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愚痴聞きのカーライル ~女神に捧ぐ誓い~  作者: チョコレ
第四章 解き放たれし影
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(14)計画の阻止

 アルマはぼんやりとした意識の中で目を覚ました。瞼を開くと、見慣れない光景が広がっていた。透明なガラスの部屋の中に閉じ込められた彼女の視界には、薄暗い空間と紫の揺らめく光が映り込む。その光は柔らかでありながら、どこか冷たさを伴い、不安を掻き立てるものだった。頭は重く、思考が鈍い。ぼんやりと周囲を見渡したアルマの目が止まったのは、ガラス越しに立つ一人の女性だった。


 その女性は、紫の装束を纏い、冷然たる美を放っていた。長く輝く銀髪が滑らかな弧を描き、深い青紫の肌が、闇の中でも際立っている。鋭い眼差しがアルマを射抜き、薄く引き締められた唇が冷ややかな笑みを形作っていた。その姿には気高さと威圧感があり、アルマは無意識に息を呑んだ。


「目覚めたか。」

 女性の低く冷たい声が、ガラス越しに響いた。「そのまま眠っていれば、苦痛を感じずに済んだものを。」


 アルマは声の方向を見つめながら、身体を起こそうとした。しかし全身が妙に重く、思うように動かない。「ここは…?」震える声が口をつく。


 女性はゆっくりと近づき、侮蔑の色を浮かべた表情で答えた。「『マナ抽出庫』に他ならない。お前のマナを砲撃のエネルギーとして搾り取る場所だ。」その声は冷酷そのもので、意図的にアルマの恐怖を煽るようだった。


「…マナを搾り取る?」

 アルマの胸に焦りが広がり、必死に状況を把握しようと目を走らせる。部屋の外側には、山積みになった魔石や人工魔石の破片が見えた。


「そうだ。お前は月光花の代用品としてここにいる。」

 女性は冷たく言い放ち、ゆっくりと歩み寄る。その動作は隙のない優雅さを伴い、まるで自分の支配を誇示するかのようだった。「仲間たちが無駄に足掻いている間に、お前のマナはすべて使い果たされる運命だ。」


 アルマの怒りが沸き上がった。「そんなことさせない!」

 彼女はガラスに向かって光の弾丸を放つ。しかし、閃光が壁に触れた瞬間、それは吸い込まれるように消え失せた。ガラスはびくともしない。


「無駄だ。」

 女性は冷笑を浮かべながら言い放つ。「その壁は、お前ごときの力で壊れるようには造られていない。もっとも、古代の遺物だ。その仕組みについては、我も知るところではないがな。」


 アルマが歯を食いしばり、突破口を探していると、ガラスの向こうにいる女性の背後の扉が音もなく開いた。そこから一人の男性がゆっくりと現れる。鋭い金色の瞳と銀灰色の髪を持つ高身長の男。黒と赤を基調とした戦闘服を纏い、獣人特有の威圧感を漂わせていた。彼は部屋を一瞥し、女性に向かって無駄のない動きで近づく。


「ゼフィア、いつまでやってる。」

 彼の低く冷ややかな声が響いた。「こいつ、黙らせてもいいか?」


 獣人は短剣の柄に手を掛け、今にも動き出しそうな気配を見せる。その鋭い視線がアルマに向けられた瞬間、彼女は無意識に身を竦ませた。


「やめろ、ラヴァン。」

 ゼフィアは冷ややかに制止する。その紫に輝く瞳は、まるで全てを支配しているかのようだった。「この娘はキャノンの材料だ。死なれては効率的にマナを抽出できなくなる。」


 ラヴァンは一瞬だけ眉をひそめると、短剣を離し、肩をすくめた。「好きにしな。」

 その言葉には不満の色が滲んでいるが、それ以上何も言わず、壁にもたれた。ゼフィアは冷たく微笑みながらラヴァンに軽く視線を送る。


 アルマは歯を食いしばり、強い意志を目に宿した。「私は、こんなところで終わらないわ!」


 ゼフィアはアルマを見下ろし、冷笑を浮かべた。「ならば、抗うがいい。その無駄な足掻きがどこまで通用するか、見せてもらおう。」


 ラヴァンはそのやり取りを黙って見物していたが、壁にもたれながらわずかに鼻で笑う。


「随分強気だな、ガラスの檻の中のネズミが。」

 ラヴァンは肩をすくめながら、皮肉たっぷりにアルマを一瞥する。「ゼフィア、お前もよく相手をしてやるもんだ。俺ならこんな無駄話に時間を割く気にもならないがな。」


「お前の単純さには感謝するべきかもしれないな。」

 ゼフィアは淡々と返しながら、紫に輝く瞳をアルマに戻した。「この娘がどれだけ抗おうと無意味だが、反応を見るのは悪くない。希望を絶望に変える過程には、少しの余興も必要だろう。」


 ラヴァンはゼフィアの言葉に興味を示すことなく、無造作に手を振り、光の板が動き出す様子をちらりと見た。「ああ、余興か。まあ見物と洒落込むさ。奴らも上手く踊らされてるようだしな。」


 ゼフィアは冷ややかな笑みを浮かべ、指先で光の板を示した。「見ろ。」

 その声に促されるように、アルマの視線が自然と光の板へ向けられる。そこには、カーライルとロクスが罠や仕掛けを突破しながら塔を登っていく姿が映し出されていた。


「二人とも…!」

 アルマの声に希望が滲む。その表情に一瞬でも安堵の色が見えたのを、ラヴァンは鼻で笑いながらゼフィアに顎をしゃくる。「ほら、いい具合に罠に誘い込まれてる。まるで虫だな、火に向かう蛾のようだ。」


 ゼフィアはその言葉を受け流すように無言で頷き、指を軽く鳴らした。瞬間、光の板に映る二人の足元から突如として鋭い槍が飛び出す。槍は二人を狙い、容赦なく迫った。


「やめて! 二人に手を出さないで!」

 アルマの叫び声が響くが、ゼフィアは冷たくその声を切り捨てた。「黙れ。」


 その瞳に宿る冷酷さが空間全体を支配しているかのようだった。「お前がどう喚こうと無駄だ。彼らの命が尽きるのを見届けるがいい。」


 その瞬間、ラヴァンが壁にもたれたまま、冷ややかな声を漏らした。「罠で片付けるなら、それが一番効率的だろう。」


 ゼフィアの隣に立つラヴァンが、光の板に映るカーライルとロクスの姿をじっと見つめていた。その鋭い金色の瞳には冷笑が浮かんでいる。


「わざわざ俺が出るまでもないだろう。」

 短剣の柄に軽く触れながら、ラヴァンは続けた。「この遺跡の仕組みなら、奴らをじわじわ屠るのに十分だ。無駄に動いて時間を浪費するのはごめんだ。」


 アルマは怒りと驚きでラヴァンを睨みつけた。「どうしてそんなことを…!」


 ラヴァンはアルマを一瞥し、嘲るように口元を歪めた。「どうしてだって? 簡単な話だ。この国はもう終わりだ。それに手を貸すのが俺の役目、それだけさ。」


「ラヴァン、余計なことを話すな。」

 ゼフィアが冷ややかな声で彼を制止する。その目は紫に輝き、圧倒的な支配力を漂わせていた。「お前が動く必要などない。罠が全てを解決する。」


「わかったよ、指揮官殿。」

 ラヴァンは肩をすくめ、短剣から手を離すと軽く笑った。「俺は観客席から見物させてもらうとするか。」


 アルマはその冷酷なやり取りに、焦りと無力感が胸中に渦巻くのを感じた。だが、彼女の中で希望の灯が完全に消えることはなかった。


「絶対に諦めない…!」

 その瞳に宿る光は揺るぎない決意へと変わり、アルマは反撃の機会を窺い続けた。

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@chocola_carlyle

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