(17)作戦の保険
暗闇に包まれたマナ抽出庫には、深い静寂が漂い、機械音が微かな振動を伴って響いていた。冷たい青白い光を放つマナの粒子が装置の中を脈動しながら流れ、その不気味な輝きは空間全体を支配するかのように重々しい威圧感を放っていた。中央には、アルマが透明なガラスの中に閉じ込められ、その小柄な体が幽かに呼吸を示すだけで静かに横たわっている。
ゼフィアとラヴァンは、その光景を見下ろしながら、冷え切った声で会話を交わしていた。二人の間には緊張感が張り詰め、互いの思惑が交錯していた。
「なあ、ゼフィア。」
ラヴァンが壁にもたれかかり、気怠げな態度で口を開いた。その金色の瞳は装置の青白い輝きを捉えつつも、どこか鋭い光を宿している。「この遺跡、もし侵入者に邪魔されて止まっちまったら、あんたの計画はどうなるんだ?」
ゼフィアは視線を逸らさず、冷静な口調で答えた。「止まることはない。」
その声には揺るぎない確信が滲んでいた。「三十年だ。三十年をかけて我はこの遺跡を掌握した。魔法陣の構築、反応の最適化、マナの循環。どれ一つとして不備はない。我がいる限り、この遺跡が止まることはあり得ない。」
ラヴァンは鼻で笑い、壁を軽く叩く音を響かせた。「へえ、大した自信だな。だが、世の中ってのは、あんたがどれだけ計画を練ろうと、予測の外から何かが飛び込んでくるもんだ。」
その声には皮肉が混じりつつも、どこか鋭い洞察が隠されていた。「そん時の“保険”は用意してあるのか?」
ゼフィアは一瞬だけ目を細め、思案するような仕草を見せたが、その表情はすぐに冷徹なものへと戻る。「保険、ね…そういう言い方もできるかもしれない。」
「ほう、それで?」
ラヴァンが興味深げに片眉を上げ、促すように問う。
「東の国境近くにある活火山の内部に、似たような遺跡を確認している。」
ゼフィアは低く静かな声で答えた。その冷たい瞳は抽出装置の光を見つめたままだ。「まだ完全な調査は終わっていないが、その場所が何か重要なものを守っていることは間違いない。」
「活火山か…いい隠し場所だな。」
ラヴァンは苦笑を浮かべながら呟いた。「もしここがダメになったら、次はそっちってわけか。」
ゼフィアはラヴァンの軽口には取り合わず、鋭い視線を彼に向けた。「だが、覚えておけ。この遺跡を動かしているのは我だ。そして、この力があれば、王都を沈めるのは時間の問題に過ぎない。」
ラヴァンは肩をすくめ、口元に薄笑いを浮かべる。「そいつは頼もしい限りだな、“指揮官殿”。俺があんたのやり方に文句を言うつもりはねえよ。」
だが、その言葉の裏に潜む冷たさは明らかだった。
ゼフィアは冷淡な声で返す。「文句を言う暇があるなら、自分の役割を全うする準備をしておけ。」
「了解だよ、指揮官様。」
ラヴァンはわざとらしい敬礼をしながら皮肉めいた笑みを浮かべる。その瞳には冷酷さが潜んでいた。「もっとも、今のところはな。」
その一言にゼフィアが何か言葉を返すことはなかった。二人の間に張り詰めた沈黙が訪れ、抽出装置の青白い脈動だけが空間を埋め尽くしていく。その光は、二人の間に流れる不信と冷徹な計画を象徴するかのように揺らめいていた。
「ゼフィア…あんたの計画がどれほど完璧だろうと、どこかで綻びが出るもんだ。」
ラヴァンが低く呟いた。その言葉には、彼自身が感じる違和感と不信が滲んでいた。
「綻びを修正するのが我の役割だ。」
ゼフィアは即座に冷たい声で答えた。その目には揺るぎない決意が宿っている。「我の計画に障害はない。この遺跡の力が王都を沈める日、それが全ての終わりだ。そして同時に、始まりでもある。」
ラヴァンはわずかに笑みを深め、再び壁にもたれかかる。「その“始まり”がどんな結末を迎えるか…見物だな。」
ゼフィアの瞳が一瞬だけ彼を鋭く見据えたが、それ以上何も言わなかった。
再び沈黙が二人の間に流れ、抽出装置の青白い光が脈動を続ける。その光は、冷酷な計画の歯車が音を立てて回る様を暗示しているようだった。
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