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愚痴聞きのカーライル ~女神に捧ぐ誓い~  作者: チョコレ
第三章 建国の女神様
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(59)戻らぬ円環

 アルマは、デスサイズが消滅した瞬間、安堵の波が胸に広がるのを感じた。だが、その喜びは束の間だった。彼女の視線が捉えたのは、倒れたまま微動だにしないカーライルの姿だった。彼が自分に人工魔石を託すため、命を懸けたことを知るアルマの心には、深い痛みと焦りが押し寄せた。


「カーライル…!」


 切迫した声を上げながら、アルマは迷いなく彼のもとへ駆け寄った。瓦礫の上で足を取られそうになりながらも、彼に辿り着くという一心で全身を突き動かしていた。荒れ果てた大地を踏みしめる足音が、静まり返った戦場に響き渡り、その音が彼女の焦燥を代弁しているようだった。


「お願い、目を開けて…カーライル!」


 彼の体を抱き起こしながら、アルマは震える声で彼の名を呼び続けた。冷たい頬に触れた瞬間、胸が締め付けられるような苦しみが襲った。涙が浮かぶのを堪えながら必死に彼の顔を覗き込むが、カーライルはまるで命が抜け落ちたかのように静かだった。


 アルマは恐怖と絶望に駆られ、震える手で彼の肩を強く抱き寄せる。


「お願い…生きていて…」


 涙が彼女の頬を伝い、大粒の雫がカーライルの頬に落ちる。その時――アルマの指先にかすかな温もりが伝わった。驚きと共に、彼の胸元に手を当てる。微かだが確かに、彼の心臓が脈打っているのを感じた。


「息がある…!」


 アルマは息を飲み、込み上げる感情を抑えきれず再び彼の名を呼んだ。その声には安堵と喜びが溢れていた。生きている――その事実が彼女の胸に小さな希望を灯し、先ほどまでの恐怖を押し流していく。


「よかった…本当に、生きてる…」


 震える声でそう呟きながら、アルマは涙を拭うことも忘れてカーライルを抱きしめた。彼の荒い呼吸が耳に届くたび、彼女の胸には感謝と安堵が広がっていった。その瞬間、彼の存在がどれほど大切か、改めて痛感した。溢れ出る感情を抑えることができず、彼女の瞳には再び涙が浮かんだ。


 しかし、その温かな瞬間は、鋭く冷たい声によって切り裂かれた。


「無様だな…」


 ロクスの声が戦場に響き渡り、アルマは反射的に振り返った。そこには、崩れ落ちたカーライルを冷ややかに見下ろすロクスの姿があった。その目には怒りと深い軽蔑が宿り、冷徹な瞳がアルマの心を突き刺す。


「見ただろう、さっきの戦いを。あの双剣を、無様に振り回していただけだ」


 その言葉には、冷たい怒りと深い失望が込められており、まるで凍てついた刃のようにアルマの心を貫いた。信じたくない現実が目の前に迫り、アルマの胸は痛みで締めつけられる。反論しようとしても、声が出ない。


「かつて私をも圧倒した、マナと体術を巧みに組み合わせた我流の双剣技──今ではその面影すら残っていない…」


 ロクスの言葉は、冷たく鋭い刃のように戦場に響き渡り、その一言一言がアルマの心を深く抉る。彼の無情な言葉が押し寄せるたび、胸の奥に重い痛みが広がった。涙がこみ上げてくるのを必死に堪えながら、アルマは震える体を支え、崩れ落ちそうになる膝を押さえつけた。そして、震える声で問いかける。


「どうして…そんな酷いことをおっしゃるのですか?彼とあなたの間に、一体何があったんですか…?」


 アルマの声には、恐れと戸惑いが混ざり合っていた。ロクスは目を閉じ、まるで深い記憶の中に沈み込むような表情を浮かべる。長い息を吐き、その吐息には、過去の重さと今も消えない痛みが滲んでいた。再び目を開いたロクスの瞳には、怒りだけでなく、深い苦悩と絶望が宿っていた。


「十年前…こいつは、私の大切な人を、無惨にも円環に還した。」


 その声は重く、言葉が紡がれるたびに、ロクスの胸に刻まれた深い傷が露わになっていく。彼の言葉には、抑えきれない憎しみと、どうしようもない後悔が混じっており、その声は過去の亡霊が蘇るかのように場を漂った。


「円環に還した…?まさか、カーライルが…?」


 アルマの声はかすれ、信じたくない現実が彼女の胸に重くのしかかった。「円環に還す」――それが何を意味するか、アルマにはわかっていた。その重い言葉がもたらす現実に、彼女は呆然と立ち尽くすしかなかった。


「そうだ…あの時、私は無力だった。」ロクスは低く呟きながら、視線をカーライルに向けた。「目の前でこいつの刃が──私の大切な人を貫く、その瞬間をただ見ていることしかできなかった。止めることも、救うこともできなかったんだ…。」


 ロクスは深く息を吸い込み、長い間胸に押し込めていた痛みを振り払おうとするかのように、ゆっくりと息を吐き出した。その声には、長年抱えてきた無力さと後悔、そして取り返しのつかない過去への絶望が染み込んでいた。そのすべてが彼の姿に重くのしかかり、冷たい風が彼の銀の鎧を静かに揺らしていた。

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@chocola_carlyle

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