(9)繋がる陰謀
夜の酒場に漂うわずかな静けさを、カーライルは味わうように座っていた。目の前で泡立つエールのジョッキが、淡い灯りを反射して揺れる。
「免許の話はさておき、もう一つ。」
カーライルはジョッキをテーブルに置き、慎重に口を開く。
「一見関係なさそうな話だが…第三王子が十五歳の儀礼でダンジョンに潜るって話、聞いてるか?」
アルマは一瞬目を見開くが、すぐに冷静さを取り戻す。
その表情には強い意志が宿り、声に確信がこもる。
「昨夜、お父様から三日後の儀礼に同行するよう言われたわ。」
彼女の話はさらに続く。
「移動中に、第三王子のアイテムバッグが消えたらしいの。特級ポーションも中に入ってたとか。」
カーライルの眉間がわずかに寄る。
「アイテムバッグが…消えた、ね。」
「そうよ。」
アルマの声には、怒りと苛立ちが滲んでいる。
「そのせいで、私に光属性の魔法で治療役を頼むって話になったのよ。歩くポーション代わりにされるなんて。」
カーライルは軽く苦笑する。だが、頭の中ではすでに話を整理し始めていた。アイテムバッグの紛失、特級ポーションの消失…それが単なる偶然ではないとするなら?背後に何らかの意図があると考えざるを得なかった。
アルマの愚痴が続く。
「ポーションがないなら、工房に相談すればいいじゃないって父に言ったの。でも、工房に特級ポーションを急いで発注したら、『中級免許しかないから作れない』って断られたみたいなの。」
「それだけじゃなく…」
アルマの表情が険しくなる。
「工房長が父に直接お願いしてきたらしいの。『第三王子に同行して街に来た監査官様に、ポーション工房への特級免許を領主として進言してほしい』って。」
カーライルは腕を組み、考え込むように目を細めた。
「なるほどな…でも、その紛失はつい最近、起こったんだろ?」
「ええ、昨日よ。」
「なら、一カ月前から霊草が不足してるって話と、妙に噛み合うな。」
アルマは鋭い視線をカーライルに向ける。
低い声で問いかけた。
「どういうこと?」
カーライルはジョッキを指で軽く弾く。
静かな酒場の中、その音だけが小さく響いた。
「工房が一カ月も前から霊草を使い込んでいた理由がわからなかったが…」
彼はゆっくりと口を開く。
「もし、特級ポーションを事前に作る必要があったとしたら?」
アルマは息をのむ。
その言葉の意味を咀嚼しながら、彼の推測の重みを理解していく。
「しかも、その特級ポーションが『消える』ことを最初から見越していたなら…」
カーライルは鋭く言葉を切る。
「つまり…」
アルマの瞳が見開かれる。
「紛失じゃなくて、計画的に盗まれた可能性があるってことね?」
カーライルはゆっくりとジョッキを置く。
その硬い瞳には、疑念を越えた確信が宿っていた。
「そうだな。」
低く、確信に満ちた声で答える。
「アイテムバッグの消失、霊草不足、工房の免許問題…すべてが繋がっていると考えるべきだ。」
アルマは強く頷く。
だが、その表情にはどこか影が差していた。
「まさか…」
彼女は小さく呟く。
「お父様が…盗難に関わって…?」
アルマの呟きは、彼女の動揺を如実に示していた。
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