(13)静寂に響く告発
夜の広場に、冷たい静寂が満ちていた。
アルマは静かに深呼吸し、監査官の前に立つ。青い瞳には揺るぎない決意が宿り、彼を真っ直ぐに見据えた。
監査官は一見平然としていたが、その鋭い視線が彼女を警戒している。ごくわずかな動揺が、その態度の端々に滲んでいた。
「監査、ご苦労様です。」
アルマは穏やかな声で口を開く。
しかし、その柔らかな口調の奥には、冷徹な意図が隠されていた。
「先ほどの隠蔽行動は謝罪いたします。ただ、どうしてもお尋ねしたいことがありまして。」
監査官の眉がわずかに動く。
「私をつけてまで、何を聞きたいというのだ?」
「特級ポーションについてです。」
その言葉が広場の静寂を裂いた。
監査官の目がわずかに揺らぐ。
その変化を、後ろで腕を組んでいたカーライルは見逃さなかった。
「第三王子の特級ポーションが紛失された件、ご存じですね?」
アルマの問いかけに、監査官は一瞬言葉を詰まらせる。
だがすぐに冷静を装い、淡々と返答した。
「知っている。それが私にどう関係する?」
アルマは微笑みながら、一歩前に進んだ。
「監査官様ほどの方なら、特級ポーションの動きくらい簡単に把握できたはずです。」
「それが紛失するなんて、少し不自然ではありませんか?」
監査官の表情に、苛立ちが滲む。
「つまり、私が紛失に関与していると言いたいのか?」
「そんなことは一言も申し上げておりません。」
アルマは冷静に言葉を続けた。
「ただ、長旅でお疲れだったのでしょう。注意が行き届かなかったのかもしれませんね。」
監査官の額に、薄い汗が滲む。
それを確認したアルマは、さらに冷静に畳みかけた。
「実は私、王立魔法学院を首席で卒業しましたの。」
「マナの感知能力には少々優れておりまして…」
「王子様の宿から、非常に強いマナ反応を感じたのです。」
監査官の顔が、一瞬で引きつる。
「何を言いたい?」
アルマは冷ややかな笑みを浮かべた。
「特級ポーションが『紛失』したのではなく、誰かが意図的に隠したのではありませんか?」
監査官は沈黙を保ったまま、アルマを睨みつける。
だが、その沈黙こそが彼の焦りを浮き彫りにしていた。
「それだけではありません。」
アルマは鋭い目つきで言葉を続けた。
「一カ月前から、工房で特級ポーションが密かに作られていたこと。」
「そして、その免許付与が急がれている理由。」
「その背景に、監査官様が何も知らないはずはありませんよね?」
監査官の頬が引きつり、手が軽く震え始める。
その様子を見たカーライルは、後ろで静かに頷きながら内心で確信した。
(黒だな…間違いない。)
アルマは冷徹な眼差しで相手を見据えたまま、最後の一言を放つ。
「監査官様、この状況について、何かご意見をいただけますか?」
監査官は汗を拭うように額に手をやり、わずかに震える声で答えた。
「…何も言うことはない。」
その瞬間、アルマの冷静な笑顔がさらに深まる。
彼女の言葉と態度が、監査官の逃げ場を完全に塞いでいた。
沈黙が広がる。
広場の冷たい風が、監査官の敗北を冷たく嘲笑うように吹き抜ける。
カーライルは小さく息をつき、心の中で呟いた。
(嬢ちゃん…大したもんだな。)
夜の広場に響くのは、監査官の焦りを滲ませる沈黙だけだった。
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