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愚痴聞きのカーライル ~女神に捧ぐ誓い~  作者: チョコレ
第三章 建国の女神様
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(60)記憶の面影

 円環に還す――それは命を奪うことを意味する。ロクスの冷徹な視線が、十年前の罪を背負うカーライルを見据えていた。その目には、過去の記憶を抉り出すような鋭さと、彼を否定し断罪する冷たさが宿っていた。言葉の一つ一つが、過去の亡霊を呼び覚まし、罪を暴こうとするかのように響いた。


 アルマはその様子に身震いし、胸が締め付けられる感覚を覚えた。ロクスの言葉の重みが、冷たい闇となって足元に広がり、彼女をその場に縛りつけていた。


「それから私は天剣の騎士団に身を投じた。二度と失わないために…守るべき者を守るために。」


 低く静かなロクスの声には、秘められた激情と過去の痛みが滲んでいた。だが、視線が再びカーライルに向けられると、冷たい怒りが燃え上がった。


「だが、こいつはどうだ。ただ酒に溺れ、ダンジョン近くの酒場で日銭を稼ぐだけの無様な男に成り果てた。その噂を耳にしたとき、騎士団を抜けて斬りに行こうとさえ思った。」


 その言葉には、かつての仲間への失望と怒りが鋭い刃のように込められていた。見るたびに堕落した彼の姿が、過去の栄光を覆し、ロクスの憎悪をさらに煽っていく。


 ロクスは迷いなく剣を抜いた。冷たい刃が光を反射し、運命の宣告をするかのように空気を裂いた。


「救う価値のない存在だ。ここで私が引導を渡してやる。」


 その言葉には、長年抱え続けた怒りと苦悩が色濃く滲んでいた。その重さが戦場の空気をさらに張り詰めさせたが、アルマの中に眠っていた感情をも呼び覚ました。


「やめてください!」


 震える声で叫ぶアルマが静寂を切り裂いた。恐怖を押し殺しながらも宿る強い意志が、ロクスの冷たい視線を正面から受け止めていた。


「彼は…そんな人じゃない!」


 彼女の言葉が響き、冷たい空気を揺らした。


「確かに彼は不器用で、時々何を考えているのかわからない。でも、いつだって私を支えてくれた。愚痴ばかりの私を、何も言わずに引っ張ってくれた。もちろん、報酬はきっちり要求するけど、それでも私の側にいてくれる。」


 アルマは声を強め、熱を込めた。


「だから…彼をそんなふうに、勝手に決めつけないで!今の彼のことを、何も知らないくせに!」


 その言葉はロクスの心に突き刺さり、閉ざされていた記憶を引きずり出した。アルマの情熱が、長い間固く閉ざされていた扉を開いた。その瞬間、彼の目に映るアルマの姿が過去の幻影と重なった。


 ─「勝手に決めつけないで!あなたは私のこと、何も知らないくせに!」─


 その声がロクスの記憶に鮮やかに蘇り、彼の冷徹な怒りがわずかに揺らぐ。記憶の中に押し込められていた感情が呼び起こされ、彼の瞳に一瞬の苦悩が浮かんだ。


「…そうか、そういうことか…」


 呟きに、辿り着いた悟りが滲んでいた。アルマにかつて失った者の面影を見たのだ。それが彼の胸に新たな痛みを刻み込んでいた。


「カーライル…お前は、十年前の幻影を彼女の中に見ているんだな…」


 低く抑えたロクスの声が場を包む静寂を裂いた。その言葉には、過去の嘆きと現実の苦さが込められていた。アルマとの視線が再び交わり、重苦しい空気が戦場を覆った。


 ロクスは深く息を吸い、剣をゆっくりと鞘に収めた。その動作は、彼自身の葛藤を終わらせるようだった。


「そいつのことは、君の好きにすればいい。」


 淡々とした声には、怒りと憎しみをようやく手放そうとする疲労感が滲んでいた。振り返らず歩み去る彼の背中は、過去の重荷を背負いながらも前に進もうとする意志を示していた。


「君たちを守るために協力を求めた女性は…天剣の騎士団の基地で安全に保護されているはずだ。そこで合流するといい。」


 その冷たい声は使命感を帯び、言葉が霧の中へと消えるのと共に、彼の姿も消えていった。残された静寂の中、アルマは膝をつき、カーライルの手をそっと握る。指先に伝わる温もりが、彼女の心を支えていた。


「カーライル…私は…信じてるよ…」


 囁く声は小さいながらも揺るぎない信頼と希望を宿していた。冷たい風に乗るその声は、彼の心に届くことを願うかのように響き渡っていた。

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@chocola_carlyle

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