(1)秘石と王家
「五百年前に我らの里から奪われた秘石を取り戻し、復讐を果たすこと。それがすべてだ。」
低く響くその声に、部屋全体の空気が一瞬にして凍りついた。紫の装束に身を包み、黒い褐色の肌に長い耳を持つダークエルフの女――その名はゼフィア。俺の前に立つ彼女の瞳は、冷徹さと執念が交錯する奇妙な光を宿していた。
「秘石…?」
ロクスが問いかける声には剣の刃のような鋭さがあった。あいつの視線がゼフィアに突き刺さる。
だが、彼女は一歩も引かない。まるで長い年月の中で固められた鋼のように、その声は揺るがなかった。「そうだ。お前たちが特級魔石と呼ぶそれは、神にも等しい存在の力を内包する魔石。我々の祖先が発見し、長きにわたり崇めてきた。我々ダークエルフの属性は闇。そして、その秘石の属性は光。正反対のその力と向き合うことが、我々をさらに高みへと導く鍵だった。」
語られる言葉のひとつひとつが、重い鉛のように俺の胸にのしかかる。ゼフィアの声には失われたものへの深い哀惜が滲み、その言葉の奥に隠された痛みが、薄い刃のように胸を刺してくる。
「我々は秘石を通じて研鑽を積み、召喚魔法を極め、かつての栄華を誇っていた。しかし、五百年前…。戦乱の中で傷ついた一人の魔法使いを助けたことで、その秘石は持ち去られた。その魔法使いこそ、お前たちが称える初代国王だ。」
その言葉を聞いた瞬間、全身が嫌な予感に襲われた。
また王家か――。
嬢ちゃんと行動を共にしてからというもの、王家が絡まない出来事など一つとしてなかった。監査官が語った都市を消滅させたと言われる王妃の話、第三王子のマナがダンジョンコアと異常なまでに同期した件――。
そして、つい先日まで滞在していた王都での出来事だ。あの死霊の軍勢を引き寄せた光の巨大な柱。フィオラが所持していたミラーゴーレムのコアが一因だと考えられるが、それだけでは説明がつかない。もう一つの巨大な光の柱は、王妃が長を務める王立魔法研究所の方角から立ち上ったものだ。二つの柱が同時に発生した偶然――そんなもの、あるわけがない。そして今度は、初代国王がダークエルフの「秘石」を盗んだ張本人だという話。
この国は一体どうなっている? 王家はいったい何を企んでいるんだ? それとも何か――いや、もっと恐ろしい何かを隠しているのか?
ダークエルフの告げる言葉は、俺の胸に重くのしかかった。その言葉の背後にどれほどの真実があるかは分からない。だが、彼女の声には揺るぎない確信が込められていた。その確信は、これまで俺が見てきたどんな敵よりも鋭く、そして重いものだった。
そしてダークエルフの瞳――そこにはただの復讐心だけが宿っているわけではなかった。彼女が守りたかったもの、そして失ったもの――それらの重みが、まるで足元から這い上がる鎖のように俺たちを縛りつけ、進むべき道を絡め取ろうとしてくる。
何が蠢いているのか、その正体はまだ分からない。だが、それが俺たちにとって避けられない新たな試練になるという事実だけは、もう疑いようがなかった。
「秘石」――か。すべての鍵は、その名の下に閉ざされているように思えた。
─
時は少し遡る。
あれは、王都を旅立った翌日のことだっただろうか─
─
ページを下にスクロールしていただくと、広告の下に【★★★★★】の評価ボタンがあります。もし「続きを読みたい!」と思っていただけた際は、評価をいただけると嬉しいです。Twitter(X)でのご感想も励みになります!皆さまからの応援が、「もっと続きを書こう!」という力になりますので、どうぞよろしくお願いいたします!
@chocola_carlyle