表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ただいま、僕の帰る場所  作者: 西邑亮多郎
一節 母の想いと子の夢
17/31

十七話 体裁

結婚を急く歩は、大学を辞めて結婚する事を考えるが、社長夫妻は勿論、彼女である真由美からも反対される。

そうした中、歩はどうして行くのか?

 世に、結婚は勢いだとかタイミングだとか言う声を聞く中、奥さんは私達が結婚する為に何を優先しなければ成らないかを諭してくれた。そして更に、

「それに、私達が心配してるのは、前に歩君にも言った事なんだけど、歩君の事より寧ろあなたの事なの、真由美さん!」

 彼女へ向かい、真剣な顔で言うと、

「独り身の女性の所に、得体の知れない男が出入りしてると、ご近所で変な噂が立ってしまうし、変な目で見られたりして晴夏ちゃんにも良い事無いわ!」

 そう言った奥さんの言葉は、私に向かっても釘を刺してる様に思え、大学を卒業する迄は会う事も制限され、更には結婚なんて以ての外と言われた様な気がした。

『そんなん言われるんやったら、学校辞めて働きに出れば結婚出来るちゅう事やん!』

 奥さんの心を推し量る事も出来ず、ふて腐れた思いに成った私は、

「そんなら、僕は学校辞めて働きます。

 それで、彼女と結婚します。」

 自分の覚悟を示すつもりで言った途端、御夫妻より早く彼女が、

「それは駄目!

 お母さんが、どんな思いでお金を残してくれたと思ってるの!?

 そんな大事なお金で行かせて貰ってる大学なのよ!

 一円足り共無駄にしたらバチが当たるわ!

 お母さんや、御夫妻の思いを無駄にする様な事をさせる位なら、私は歩君との結婚を諦め無いと行けないわね!

 私はそんな事をさせる位なら、歩君が卒業する迄幾らでも待つから、皆の思いを無駄にしない為にも、学業を疎かにしないで卒業する事を最優先にして欲しい!」

 言い終わる頃には、彼女の怒りに高ぶった心は収まり、十分に落ち着きを取り戻して居たが、口を開いた時の剣幕と言ったら、それは筆舌に尽くしがたい程、それはもう今迄に見た事も無い程の形相であった。

 それに些か気後れした私は、

「なら、結婚する為にも卒業せなアカンって事やんな!?」

 ふて腐れ気味に言ったのへ、

「そうよ、当たり前じゃない!

 私と晴夏も、歩君がうちに来てくれる事は本当に嬉しいけど、先ずは私達の事より歩君自身の事を優先して欲しいの!

 私達親子を気遣って下さる御夫妻には、大変失礼で気分を害されるとは思いますが、私自身の体裁なんて事より、私は先ず歩君の事だけが心配でしょうが無いの!

 だから、歩君が卒業する迄は、お互いの為に節度を以てお付き合いして行かないと、二人共が共倒れにだって成りかね無いのよ!」

 きっぱりと言い切った彼女の顔を見て、私は彼女の本気と言う物を見た気がした。

 私と彼女の遣り取りを黙って聞いて居た社長さんと奥さんだったが、

「母さんが言うてた通りの人遣ったな!」

 ポツリ言った社長さんの言葉に、傍らの奥さんが頷いたのを見て、不思議そうに顔を見合わせる私達を、ほのぼのとした表情で見る御夫妻の微笑みがあった。

「歩からあんたの事を聞いてたかみさんが、あんたはきっと良い子やから、二人の結婚を許してあげたらどうって言う様に成ったんやけど、儂はそんなええ人が今の世の中そうそう居る訳無いやろうって思うとった!

 けど、今日あんたに会うて、さっきの歩との会話を聞いた途端、儂ももう二人の事を反対する理由は無いなぁって痛感した。」

 そう言ってくれた社長さんではあったが、諸手を挙げて許してくれる事はしなかった。

「只な、結婚を前提に付き合う言うても、誰の目も気にせんで付き合うって成ると、そらぁ互いの家が許さんと話しに成らん。

 そうした上で、結婚するにも筋道ちゅうもんはしっかり通さなアカン。

 そうした事は、古来から日本では当たり前の事でな。両家への挨拶から始まり、仲人を決め結納を交わすって言う儀礼があるんや。

 けど、今日その儀礼の一つ、歩の親代わりの儂らに二人して会いに来てくれたから、漸く二人の付き合いを許す事が出来る。」

 私の保護者である社長さん御夫妻に、そう言って貰う事が出来た事は、私達に取ってはこの上ない喜びであった。

 結婚の許しを得た私達であったが、社長さんが言った通り、次は栗原さんのお母さんから結婚の許しを貰わなければ成らない。

「後は、真由美さんのお母さんから、ちゃんと結婚の許しを貰った上で、堂々と結婚を前提に付き合ってくれたら良い。」

 そう言ってくれた社長さんへ、

「有り難う御座います。

 そう言って頂いて、安心しましたし嬉しく思って居ます。

 正直な所、バツイチ子持ちの私ですから、歩君とのお付き合いを許して頂けるとは思ってもみませんでした。

 ですが、好きに成った気持ちはどうしようも無くて、どうしたら解って頂けるだろうってずっと悩んで居たんです。

 でも、今日こちらにお邪魔して、本当に良かったと思って居ます。

 あの様に言って頂いて、本当に有り難く感謝しかありません。

 ですので、私も御二人のお気持や、亡く成られた歩君のお母さんの気持ちに応えたく、歩君が大学を卒業する迄は結婚をするつもりはありませんし、節度をもったお付き合いをする為にも、以前の様に家へ来て貰うのを控えたいと思います。

 御二人がお気遣い下さって居る事、私も肝に銘じて暮らさないといけませんし!

 そこで、私から一つお願いがあります。

 今みたいに、歩君がしょっちゅう来るようじゃ、私は勿論、歩君迄良く見られる事が無いのは解ります。

 ですから、厚かましいお願いですが、これからは私達がこちらへお邪魔させて頂くのは駄目でしょうか?」

 尋ねた彼女へ、

「そうね!

 そうした方があなた達の為には最善かも知れないわね!?」

 奥さんが即答したのへ、彼女は嬉しそうに頭を垂れながら奥さんへお礼を言うと、すかさず私の方へと向き直り、

「歩君、大丈夫よ!

 あなたが卒業する迄、結婚を待つ事なんて苦じゃ無いし、それ迄会えなく成る訳でも無いんだから。」

 私を励まそうと言ってくれた彼女の言葉であったが、当の私に取っては励ましにも成らない言葉として耳へ届いた。

 一方、彼女の言葉を聞いた御夫妻には、より一層安心するに十分な説得力を持った言葉の様だった。

 そうした大人達の会話を頭上に、並べられた昼食を食べていた晴夏ちゃんを見て、

「さぁ、話しはこれ位にして、温め直すから折角用意した料理を食べて頂戴。

 晴夏ちゃん、どう美味しい?」

 聞いた奥さんへ、

「うん、美味しい。」

 と答えた晴夏ちゃんの言葉に、奥さんは満面の笑みを以て答えるのだった。

 用意された料理の数々は、大人四人と子供一人でも食べ切れる量では無かったが、その料理の数々は彼女と晴夏ちゃんの気持ちをほぐし、更には社長さん御夫妻との距離を縮めるに十分であった。

「真由美さん、お口に合うかしら?」

 奥さんが聞いたのへ、

「はい、とっても美味しいです。

 私達の為に、これだけの料理を用意して頂いて、大変だったでしょうに有り難う御座います。」

 心からの感謝に、

「良かったら、残り物で悪いけど持って帰って頂戴ね。」

 奥さんの言葉に、彼女は本当に喜んで居ると言った面持ちで礼を言った。

「うん、やっぱりこの(ひと)が奥さんに成ってくれるのが、歩に取ってはほんまに良いと言う事やな母さん!?」

 本心から出た社長さんの言葉に、

「そうね、お父さん。」

 賛同した奥さんは、社長さんと見詰め合いながら何かを確認する様に微笑むと、

「ほな、今日栗原さんに来てもろた、もう一つの理由(わけ)を話さして貰おうか!」

 突然切り出した社長さんは、

「実は今日、真由美さんに来て貰ろたんは、歩の付き合ってる人がどんな人か知るのは勿論やが、あんたさんがどれだけの覚悟を以て付き合ってるのか知りたかったからなんや。

 こんな事言ったらあんたに失礼とは思うけんど、あんたが只一緒に成りたいってだけで付き合っとるんやったら、儂らは歩や歩の将来を考えてくれん(ひと)には、幾ら好き合うてる言うても任せる事は出来んし、将来的にも結婚を認めるつもりは無かったんや。

 けど、あんたが心底歩の事を気遣ってくれてるのは、ほんまに痛い程よう解った!

 歩が今直ぐにでも一緒に成りたいって言うのを、あんたは感情だけでのうて歩の事をよう考えて抑えてくれた。」

 唸る様に言った社長さんに続いて、

「そんなあなたの心根を知ったから、私達は安心してあなたを歩君のお嫁に迎える事が出来るの。」

 嬉しそうに、奥さんが続けた。

 この御夫妻の言葉は私を元気付けたが、それ以上に彼女の心を楽にさせたのだろう。

 それ迄の彼女の顔には、何かしら決意に満ちた表情が浮かんで居たが、

「本当に、有り難う御座います。

 正直な所、私は前夫に死なれてから、実家や妹弟、それにこの子の面倒を見るだけで一杯一杯でした。

 ですから、日々生きるのが精一杯で、再婚なんて考える余裕すら無かったんです。

 けれど、歩君と出会って、その優しさや思い遣りに頼もしさを知り、私はいつしか歩君が年下だと言う事さえ忘れる位、徐々に歩君の人柄に惹かれ頼る様に成ったんです。

 気が付けば、私はいつしか歩君との結婚を夢見る様に成って居ました。

 ですが、私は離婚歴のある子持ちです。

 歩君とは不釣り合いで迷惑に成ると、そうした気持ちを押し殺しながら、諦める事も出来ずお付き合いを続けました。

 それに、万が一歩君が結婚を考えてくれたとして、結婚生活の為に学業が疎かに成ったり、折角通ってる大学を辞めたりしないかと言う不安もあって、歩君の大事な人生を私が駄目にしかねないと気掛かりでした。

 そんな時、こちらに呼んで頂けたので、正直な気持ちを申し上げた上で、私の事を理解して頂き許して頂こうと。

 そして、交際を許して頂けるなら、先の事を御相談しようと思って居たんです。 

 ですけど、そう言う事を話す前にお付き合いを許して頂けたので、私も誤解されない付き合いをする覚悟で居ます。

 歩君が大学を卒業する迄、私は学業を邪魔しない程度に、節度を持ってお付き合いさせて頂くつもりです。」

 彼女は、決意を以て言い切った。

 この彼女の言葉を聞いて、

「どうや、母さん。

 儂は良いと思うんやけどなぁ。」

 言った社長さんに、

「そうですねぇ、お父さん。

 私も良いと思います。」

 それはそれは嬉しそうに返した奥さんへ、頷いた社長さんは、

「歩、栗原さん。

 儂らは歩を預かった時から、歩の結婚相手に理想を持っておってな。

 今日、栗原さんの本心がよう解って、その理想を叶えていると確信したんや。

 で、聞いて欲しいんやけどな!?」

 その言葉に私と彼女は、それ迄の少し緩んだ気を引き締めると、居住まいを正し御夫妻へ向き直した。

 それに釣られる様に、晴夏ちゃん迄もが神妙な顔付きと成ったのへ、

「あらあら、晴夏ちゃん迄!?

 そんなに構えんでも良いんやで。

 あんたらにとっても、儂らにとっても良い話しをするつもりやから。」

 にこやかに言った社長さんとは対照的に、私達は余計に何事かと緊張する事と成った。

 それを察したのか、奥さんが、

「もう、お父さんたら。

 そんな含みを持たす言い方じゃ、駄目じゃ無いの!

 けどね、お父さんがこう言う物言いに成るのも解るのよ。

 私だって、この話が決まれば、どれだけ嬉しいか解らないんだもの。

 だから、早く話して頂戴、お父さん!」

 喜びを早く分かち合いたいと言わんばかりに、奥さんは社長さんを急かした。

「そやな!

 いつ迄も勿体振る訳にもイカンから、そろそろ本題に入るとするかいな。」

 私達三人の顔を順々にマジマジと見詰め、

「歩、真由美さん、そして晴夏ちゃん。

 実はな、儂らは真由美さんが来る前から、あんたが儂らの思う様な人遣ったら、一緒に暮らすんはどうやろうって話してたんや。

 せやから、真由美さんは歩の許嫁としてここに住んでくれたらええと。

 一緒に暮らせば歩も学業に身が入るやろうし、栗原さんも周りの目を気にする事も無く成るやろ。

 それにな、二人が学校や働きに行ってる間、儂らが晴夏ちゃんの面倒を見る事も出来る。

 儂らも、孫が出来たみたいで嬉しいしな!

 どうやろ?

 用意する部屋が狭かったら、別棟を建てても構わへんって思うとる。

 別棟やったら、二人は儂らを気にせんと気兼ねのう自分らの暮らしが出来るし、そんなん気が引けるって言うんなら、近所にアパートでも借りてくれて構わへん。

 兎に角、どやろ先ずは試しに一緒に暮らしてみるちゅうんは?」

 このご夫妻の提案は、私達を驚かすに十分過ぎる物で、私は喜びと困惑と言う相反する感情を旨の内で戦わせる事に成った。

 私は、彼女がどんな風に話を聞いて居るのだろうかと気に成り、横に座る彼女の表情をそおっと盗み見た。

 と其処には、彼女の頬を伝う涙を見る事と成った。

 驚いた私は、思わず彼女へ訳を聞こうとしたが、一寸先に、

「どうしたの真由美さん、大丈夫!?」

 問う奥さんが居た。

社長さん夫妻の提案を受け入れた歩と真由美の将来はどうなるのか!?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ