(11)陰謀の道筋
第三王子がダンジョンの儀礼に挑む二日前の朝。冷たく澄んだ空気の中、カーライルとアルマは魔石屋の近くで顔を合わせた。
朝日に照らされたアルマの金色の髪は輝き、青い瞳には強い決意が宿っている。 一方、カーライルはぼさぼさの髪にくたびれた表情。対照的な二人の姿は、不思議な調和を保っていた。
「準備はいいか?」
カーライルが短く問いかける。
抑えた声の奥には、相手の覚悟を試すような響きがあった。
「もちろん。」
アルマは力強く頷く。その言葉には迷いがない。二人は無駄な会話を省き、魔石屋へと向かう。しかし、店に到着すると、予想外の光景が広がっていた。店内は職人たちが忙しく動き回り、店主が声を張り上げて指示を飛ばしている。
外には「立ち入り禁止」の看板。
何かが始まっていることは明白だった。
「朝から大わらわか…厄介だな。」
カーライルは眉をひそめ、店内の様子を観察する。表情には苛立ちが浮かぶが、冷静さは崩さない。アルマも沈黙を保ちつつ、目の前の状況を的確に把握している。
その時、店主がカーライルに気づき、声をかけた。
「お前、こないだ深夜に魔石を買いに来た冒険者だろ? 墓地に行くとか言ってたよな。」
「まぁ、そんなとこだ。」
カーライルは淡々と答える。
店主は苦笑しつつ、忙しそうに続けた。
「悪いが、今は監査の準備で手一杯なんだ。三年に一度の面倒な時期でな。夜まで待ってくれりゃ対応するが、今は無理だ。」
「分かった。夜にまた来る。」
カーライルは肩をすくめ、あっさりと引き下がる。焦りを見せず、その場を後にした。アルマも黙って後を追う。計画が狂った苛立ちを感じつつも、それを表に出さない。むしろ、監査官の動きが新たな手がかりになるかもしれないという期待が、彼女の中で膨らんでいた。
二人は近くの憩い処へ足を運び、暖かな空間で腰を下ろす。温かい飲み物が冷えた体を少しずつ癒していく。
「酒以外を飲んでるあなたを見るの、初めてかも。」
アルマが薄く笑いながら口を開いた。
「状況が状況だからな。」
カーライルは無表情のままコーヒーを一口飲む。その冷静な態度が、逆にアルマに安心感を与えた。アルマは表情を引き締め、真剣な声で話を切り出す。
「もし監査官が黒なら、言い訳の準備は完璧でしょうね。」
「そうだな。一カ月以上前から準備してたなら、簡単に隙は見せない。」
カーライルも冷静に応じる。
「焦れば、こちらが不利になるだけだ。」
「だから、揺さぶりをかけるの。」
アルマの瞳には鋭い光が宿る。
「特級ポーションの話を出して反応を見る。」
「それで何か引っかかれば、『盗まれたポーションを見つけた』と切り込む。」
「なるほどな。」
カーライルは腕を組み、考え込むように一瞬沈黙した後、頷く。
「隠し事があるなら、何かしらボロを出すだろう。」
「でも、慎重にやらないと墓穴を掘る。」
彼の指摘に、アルマはふっと笑みを浮かべた。
「証拠なら作ればいいわ。夜まで時間はある。私に任せて。」
その自信に満ちた言葉に、カーライルは何も言わず彼女を見つめ、頷くにとどめた。二人はそれぞれの思惑を胸に、静かに次の一手を練り始める。冷たい朝の空気が、二人の間に張り詰めた緊張感を漂わせていた。
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