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愚痴聞きのカーライル ~女神に捧ぐ誓い~  作者: チョコレ
第四章 解き放たれし影
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(13)古代の塔

 幻影の森を抜け、ロクスとカーライルは目の前にそびえ立つ巨大な塔を前に自然と足を止めた。その塔は、夜空を裂くように聳え立ち、黒く磨かれた石の表面が月光を冷たく反射している。まるで意志を持つかのように圧倒的な威圧感を放ち、不動の存在感で二人を見下ろしていた。


 門には複雑な模様と古代文字が刻まれ、薄青い光を揺らめかせている。その光は不規則に脈動し、生き物の鼓動のような不気味さを醸し出していた。冷たい風が吹き抜け、二人の頬を刺すような感触をもたらす。


「これが…嬢ちゃんが囚われてるって塔か。」

 カーライルは低い声で呟き、双剣を握り直した。その鋭い視線は塔の全貌を捉え、潜む何かを見極めようとしている。


「間違いない。アルマ様のマナは、この中から感じられる。」

 ロクスが剣を抜き、冷静に応じた。その声には緊張と決意が混じっている。

「だが、この場所に簡単に踏み込めるとは思えない。」


 カーライルは鼻で笑いながら門を見上げる。

「そりゃそうだ。こんな異様な文字が刻まれた門、普通の場所ってわけじゃなさそうだしな。」


 二人が一歩踏み出すと、足元の石畳が突如として青白い光を放ち始めた。その光は二人を識別するかのように蠢き、石畳の隙間から淡い輝きが広がる。遺跡全体が微かに震え、異様な静寂の中で低い機械音が空気を裂いた。


「…未確認の存在を検出。身元確認を実行中…」


 ロクスとカーライルは瞬時に構えを取り、声の出どころを探した。しかしその声は、塔そのものが発しているかのように四方から響いている。青白い光が二人の体を這うように動き、その動きはまるで隅々まで調べるかのようだった。


「気味が悪いな…なんだこいつは。」

 カーライルが顔をしかめ、不快そうに呟く。


「…ミスリルソードを確認。敵対勢力の可能性あり。マナ照合を開始…」


 空気がさらに重くなり、冷たさが一層増した。カーライルは剣を構え直し、一歩後退しながら不機嫌そうに呟く。

「…襲ってくるつもりか…?」


 間を置かず声が続いた。

「…一致する敵対マナなし。攻撃機構を停止…」


 カーライルは肩をすくめ、苦笑を浮かべる。

「おいおい、やっぱり攻撃する気だったんじゃねぇか。」


 ロクスは青白い光をじっと見つめたまま低く呟く。

「そのようだな。だが、まだ扉は開いていない。」


 次の言葉が放たれると、塔の静寂が再び破られた。

「…対象のマナ保有量を解析。本施設の再稼働に必要な閾値を満たすと判断。利用価値あり。扉を解放…」


 重々しい音を伴って門がゆっくりと開き始めた。塔の内部から冷たい風が吹き出し、闇の奥に潜む未知の気配が二人の警戒心を一層高める。


「利用価値だとよ。」

 カーライルは皮肉めいた笑いを浮かべて振り返ったが、次の瞬間、表情が険しく変わった。

「おい、くそっ…森からあの熊が追ってきやがる!」


 森の中から巨大な熊の気配がじわじわと迫ってきた。姿はまだ見えないが、肌を刺すような圧力が緊張感を増幅させる。


 ロクスが振り返り、冷静に状況を確認する。森の奥から巨大な影が揺れ動き、低い唸り声が響いた。

「このタイミングでか…。塔の中に入るのが先だ。ここでの戦闘は得策じゃない。」


「了解だ。」

 カーライルも即座に応じ、双剣を構えたまま塔の奥へと踏み込んだ。背後で門が重々しい音を立てて閉じ、その瞬間、外界との繋がりが断たれたかのような感覚が二人を包み込む。塔の内部には冷たい湿気が漂い、薄青い光が壁の装飾をぼんやりと照らしているが、その不気味な輝きが静けさをさらに際立たせていた。


「これが…本当の始まりか。」

 カーライルが低く呟く。その声は静寂に吸い込まれるように消えていった。


 ロクスは無言で頷き、鋭い目で周囲を観察する。壁に手を触れた彼は、その感触を確かめるように目を細めた。

「奇妙だ。この塔内のマナの流れが異常に整然としている。」


「どういうことだ?」

 カーライルが怪訝そうに尋ねると、ロクスは淡々とした口調で続けた。

「塔全体が魔導回路そのものだ。建物の一つ一つの構造がマナで完全に制御されている。この場所は単なる建造物ではない。」


「魔導回路ねえ…ってことは、俺たちの動きは全部筒抜けってわけか。」

 カーライルが軽口を叩くが、その声には緊張が滲んでいた。


 その時、塔の奥から低いうなり声が響き、空気が一瞬で冷たさを増した。肌を刺すような感触が広がり、二人の間に静かな緊張が走る。


「歓迎の儀式か?」

 カーライルが冗談めかして言ったが、その表情は硬いままだった。


「軽口はそこまでだ。」

 ロクスが冷静に制し、視線を塔の上部へ向ける。

「アルマ様のマナはこの塔の上部から感じられる。最上階を目指すぞ。」


「そう簡単には上がらせてくれなさそうだが。」

 カーライルが双剣をしっかりと構え、周囲への警戒を強めた。薄青い光が揺らめく中、二人の影が不規則に映し出されている。


 未知の脅威が潜む気配に満ちたその空間で、二人は互いに気を引き締めながら一歩ずつ前へ進む。その先に待ち受ける試練に挑む覚悟が、彼らの瞳に力強く刻まれていた。

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@chocola_carlyle

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