナを使えばいいだろう?」
ゼフィアは冷笑を浮かべ、淡々とした口調で応じた。「お前たちの国は女神を崇めているだろう?もし奪われたらどうなる?信仰を失い、心の拠り所を失い、力を失う。そんな状況を想像できるか?」
「…言わんとしていることは分かる。だが、自身の願いを叶えるために、他者の願いを踏みにじる者の話に耳を貸す気はない。」ロクスが静かに語ったその声には確信が満ちていた。
ゼフィアはロクスの言葉に一瞬だけ表情を揺らしたが、すぐに冷酷な笑みを浮かべ直した。「どれだけ言葉を重ねても平行線だな。お前たちは我の計画を阻む障害に過ぎない。」
「その障害を排除できると思っているのか?」
ロクスが冷ややかに問いかけた。その瞳には揺るぎない決意が宿っている。
ゼフィアは冷たく言い放つ。「もちろんだ。」
彼女が指を動かすと、床から無数のマナで編まれた光る鎖が現れ、カーライルを縛り上げた。
「くっ…!」
カーライルは双剣を振り上げようとするが、鎖に力を封じられ身動きが取れない。
「その剣も、その腕も、ここでは何の役にも立たない。この塔は我が完全に制御下にある。」
ゼフィアの声は冷たく響いた。
ロクスが一歩前に進み出た。彼の剣が青白い光を放ち、鋭く輝く。「この塔のマナの動きはもう把握した。天剣の騎士を舐めてもらっては困るな。」
ロクスが一振りで光り輝く鎖を断ち切ると、それは一瞬で消え去った。
「助かったぜ。」
カーライルが息を整えつつ、剣を構え直す。
ゼフィアは眉をひそめたが、すぐに冷笑を浮かべた。「王妃直属の…どおりで。魔法剣の腕前も納得だ。ならば、次はこれに耐えられるか試してみるがいい。我らが長き時をかけて磨き上げた召喚魔法を存分に味わえ…!」
彼女の足元に巨大な魔法陣が浮かび上がり、空間を眩い光が満たす。その脈動が遺跡全体を揺るがし、二人にさらなる緊張を強いた。
その時、不意に背後の扉が音もなく開き、鋭い声が空間を切り裂いた。
「おいおい、遺跡の罠で仕留めるって話じゃなかったのか?派手にやるもんだな。」
カーライルとロクスが振り向くと、そこには銀灰色の髪と鋭い金色の瞳を持つ男が立っていた。黒と赤を基調とした戦闘服を纏い、その全身から漂う威圧感は明らかに異質だった。
「もう一人いたのか…!」
ロクスが低く呟きながら剣を構える。
ラヴァンは肩をすくめ、ゼフィアを見た。「派手に魔法をぶっ放す前に、もう少し罠を有効活用しろよ。わざわざ俺たちが動くまでもないだろう?」
ゼフィアは冷淡な瞳でラヴァンを睨みつけた。「何を言っている。お前の国にとっても、このマナキャノンは欠かせないだろう?さっさと動け。侵入者を屠るぞ。」
ラヴァンは鼻で笑い、短剣を取り出しながら肩をすくめた。「はいはい、指揮官殿。余興の相手くらいにはなるだろうさ。」
「そいつは俺の相手だな。」
カーライルがラヴァンを睨みつけ、双剣を構える。その瞳には燃え上がる闘志が宿っている。
「なら、私はあの女を相手にする。」
ロクスが青い剣を静かに構え、ゼフィアに向き直る。
「ふん、力を試したいなら存分に相手をしてやろう。」
ゼフィアの冷たい声が響き、彼女の周囲に紫のマナが揺らめく。
ラヴァンは口元に薄い笑みを浮かべながら、カーライルに向かってゆっくりと歩み寄った。「さて、どんなもんか見せてもらおうか。」
ゼフィアが再び指を動かし、巨大な魔法陣がさらに輝きを増すと、ラヴァンも一気に距離を詰め、短剣を振りかざした。
戦場の空気が一瞬で切り替わり、激しい戦いが幕を開けた。
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