(58)天を裂く
アルマとロクスの前に現れた光の障壁は、まるで神々の守護そのものであるかのように鉄壁のごとく屹立し、デスサイズが放つ闇の力を一切寄せ付けず、ことごとく跳ね返していく。デスサイズの鎌が障壁にぶつかるたびに戦場には凄まじい衝撃音が響き渡り、ギィン…ガキィン…!その神々しい防壁は闇の猛攻を完全に受け止め、侵攻を一歩も許さない。振り下ろされる闇の鎌も、障壁の前では無力に弾かれ、光の障壁は揺らぎ一つ見せることもなかった。
「光の帳…!」アルマはその壮麗な光景に目を見張りながら、脳裏に女神の聖堂で聞いた伝説の言葉が鮮明に蘇る。
──女神は光り輝く天幕を降ろし、迫りくる敵の猛攻から我らを守ったと伝えられています。その聖なる天幕は加護の天幕と呼ばれ、どんな攻撃も遮り、内にいる者たちへと絶対の安全を約束しました──
その神聖な言葉を胸に抱きながら、アルマは静かに、しかし確かな決意を込めて口を開いた。
「加護の天幕…!」
彼女の声が響いた瞬間、柔らかな輝きを放つ光の天幕が、ロクスの剣へとまるで導かれるように集束していった。その光は次第に強さを増し、剣全体が神々しいオーラに包まれていく。まるで天の意志がそのまま具現化したかのように、ロクスの剣は純白の光を宿し、単なる武器ではなく、神の加護を体現する聖剣へと変貌を遂げる。
同時に、ロクスの全身を包む金色の装飾が施された鎧が、天から降り注ぐ光を受け、眩い輝きを放ち始めた。その細部に至るまで緻密に施された装飾は、黄金色の神聖な光を放ち、その輝きがまるで神の祝福そのもののように戦場全体を包み込んでいく。その金の光は、まるで光そのものが生命を宿したかのように躍動し、ロクスの姿を光の戦士として浮かび上がらせた。見る者たちの心に畏怖と崇敬の念を抱かせ、戦場に立つ全てを圧倒する存在感を放っていた。
さらに、ロクスの隻眼の琥珀色の瞳もまた、光を受けて輝き出す。その瞳には、鋭い意志と揺るぎない覚悟が宿り、聖なる力を宿すその光が、彼の決意を如実に物語っているようだった。
「女神様の真似事に過ぎないが…これこそ天剣の騎士団が誇る神聖なる盾…!」
ロクスの声は静かでありながら、鋼のように重く力強い響きを持っていた。その言葉は戦場の隅々まで届き、闇に覆われた空気を切り裂く。
彼が手にした剣は燦然と光を放ち、その刃から溢れる一筋の輝きが闇を切り裂き、瘴気を清浄にする。その剣が振られるたび、戦場には浄化された風が吹き渡り、邪悪な存在はその光の力に押し流されていった。その光景はまさに天上から下された神の裁きそのものであり、周囲の兵士たちはその威容に圧倒され、ただ立ち尽くすしかなかった。
ロクスは剣を高く掲げ、全身に神聖な光を纏いながら、デスサイズに向かって一歩一歩進んでいく。その足取りには一片の迷いもなく、その背中からは揺るぎない信頼と安心感が伝わってくる。
「そして盾は、守るだけではない…!」
静寂を切り裂くように、ロクスの声が再び響いた。その声は言葉ではなく、力そのものとして戦場全体に轟き渡る。
「神聖なる盾は、王都を脅かす牙を断つ剣ともなる!女神に守られしこの地を穢した報いを、今ここで受けよ!」
その言葉には揺るぎない正義と覚悟が込められ、戦場を覆う闇すらも圧倒する力を感じさせた。ロクスの声が響き渡ると同時に、彼の剣がさらに眩い光を放ち、その輝きは暗黒に覆われた戦場を押し返そうとするかのように拡散していく。
「加護の天閃!」
ロクスの叫びと共に、剣から一閃の光が天を裂くように放たれた。それはただの一撃ではない。天の意志そのものが具現化したかのように、清らかな輝きをまとった光の刃が、デスサイズに向かって一直線に突き進んでいく。瘴気に包まれた戦場を切り裂き、進む先には浄化された空間だけが残った。暗黒に覆われていた戦場は、その瞬間、光の道が刻まれ、世界そのものが清められていくかのようだった。
デスサイズは、巨大な鎌を振り下ろし、光に抗おうとした。しかし、その刃が光に触れた瞬間、鎌は粉々に砕け散った。闇の力がいかに強力であっても、神聖な光の前では無力だった。鎌は完全に無力化し、闇は光の力に飲み込まれていく。まるで砂が風に吹き飛ばされるかのように、デスサイズの巨大な鎌は跡形もなく消え去った。
光の刃は、迷いなくデスサイズの巨体を貫いた。闇に包まれていた死神の身体は、光に飲み込まれ、その存在は瞬く間に消え去っていく。圧倒的な光の力の前で、デスサイズは無力だった。死神の巨体は崩壊し、闇に包まれていた姿が光に溶け込むように消滅していった。
その時、デスサイズの絶叫が戦場に響き渡った。それは、絶望と恐怖が入り混じった断末魔の叫びだった。まるで世界の終わりを告げるかのように、その声は戦場全体に広がり、空気を震わせた。しかし、その叫びも長くは続かなかった。光がデスサイズの体を完全に覆い尽くすと、その叫びは次第に弱まり、ついには完全に消え去った。デスサイズの身体は真っ二つに切り裂かれ、その残骸は闇と共に風に散るように消え失せていった。
デスサイズの消滅と共に、戦場に漂っていた重苦しい恐怖もまた霧散した。長い戦いによって張り詰めていた緊張の糸がぷつりと切れ、戦場には深い静寂が訪れた。光に浄化された大地は、闇に支配されていたことがまるで嘘のように感じられるほど、清らかで穏やかな静けさに包まれていた。
「やった…!」
アルマは、その瞬間に息を詰め、戦場を包む光の光景を見つめた。デスサイズがもたらした恐怖と絶望は、ついに光の力によって完全に打ち破られた。彼女の胸には、戦いの終焉と聖なる光による救いが広がり、ほっとした安堵の感覚が満ちていく。
すると、徐々に東の空に変化が訪れた。夜の闇が薄れていき、戦場を覆っていた暗黒の幕が一筋の光によって引き裂かれていくようだった。やがて、地平線の向こうから薄紅色の朝焼けが現れ、少しずつ大地を照らし始めた。それは、まるでこの戦いに勝利した彼らを祝福するかのようだった。輝きを増していく朝の光は、デスサイズの消滅と共に訪れた静寂を包み込み、清らかな空気と新たな希望をもたらしていた。
薄紅の光が次第に橙色へと変わり、空全体を染め上げる。空の端に顔を覗かせた朝日は、荒れ果てた大地にも新しい命を吹き込むかのように暖かい光を広げていく。まるでこの朝日が、長い戦いを終えた者たちを優しく癒すように、大地と空を一体にして温かな輝きで満たしていくのだった。
戦場には、もはや闇の影はなく、すべてが光に包まれていた。朝焼けの訪れは、新たな時代の幕開けを告げるかのようであり、デスサイズの恐怖に打ち勝った彼らに、静かに平和をもたらす約束の光だった。
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