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愚痴聞きのカーライル ~女神に捧ぐ誓い~  作者: チョコレ
第三章 建国の女神様
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(44)騎士の抱擁

 ヒュージスケルトンが崩れ去った後も、戦場は依然として不気味な沈黙に包まれていた。フィオラの視界には、無数のグールやゴーストがなおも蠢き、彼女を取り囲むように迫ってきていた。その恐怖の中、銀色の鎧をまとった騎士は微塵の迷いもなく剣を構え直す。


 その剣は、まるで風そのものが動いているかのように軽やかに振るわれ、同時に圧倒的な力を秘めていた。一振りごとに光の軌跡を描き、グールたちは瞬時に一刀両断される。その斬撃には死の裁きそのものが宿り、斬られた者は再生する間もなく腐敗した体を崩れ落とした。それは単なる剣の技ではなく、神聖な力を感じさせるほどの圧倒的な光景だった。


 さらに、騎士の剣が空を裂くたびに、ゴーストたちはふっと消え去る。消滅というよりも、存在そのものが抹消されるかのように、何の痕跡も残さずに霧散していく。その異様な現象にフィオラはただ息を呑むしかなかった。絶望に包まれていた戦場は、騎士の動き一つで浄化されていく。彼の存在はまるで神話の中の英雄のようで、周囲の空気さえ彼に呼応しているかのように感じられた。


 フィオラはその光景に呆然と立ち尽くしていた。先ほどまで彼女を取り囲んでいた死と絶望が、まるで幻だったかのように一変していく。騎士の一撃ごとに、戦場は少しずつ静寂を取り戻していった。


 モンスターがすべて討ち滅ぼされ、静寂が完全に訪れたとき、騎士はゆっくりと剣を下ろし、警戒を解いた。重い金属音を響かせながら兜に手をかけるその動きには、余計な力が一切なく、洗練された美しささえ感じられる。そして兜が外され、露わになった顔――その隻眼は深い傷跡に覆われていたが、残された琥珀色の瞳は驚くほどの輝きを放っていた。


 その瞳は冷静かつ鋭く、戦場を見渡す彼の威厳を際立たせていた。だが、フィオラに視線を向けた瞬間、それは一変して柔らかな温もりを宿した。隻眼の騎士はフィオラの無事を確認するように目を細め、彼女に微かな安堵を与える表情を見せた。その瞳には、戦士としての厳しさと同時に、弱き者を守る使命感が確かに宿っていた。


 フィオラは、どこか夢の中にいるような感覚でその瞳を見つめた。自分を守ってくれたこの人物の存在は、戦場に降り立った唯一の希望そのものに思えた。その胸中に、恐怖の代わりにじんわりと安堵が広がっていく。


「もう安心していい。これからは私が守る。」

 穏やかな声がフィオラの耳に届く。その声には圧倒的な信頼感と落ち着きがあり、激しい戦いの記憶を嘘のように和らげていく。だが、その安らぎに浸る間もなく、フィオラの胸には仲間──アルマとカーライルのことが蘇った。


「…あ、あっちに、大事な人がいるねん…!」

 震える声で絞り出すように言ったその言葉には、切実な思いが込められていた。騎士の優しい瞳に触れた瞬間、彼女の中の不安と焦りが堰を切ったように溢れ出した。しかし、その瞬間、過度の緊張と疲労が一気に押し寄せ、彼女の身体は限界を迎えた。力が抜け、視界がぼやけていく中で、フィオラはその場に崩れ落ちる。


 騎士は一瞬の躊躇もなく、彼女の体を抱き上げた。その動きは力強く、それでいてどこか優しさを感じさせた。軽く、疲弊しきったフィオラの体を腕に抱えた彼の顔には、何としても守り抜くという揺るぎない決意が宿っていた。


「すまない、まずは君を守る。それから必ず仲間を助けに行く。」

 冷静でありながら力強いその声が、フィオラの意識の残響に響いた。彼は周囲を注意深く見回しながら、一歩ずつ確実な足取りで安全な場所へと向かう。重い戦場の空気の中、騎士の存在はまるで唯一の光明だった。


 揺れる感覚に意識を取り戻したフィオラは、ぼんやりと彼の銀色の鎧を見上げた。冷たい金属の感触とは対照的に、彼の腕から伝わる温かさが彼女を包み込んでいた。その温もりに安堵しながらも、胸の中にくすぶる不安が完全に消えることはなかった。アルマとカーライルがまだこの混乱の中にいる──その思いが彼女を再び駆り立てようとするが、疲れ果てた身体は動かず、ただ彼の腕の中に身を委ねるしかなかった。


 戦場を離れる騎士の足音は規則正しく、どこか安らぎさえ感じさせた。その音に耳を傾けながら、フィオラの心は静かに落ち着きを取り戻していった。彼女の胸に去来する不安を理解しているかのように、騎士の佇まいは揺るぎなく、守護者としての役割を全うする意志を語っていた。

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@chocola_carlyle

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