(35)魔導の騎兵
王城の一室――第三王子シオンの私室は、威厳と静謐を兼ね備えた空間だった。装飾を極力排した端正なデザインの中にも、王族としての気品が漂っている。壁を成す重厚な石材は冷たい静寂を湛え、部屋全体にひんやりとした冷気が漂う。部屋の片隅には、王族の象徴たる装束が無造作に置かれ、ここが戦いの場へと向かう覚悟を秘めた場所であることを物語っていた。
シオンの鋭い紅い瞳は、赤いマナで形成された王都の精巧な盤面を見据えていた。その瞳孔はわずかに開き、わずかな変化すら見逃すまいと集中している。室内には、彼の鋭敏な意志と冷徹な覚悟が満ち、静けさの中に緊張感が支配的だった。
「魔導騎兵、起動。」
低く響いたシオンの声が部屋にこだまし、盤面の中心に位置する王城の象徴が金色の光点となって浮かび上がる。それはゆっくりと数を増やし、都全体がまるで生きているかのように柔らかな光を脈打たせ始めた。深い石壁が微かに震え、どこか遠くで古の魔導機構が目覚める音が低く響く。
やがて、王城の奥深くに隠されていた巨大な石壁が、重々しい音を立ててずれ動いた。その奥から現れたのは、長き眠りから目覚めた白銀の鎧を纏う兵士たち。彼らの鎧は冷たい光を帯び、瞳に灯る赤い輝きが、王家のマナに応じて命を得たかのような威厳を放っていた。冷たく張り詰めた空気の中、彼らの存在は圧倒的な重厚感と神秘的な静寂を伴っていた。
無言の軍勢として進み出た魔導騎兵たちの動きは、揺るぎない秩序と静けさの中で統制されていた。その一歩一歩は大地を震わせ、金属の響きが冷たい空気を鋭く切り裂く。その行進には悠久の歴史と王家への絶対的な忠誠が宿り、見る者を圧倒する威厳が満ちていた。
赤い瞳の光が一斉に煌めくとき――それは、敵にとって絶望の予兆であり、王都にとっては静かな希望の象徴であった。 騎兵たちが無言で進む姿は、不滅の鋼鉄の壁のように堅固であり、彼らが築き上げる陣形はまさに王都を覆う防壁そのものだった。
一方、城内の衛兵たちはその壮麗な光景に目を奪われ、自然と足を止めていた。若き衛兵の一人は、その荘厳さに圧倒され、身動きが取れずに立ち尽くしていた。その隣で、ベテランの衛兵が穏やかな笑みを浮かべ、静かに語りかけた。
「魔導騎兵だ――王家に仕える、マナで動く兵士たちだ。必要なときにだけ、こうして目覚める。」
若き衛兵は、赤い瞳の群れを恐る恐る見つめたまま、震える声で問い返した。「これが…魔導騎兵…?」
「そうだ。俺が若い頃、一度だけその姿を見たことがある。あのときも無言で、だが確実に戦場を制圧していった。彼らは王家の力そのものだ。」ベテラン衛兵は懐かしむように目を細めながら続けた。
その言葉を裏付けるように、魔導騎兵たちは城門を抜け、規則正しい歩調で王都を守る陣形を形成していく。赤い瞳が冷たく光り、その鋼鉄の体には無限の力が宿っているかのようだった。見る者はその無言の圧力に威圧される一方で、同時に安堵すら覚えていた。
ベテラン衛兵は、新人の肩を軽く叩きながら言葉を続けた。「だが、俺たちの役目はここだ。あいつらが戦う間、城を守るのは俺たちだ。油断するなよ。」
その言葉に背中を押された新人衛兵は、動かなくなっていた体を奮い立たせ、武器を握り直した。城門を越えた魔導騎兵たちが作り出す荘厳な光景は、王家の不滅の意志と、その守護者たる者の誇りを余すところなく映し出していた。そして、王都に迫る敵の影へと冷ややかに進軍していく魔導騎兵たちの行進は、まるで古の神々が降臨するかのような圧倒的な威容を示していた。
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