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愚痴聞きのカーライル ~女神に捧ぐ誓い~  作者: チョコレ
第三章 建国の女神様
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(62)過去の亡霊

 ──見渡す限り、純白に覆われた無限の地平が広がっていた。


 それは、どこかで見た覚えがあった。アルマやフィオラと共に潜ったダンジョンの最奥部と酷似していたが、ここには異様なまでの静寂と、言いようのない圧倒的な虚無感が支配していた。


 果てしなく続く白一色の空間は、一見すると神聖で静謐な雰囲気を醸し出していたが、その奥には得体の知れない恐怖と、不安が深く沈み込んでいた。まるで全てを飲み込むようなその白さが、カーライルの心に重くのしかかり、彼の呼吸を浅くした。周囲には何もなく、ただ彼一人がこの無限の空間に放り出されている。その冷たく孤独な感覚は、まるで彼の存在すらこの場所にふさわしくないと嘲笑うかのようだった。


 彼が身に纏う深紅のコートだけが、その白の空間に異様なまでに浮き立ち、逆に彼がこの場所に取り残されたことを強く象徴していた。純白の無限の広がりの中で、カーライルの存在だけが異質なものとして浮かび上がっている。


「ここは…?」


 虚ろな思考の中で、カーライルは呟いた。だが、返答はなく、空間はその問いすらも飲み込んでいく。これは夢なのか、現実なのか、それすらも彼には判別がつかない。心に鮮烈に残っているのは、デスサイズとの戦いの記憶だけ。アルマに人工魔石を投げ渡した瞬間まで覚えていたが、そこからどうやってこの場所に辿り着いたのか、その経緯はまるで霧のように曖昧だった。


「ここが…死後の世界、なのか?」


 彼の唇に浮かんだ皮肉な笑みは、その言葉と共に虚無に吸い込まれ、周囲にはただ彼の足元に広がる淡い波紋だけが、彼の存在を微かに主張しているかのようだった。


 突然、その静寂を打ち破るかのように、空間全体に不気味で低い声が響き渡った。


「ようやく来たか…久しいな。」


 その声にカーライルは鋭く反応した。瞬間的に彼の胸が強烈に締めつけられ、目の前に現れた影が視界に飛び込んできた。その姿は、まるで遠い記憶の中から引きずり出されたように懐かしくもあり、同時に底知れぬ恐怖を呼び起こすものだった。黒い革の上着を纏い、無数の金属留め具がまるで鎧のようにその体を守っている。若々しく、力強い姿がそこにあったが、そこから漂う異様な気配は明らかに人ならざるもののそれだった。


 カーライルの胸が激しく鼓動し、彼の思考をかき乱す。目の前のその男が誰であるのか、すぐには理解できなかった。だが、彼の内側で湧き上がる感覚が告げていた――「知っている」と。視線は自然とその男が握りしめている双剣に引き寄せられた。黒い雷を纏うその双剣は、まるで獣のように揺らめき、冷たい闇の稲妻を放っていた。その剣には見覚えがあった。否応なしに脳裏に浮かび上がる荒々しく握り締められた手、狂気に満ちた瞳――そのすべてが、次第にカーライルの意識の中で形を成していく。


 そして、カーライルは気づいた。目の前に立つその男が、十年前の「自分」だということに。


「お前は…俺なのか?」


 震える声で、カーライルは言葉を漏らした。それは、虚無に消え入りそうなほどかすかな囁きだった。だが、目の前の存在は答えを待つまでもないとばかりに冷ややかに笑みを浮かべ、静かに首をかしげた。その動作には嘲笑とともに、容赦のない冷酷さが刻まれていた。


 十年前――あの日、彼が背負ったすべて。罪、後悔、そして自らの手で奪った命。その重みが今、無限に広がる白い空間でカーライルの胸にのしかかっていた。この場所は、彼が心の奥底に封じ込めた記憶と向き合うための、逃げ場のない舞台であった。


「そうだ…十年前のお前自身だ。」


 低く響く声が、彼の心に容赦なく現実を叩きつける。長らく封印してきたはずの過去が、いま具現化し、目の前に立ち現れている。それはまるで亡霊のようであり、彼の記憶の暗い深淵から蘇った若き日の自分だった。忌まわしい記憶とともに立つその姿は、彼の心を引き裂こうとするように容赦なく迫っていた。忘れ去ろうとした罪、背負い続けてきた苦しみが一気に彼に襲いかかり、その重圧にカーライルの内側は激しく揺れ動く。彼は無意識に後退しようとしたが、足元の無限に広がる白い空間は無情にも彼の逃亡を許さず、冷たく彼を包み込んでいた。


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@chocola_carlyle

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