外伝・弐『太陽姫の目覚め』前編
序章『太陽姫の誕生した国』
聖国ジルクネーヴの近隣の辺鄙な国
この国は…『**』の大権を宿す『神の使徒』を奉る国である
名は…『太陰国シュリメール』
現在は王子である『ライト=フルード』に『**』の大権が継承されているとされている
そんな国の王族には…汚点と呼ばれる王女がいた
血筋は真っ当…出来も良い…しかし、彼女はその国全体から煙たがられる
その理由は…『太陽』の権能を宿しているから
太陰国シュリメール 王都 王城内
その席には…王子『ライト』と謎の人物が向かい合って座っていた
『ライト』の護衛は…その人物に殺意を向けている
『それで?…計画は順調ですか?』
「…『支配者』殿…わざわざ確認の必要はない…計画は順調に実行中です」
『…『処刑人』君…それならば…私からは何も言わないよ…『神の簒奪人』の名の下に…己の役割を果たすと良い』
「何故…新興の国の『建国主』を狙うのか…教えていただけないのですか?」
『…あの『神の使徒』と私…いいや…我々には並々ならぬ因縁があるのだよ…新たに加入した君に理解しろとは言わないがね…』
「そうですか…」
ライトはその人物を見つめる
『…そういえば…君の妹君はどうしたのかね?』
ライトはその質問に…歯を噛み締める
「無礼者め!」
その瞬間…護衛の1人が剣を抜き…叫びながらその人物に斬りかかる
しかし…その護衛の剣がその人物に辿り着く前に…護衛の首が落とされる
もう1人の護衛が動こうとするのをライトが制する
「よせ…無駄に犠牲になりたいか」
『私は…人間の感情の機微には疎くてね…不快な発言をしたのなら謝罪しよう…』
「…『エリゴス』様…僕の方からも護衛の無礼を謝罪します…こいつらは前線を生き抜いて来た者故に…先走りがちでして」
ライトはそう言って腰に据えていた剣を振り…残った護衛を殺す
「これで…矛を納めていただけますか?」
『…問題ない…話は終わった…計画の成功を楽しみに待っている』
それだけ言い残してその人物…エリゴスは姿を消す
ライトは立ち上がり…剣の血を拭き取る
「…『神魔』め…」
ライトは自身で斬った護衛に近づいて…目に手を当て…目を閉じさせる
1人のメイドがライトに近づく
「ライト様…」
「あの『神魔』…こいつを最初に殺して『操作』権限下に置きやがった…」
「大丈夫ですか?」
「問題ない」
ライトはその部屋を立ち去る
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統一国家レギオン 先進都市ゼクス 『神樹の塔』
「『招待状』?」
僕はパンドラに渡された手紙を見ながら聞く
「はい…先程『太陰国』の使者が訪れました…近々彼の国の王子就任式を執り行うと言うことで…零様の出席を望んでいるようです」
「…『太陰国』との国交はあったかな?」
「いえ…恐らくですが…多くの経済圏を掌握するであろう我々との交友関係を築いておこうとの腹づもりでしょう」
「分かった…行くと返事をしてくれ」
「よろしいのですか?」
「構わない…それに…忘れたか?『**の大権』は僕の『残滓』を取り戻すのに必要だと」
「…わかりました、美波様と紫乃様は如何しますか?」
「彼女たちは今回は留守番だな…護衛は…」
僕がそう呟くと、異空間から美青年が現れる
「零様…それは私にお任せください!」
「『フェン』か…では頼むぞ」
「は!」
『フェン』と呼ばれた青年は光の中に消えていく
「…あいつ…随分と意欲的だな…」
「零様…あれは…___」
「なんだ?」
パンドラは言い淀む…
「(言えない…『フェンリル』が…あの2人にペットとして扱われつつあって…あいつもそれを受け入れ始めているだなんて)」
『フェンリル』はパンドラと同時期より零に仕え続けている『神獣』である
種族は『神狼』…
「____いえ、なんでもありません」
「そうか…今回はお前と『ジアエル』で事足りるな?」
「は…はい!では、ジアエルに伝えてきます」
「あぁ…頼む」
そう言って、零は書類仕事に戻り…パンドラは『ジアエル』の下に向かう
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名前:ジアエル
能力:『大地の天権』
能力値:6800万程度
称号:『天聖十二神宮』『大地の天使』『零の信奉者』
神具:『テラの大鎌』
種族:天使族・『神天使』
詳細:???
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そこは…太陰国シュリメールの王都近郊の防衛拠点すぐ近くの小屋
太陰国は遥か昔より『天魔大戦』を食い止めるための防衛線の1つだった
それは…『天魔族』が封印されている空間につながる門が防衛拠点のすぐ近くにあるからだった
その小屋にはライト=フルードの妹である王女…シャイン=フルードが軟禁されていた
外出することさえ許されず…食事は一日三回…メイドが運んでくる
それ以外の時間は…ライトから送られてくる本をただ読むしかない
力を制御できていなかった頃は…シャインの周囲のものは燃えていく
それは…人も例外ではなかった
古屋のドアが叩かれ…声が聞こえてくる
「シャイン…入るよ」
そして、ドアからライトが入ってくる
「あら…お兄様…呪われた館に何の用かしら」
ライトの前には…椅子に座ったシャインがいる
「…明日、君にお客さんが来る」
「あらあら…私に会いたいなんて言う変わり者がいらっしゃるの?」
シャインは煽る様な態度でライトを挑発する
「シャイン…僕は…」
ライトの言葉は…シャインによって遮られる
「呪われたくないんでしたね…お兄様…さようなら」
ライトは妹に拒絶され、言おうとしていた言葉を飲み込んで小屋から離れて行く
小屋のドアが閉まり、ライトは俯く
「こんな不甲斐ない兄を許してくれ…」
ライトは瞬時に表情を切り替えてその場を離れていく
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ライトが自身の執務室に戻ると、そこには『太陰国シュリメール』の王子補佐を務める『宰相』であるウェネル=ストロフトが居た
「…ウェネル」
「ライト…会えて良かったよ、今『統一国家』の使いから返事が来た所だ…喜んで出席するそうだ」
「そうか…」
「これで計画も実行できる…ようやくだ…『彼の方』の望みも…」
「用は終わりか?なら出て行ってくれ…僕はこれから『報告書』に目を通さなければならない」
「…そうかい?分かった…あと少しの辛抱だ…『シャイン』という呪いも…これが終われば無くなるさ」
ウェネルはそう言ってドアからいなくなる
ライトは席に着き、外の景色を眺める
そこに、メイドが紅茶を出してくる
「ありがとう…」
「ライト様…あまり無理をなさらない方が…」
「いいや、ここが正念場なんだ…ようやく…シャインを…」
ライトは手を顔に当てる
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就任式当日
その日、太陰国シュリメールには各国のゲストが招待され…街中は新たな王子の誕生を祝うムードに包まれお祭り状態だった
零、パンドラ、ジアエルは馬車を使って王城まで向かっていた
「零様〜なんで『転移』を使わないんですか?」
「…ジア…あまり多用しない方がいいんだよ…それに、見ておきたかったんだよ…『ディエル』の国を」
「『ディエル』?誰ですか?それ…」
ジアエルが率直な疑問を投げかける
「…さぁ?誰だろうね…そんなことより、パンドラ…『響介』に指示を出したのかい?」
「はい…零様に命じられた内容をそのまま手紙で送りました」
「…そうか…それは良かった」
零は窓から見える景色に目を移す
そこからは…祭りで賑わっている中に…国王の死を悼む様子が窺える
「そういえば…『国王』が急死されたのでしたね」
「あぁ…それで『ライト=フルード』が急遽王の座に就く事になったみたいだしな」
「そんな中でこんなに大きなイベントを開くなんて…」
ジアエルがそう呟くと、零が反応する
「いや、こんな時だからこそ…国の威厳を維持するのに必要な事さ…特にここはね」
そんな会話をしていると3人は王城前に着き、ライト=フルードに出迎えられる
「初めまして、『統一国家の建国主』…『ゼロ』様」
零は少し驚くが、すぐに取り繕って握手に応じる
「招待してくれてありがとう…前国王については…残念だ」
「ありがとうございます…式は数時間後に始まります、街の祭りを楽しんでいただくか…客間にお通ししますがどちらになさいますか?」
「客間に頼む…少しゆっくりしたいんだ」
「わかりました」
ライトは後ろに控えていたメイドに言って零達を案内させる
太陰国シュリメール 王城内客間
その部屋に通された3人は、メイドに出された紅茶を飲む
「零様…」
「あぁ…分かっている」
零は紅茶を飲んで、一息吐く
「どうかしたの?零様…パンドラ様」
「あいつは…僕の事を『ゼロ』と呼んだ、何故だと思う?」
「零様の名前が『ゼロ』だからじゃないの?」
「僕の名前は『白神零』…『聖魔全能神』就任時にもこの名前で公表した…渾名でもない限り僕の前世を知る者だけだ」
「でも、あの男は見た目通りの人間だし…種族も特殊じゃなかったよ?」
「『神の使徒』だが、長生きはしてないだろう」
「もしかしたら…『太陰神』だからじゃないでしょうか…あの神は少し特殊でしたから」
零は少し考える
少しして、零は何かに気づいたように窓に近づき街の景色を見る
「ジアエル…行ってくれるか?」
「もちろんだよ…『天魔』なんて久しぶりだなぁ」
ジアエルは三対六枚の美しい純白の翼を拡げて窓から飛び立つ
「パンドラ…僕たちも行こう」
「わかりました」
零とパンドラは客間を離れてその場所に向かう
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ライト=フルード side
ライトは礼服に着替えて式典を行う大広間を訪れていた
そこには…ウェネルが立っていた
「ウェネル…ここで何をしている」
「…ライトか…ようやくこの時が来たのだね…忌々しい『運命』にピリオドを打てる時が」
「お前の言っている『運命』は…僕の妹のことか?それともお前のくだらない願いの事か?」
ウェネルはライトに背を向けたまま動きを止める
「…何の事かな?」
ライトは剣を引き抜くと騎士団が入ってくる
「動くな…出来れば君を殺したくない」
その言葉に…ウェネルが高笑いで嘲笑う
「殺したくない?…人間如きが…図に乗るな」
ウェネルは振り向いてライトを見つめる
「何故分かった?」
「そういう『流れ』だからだ」
「…まぁいい、君は追い詰めた気でいるんだろうが…それは大きな間違いだよ」
ウェネルが指を鳴らすと…騎士団の者たちがライトに襲いかかる
ライトは騎士の剣を受け流し、距離を取る
「どういうことだ…お前たち…何を」
騎士たちは白目を剥きながら定まらない剣技で襲いかかってきている
「何を語りかけても無駄だよ…そいつらの自我はもう消えているからね」
「何!」
「私は騎士たちに強制的に『悪魔族』を受肉させ…私の合図とともに騎士と悪魔の自我がぶつかり合い…消滅し、私の指示に従うだけの傀儡になる」
ライトは騎士たちを遠ざけるように地面に手を着き…『陰』で騎士たちを縛る
「『ライト=フルード』…それを使うと思っていたよ、そして…それを使えば…君は動くことができなくなる」
ウェネルが手を翳すと、ライトの下に『魔法陣』が浮かび上がる
「君の権能を…頂こう…自我を破壊してね」
「(!…『悪魔召喚』の術式か!)」
大広間のドアが開かれ…零が入ってくる
「そんな事だと思っていた…」
「!…『聖魔全能神』か!」
「『ゼロ』様!」
ウェネルは動揺するが、すぐに調子を取り戻す
「だが、もう遅い!そのガキは死に…『レヴィアタン様』の器が完成するのだ!」
零は魔法陣を眺める
純黒の闇がライトを包み…『悪魔召喚』によって…騎士たちのように自我を失う…はずだった
しかし、ライトに変化はなく…顔を上げる
その両眼には『六芒星』が浮かんでいる
「あ?」
『…そんな事だろうと思っていたが、くだらない事を考えたものだな…『レヴィアタン』の配下』
「誰だ…お前」
『…その気配…『パイモン』か、お前たちの起こした反乱で…我々は相応な被害を被ったのでな…それ相応の報いは受けてもらおう』
ライトが指を横一文字に振るとウェネルの首が刎ねられる
ウェネルは首だけの状態でライトを凝視する
「まさか…貴方様は…」
ライトは周囲を見て、自我を失っている騎士たちを睨む
『下らない事をしてくれたな』
ライトの片眼の六芒星の輝きが増すと、周囲の騎士たちは跡形もなく消える
「何故…何故貴方様が…あれは…『低位の悪魔を呼び出す術式』…」
『悪魔に低位も高位もない…それに…故い知り合いがいるんだ…少し挨拶をしておこうと思ってな』
ライトは零を見る
「ライトは無事なんだろうな」
『問題はない…彼の自我を抑えこんで相殺しないように調節した…今は眠っている』
ウェネルは首を元に戻し…逃げるために考えを巡らせる
(パイモン…何故逃げる事を考える…奴が目の前にいる…殺せ…)
ウェネルの頭の中で…何者かの声がする
「ですが、レヴィアタン様…」
(もう良い…お前にはガッカリだ)
ウェネルは頭を抱え込んで座り込む
「ぐわぁぁぁぁぁぁ!」
(最後…お前に役に立つ機会を与えよう…精々私の役に立て)
その瞬間…周囲の殺された騎士たちの魂が飲み込まれ…ウェネル…改め『パイモン』が変化していく
「あれは…『魔神化』か」
『レヴィアタンが強制的に力を流し込み…『パイモン』のレベルを引き上げたようだな…』
「…滅べ…下界の屑ども」
『パイモン』は王城を完全に破壊し、飛び上がる
続く
次回予告
『パイモン』は『魔神化』によって暴走し…王国を破壊し始める
そして、そんな窮地に少年に連れられたシャインが現れる
『外伝・弍 太陽姫の目覚め 後編』