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愚痴聞きのカーライル ~女神に捧ぐ誓い~  作者: チョコレ
第三章 建国の女神様
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(65)懸念の告白

 フィオラが戦闘中にお互いが分断された後の出来事を冗談交じりに語り始めたとき、部屋には和やかな空気が広がっていた。彼女の明るい笑顔と軽快な語り口が、戦いの緊張をほぐし、カーライルもアルマも自然とその話に引き込まれていった。しかし、ふいにフィオラの表情が曇り、彼女の肩がわずかに落ちた。その変化はあまりにも唐突で、カーライルとアルマは驚きつつも、無言のまま彼女の次の言葉を待った。


「うちらはみんな無事でよかったかもしれんけど…王都は大変なことになってしもうた。」


 その声は小さく、まるで遠い記憶に触れるかのような響きだった。フィオラの視線は窓の外へ向かい、瓦礫に覆われた街の光景に引き込まれていた。崩壊した建物、くすぶる煙──その全てが、破壊と混乱の生々しい爪痕を物語っていた。彼女の瞳には、言葉に表せない後悔と、深い責任感が浮かび上がっているように見えた。


「実はこれ…ウチが魔具に加工しようとしてたミラーゴーレムのコアが、今回の原因かもしれんのや。」


 その言葉が発せられた瞬間、部屋の空気は一変して重く沈んだ。フィオラの普段の明るさは消え去り、声の裏に潜む深い責任感と不安が浮かび上がる。カーライルとアルマは、フィオラの真剣な表情を見つめ、言葉なくその続きを待ちながら、彼女の言葉にじっと耳を傾けた。


「うちのリュックに詰めてあった素材のマナが、全部コアに吸い取られてしもうてな。それでウチが慌ててるうちに、コアが限界迎えて急にピカァって輝き出したんや。もう、怖くなって窓から投げてしもうた。」


 フィオラは自らの行動を振り返るように語り、その表情は次第に重くなっていった。


「そしたら、光の柱が立ち上がってな…その後や、死霊の軍勢が王都に押し寄せてきたんは。」


 部屋の空気はさらに重苦しくなり、フィオラのいつもの軽快な語り口は影を潜め、代わりに深い悔恨の色が滲み出ていた。普段は軽やかで責任を表に出さない彼女だったが、この時ばかりは、自らの行動が引き起こしたかもしれない大惨事に対する重い責任感が彼女を捉えていた。その声はかすかに震えていたが、彼女は逃げることなく、事態の重大さに正面から向き合っていた。


 アルマは少し考え込んでから、慎重に口を開いた。


「…確かに何か影響があったのかもしれないわ。でも、真の原因は別にある気がするの。王立魔法研究所から巨大な光の柱が上がったのを見たでしょう。」


 彼女はその光景を思い返すようにして、静かに言葉を紡ぎ出した。


「その直後、モンスターたちが一斉に現れた。だから、何か大きな魔法の実験か、予期せぬ事故が起きたんじゃないかしら。」


 アルマの言葉が部屋に響き渡ると、再び静けさが訪れた。窓の外に広がる荒廃した街並みを見つめるアルマの横顔には、冷静さと共に不安の色が漂っていた。


 その時、外からざわめきが突然響き渡った。フィオラは一瞬驚いたように目を見開き、音の方へ反応する。彼女の視線がドアへ向けられ、その静寂を切り裂くように立ち上がる動作が急だった。


「なんか外が騒がしいな。何や?」フィオラが不意に呟いた。その声には、いつもと違うわずかな緊張が含まれていた。彼女の言葉に反応するように、アルマも静かに椅子から立ち上がり、フィオラに続いてドアの外へと視線を向けた。


 廊下には、普段は静かな宿泊客たちが慌ただしく動き始めており、食堂へと急いで足を運んでいる様子が目に入った。ざわめきが広がり、宿の廊下全体が急に活気を帯びている。普段の平穏な雰囲気とは一変したその様子に、アルマは眉をひそめた。


「王妃様からの正式表明が、魔導回路で流れるらしい!」と、宿泊客の一人が興奮気味に叫ぶ声が遠くから聞こえた。その表情には、ただならぬ事態が告げられる予感が滲んでいる。


 もう一人の宿泊客、冒険者らしき男が仲間に声をかけていた。「復興に向けて、新しい仕事の依頼も増えるかもな!」その言葉には期待が混じっていたが、同時に不安を振り払うかのような響きもあった。


 食堂に向かう人々の足音が次第に増え、ざわめきは宿全体に広がっていった。アルマはフィオラに目を向け、短く言葉を発した。「何か大きな発表があるみたい。急ぎましょう。」


 フィオラも無言で頷き、二人は軽く目配せを交わすと、すぐに足早に食堂へと向かい始めた。アルマの顔には焦燥の色が浮かび、フィオラの表情も次第に引き締まっていく。


 その後ろ姿を、カーライルは静かに見守っていた。周囲のざわめきが遠ざかる中で、彼は重く横たわった体をゆっくりと起こす。戦闘の疲労が全身に染み込んでおり、筋肉が悲鳴を上げるかのように痛んだ。それでも、その痛みを無視するようにして、彼は決意を持って体を動かし始めた。


 彼はじっとしたままではいられないと感じた。アルマとフィオラが急ぎ足で向かった食堂へと、自分も行くべきだと心の中で決めた。ゆっくりと立ち上がり、足に力を込める。痛みは残っていたが、足取りは確かだ。彼は一歩ずつ、しっかりと廊下を進み、ざわめきが広がる方向へと向かって歩き出した。





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