外伝・壱『白神零』と『天月芽愛』後編
『『勇者』は『神の使徒』にあらず、『神の使徒』は『勇者』にあらず』
『『魔王』は『神の使徒』にあらず、『神の使徒』は『魔王』にあらず』
『『勇者』は『魔王』にあらず、『魔王』は『勇者』にあらず』
これらは破られることのない『理』である
その『例外』が現れることがあるとすれば…それは『世界の大きな変革』の始まりである
本章③『超える…』
芽愛は小屋の近くに立っていた
「…来るかしら…」
『随分と人間に馴染んだようだな…『強欲』』
「…その声は…何故ここに?」
芽愛は森の中から現れる影の方を見る
『我々の元から離れて何をしているかと思えば、くだらない復讐に身を置いているようだな』
「くだらない?それはあなたにとってでしょう」
『…まぁいい…期待を裏切るような真似だけはやめることだ』
その影は消えていく
私は…影が消えていった方とは別の方角を見る
「来たようね」
______
芽愛は自身の周囲の森に『強欲の魔人』を放っていた
個々が1200万程度の実力を有している
僕は数百体向かってくる『強欲の魔人』を見ても…歩みを止めない
「『炎雷』」
その瞬間…零から発せられるオーラが…『雷』の自然属性を含有する『炎』に変化し『強欲の魔人』を一掃する
森の木々は炎に焼かれるのではなく…爆発的な衝撃を受けて…跡形もなくなる
僕の行先には…芽愛さんの姿が映る
「意外と早かったわね…零君」
僕は数百メートル離れている彼女を見る
「ごめん…」
その一言は彼女には届かない
僕は走り出す
すると、横道から再び『強欲の魔人』が現れる
僕は目を見開く…眼から白い火花が散る
「退け」
僕は秒針が動き切る前に刀を振り…『強欲の魔人』を切り刻み…芽愛に切り掛かる
芽愛は『霊神剣』を引き抜き、僕の一撃を受け止める
「殺す覚悟ができたって訳?」
「黙れ…それは彼女のだ…返してもらうぞ」
僕と彼女は互いに距離を取り、構え直す
師匠と手合わせをする時…『全能』を使って戦っていた
彼女は僕の手の内を知っている…しかし、それは僕も同じ事
この女は…芽愛さんの剣技を使っていた、そして…今の受け方で確信を得た
この女は…肉体が記憶している動きをトレースしているに過ぎないのだと
僕の剣には『神炎』が宿る
「(この剣がどこまで耐えられるかわからないが…壊れる前に…削り切る)」
僕は彼女の懐に一瞬で移動する…彼女は『精霊の加護』でなんとか防ぐが、『加護による障壁』は砕け散る
その隙を見逃さず…彼女に斬りかかる
その瞬間…大きな爆発が起こり…再び距離を離される
しかし、彼女の頬を見て…僕は笑みを深める
「使ったな…『魔印』を」
「ちっ…何をした…何をして…ここまで」
僕は服の煤を払う…
「さぁ…始めよう…第二ラウンドだ」
____
そこは…2人の戦場の数キロ先…多くの『強欲の魔人』が積み重なってその上にパンドラが立っていた
「彼の方を信じる…彼の方なら…きっと…___」
そこに人影が現れる
『強大な反応だと思えば…何者かな?』
パンドラはその人影の方を見る
「失礼な『魔人』ね…」
「私の正体を見抜いた…本当に何者ですか?」
そこに現れたのは…左目が変質した少年
「あなたから名乗ってはどうかしら」
「…私は『嫉妬の使徒』…『レヴィアタン』と申します…以後お見知り置きを」
「そうなの…」
「名乗っては…くれないのですか?」
「名乗ってもいいけど…あなたの権能は効かないわよ」
少年は少し驚く
「わかるのですか?」
「私は『神』…彼の方に仕える者…不躾な力の波動には敏感でして…」
少年は…『権能』を解除して影を物質化する
「あなたにはここで死んでいただくことにしましょう…美しいお嬢さん」
「聞こえなかったのね…私は『神』と言ったのですけど」
少年の額には『魔印』が浮かび、パンドラの瞳に『神印』が浮かび上がる
少年が手を翳すと、影が動き出す
その攻撃はパンドラに触れる前に停止して、雲散霧消する
「私がこの世で最も嫌いなことがわかりますか?彼の方を…私の愛する御方を侮辱されることです…あの女に味方をするならあなたも…抹殺対象ってことです!」
その瞬間…少年が首を刎ねられる
「まだ…見えていないようね…」
パンドラは周囲に目を向ける
『恐る…べき…能力…だ…『神』を…名乗る者よ…ここは見逃してやる…我々も…準備が…必要なようだ』
そこには先ほどの少年と全く同じローブに身を包む集団がパンドラを見ていた
「それがお前の…いや…お前たちの『権能』か…零様にとって害なら…ここで葬るべきでしょうか」
パンドラの殺気が濃密さを増す…
しかし、そこの周囲にだけ闇が広がる
「『夜』…か」
太陽を飲み込むほどの強大な『闇』が周囲を包み…強制的に『夜』を呼び出したのだ
「これもお前の能力ですか?」
『違う…『我々』の能力…だ』
「だから…お前の能力でしょう」
『……お前と…『我々』では…認識に齟齬が…あるようだな』
『時間だ…還る…時だ』
その集団が一斉に話し始める…
『『『『我らは大いなる意志の下に…』』』』
集団の全員が『闇』に飲み込まれ…消えていく
「気持ちの悪い能力…彼の方への報告は…また今度にしましょう」
____________
爆発音と共に…彼女は受け身を取りきれず…地面に叩きつけられ、剣が手元を離れて地面を滑る
「化け物め…『神印』を覚醒していない段階で…ここまでの…」
彼女の前に…僕はゆっくりと降りてくる
彼女は剣の力を借りて立ち上がり…僕を見据える
「本当に殺す気なの?私は貴方のお母さんだよ?」
「…命乞いをすれば…助かるとでも思ったのか?」
僕の冷徹な瞳を見て、彼女は感じた…『死』を
振った刀は…突然動き出した『霊神剣』によって止められる
「何?」
彼女の美しい紫紺の瞳が黒と白の光が宿る
彼女には…『魔印』とは別の…白い光…『聖印』が浮かび上がっていた
「芽愛…さん」
彼女は剣を振り…その勢いに押され…僕は後ろに下がる
人間は死を感じると…『防衛本能』が働く…
マリアと融合している状態だが…マリアとは関係のない『意志』が…彼女の体を動かす
先ほどまでとは比べ物にならないほどの速度で彼女は剣を振るう
その凄まじさたるや…零の反応がわずかに遅れてしまうほどだった
体制を崩しかけ…受け止めた刀にもヒビが入る
「チッ…」
『霊神剣』は『神話級』…対して僕の刀はパンドラに用意してもらった出来合いのものだった
『神話級』の神具に対応できるはずもない
「…『風の精霊王』」
彼女がそう呟くと…凄まじい竜巻のような『風』が彼女を包む
彼女が一歩踏み込むと…『迅雷』が轟き…
『風の刃』が吹き…僕の周辺を切り裂く
そして、僕の眼に可視化された刃が僕の右頬を切り裂く
「『嵐気流』」
連続して浴びせられる『風の刃』は彼女の姿を消していく
『決意』…その単語が僕の脳裏に浮かぶ
ここで負ければ…『最愛』を救うチャンスなど…2度と訪れない
「ここで…負けるわけには…行かない!」
再び…零の眼から白い火花が散る
その火花は雷になり…『白い光』となり零の頬に紋章が浮かぶ
『神印』だ
その瞬間…零のオーラが大気を凍らせていく
それは…『風の刃』を相殺していく
「…!」
その瞳は…白銀に変わっていく
彼女は零の危険性を正しく分析し…呟く
「『炎の精霊王』『水の精霊王』」
彼女は風に乗り…とてつもない素早さで零に接近する
流れるような動きで零に斬りかかってくる
「『止まれ』」
しかし、彼女の動きは零の呟きで停止する
「僕は…いつも思う…人間の強欲さ…人間の醜さ…やっぱり僕は…人間が嫌いだ」
僕は剣を振り…彼女を打ち上げる
彼女は『霊神剣』を手放す
同時に僕の刀は砕け散る
「『神氷』には耐えられなかったか」
僕が『霊神剣』を取り上げると、『霊神剣』は姿を変える
かつての愛剣…『神帝』へと
「久しぶり…」
僕は構える
「あの世で僕を呪ってくれるよね…芽愛」
僕は魔法を唱える
「禁忌魔法『運命両断』」
打ち上げられた彼女を斬り伏せる
その瞬間…幾重にも存在していた世界の歴史から…『天月芽愛』という人間の存在が消える
それによって…マリアの意識も粉砕され…消えていく
残ったのは抜け殻となった二つの魂と分断された二つの肉体
そして…僕はそれに近づいていく
すると、白い影が現れる
「来たんだ…芽愛」
『ありがとう…零君』
「呪わないんだね…僕を」
『呪わないよ…ごめんね…毎回毎回…』
「…もう聞き飽きた…全部僕のせいだっていうのに…あの時…僕が」
その言葉は…芽愛の口付けによって消される
『また…会える…そう…信じてるから』
白い影は消え…景色が晴れる
そこには2人の女の子と僕がいた
「いつか…叶えよう…『君の望む世界』を」
最終章『再生』
その後…パンドラが僕の下に現れる
「零様…終わったのですね」
「…あぁ…『芽愛』のことは…もう誰も覚えていない…」
「…申し訳ありません」
「なんでお前が謝るんだよ…全部僕の責任だ…」
「…この子達は…」
パンドラは寝ている2人を見て聞いてくる
「芽愛さんとマリアの抜け殻に意志を宿した人間だ…」
「『強欲』の権能が宿る恐れは?」
「わからない…だが、そうなっても…次は必ず助けてみせる」
「よかったです…戻ってくださって」
「平和に染まり過ぎたか…」
「その2人には…」
「大丈夫…『記憶』は創っておいた…元の能力を使えて助かった」
そして、寝ている2人の方から声が聞こえてくる
「ここは…」
僕は起きた少女に近づく…
「おはよう…『美波』」
「…なんでこんなところに寝てるんだっけ?」
「すまない…帰ろうか…『紫乃』も連れて」
「そうだね!帰ろっか!」
美波は『芽愛』さんとそっくりな笑顔で僕に言ってくる
_____
法王国 ???
そこは…王城で国王やその国の重鎮が集まっていた
しかし、今のそこは…惨状と呼べるほどの状態になっていた
全員が斬り刻まれ…死んでいた
そして、跪く国王の前に…白神零が『神帝』を突きつけて立っている
「僕の最愛に手を出した罪…償う気はあるか?」
「…なんのことだ!貴様…こんなことをして!」
その瞬間…国王の首は刎ねられる
「僕の覚醒に繋がったとはいえ…あの人を失ったことは事実だ…この国は…もういらない」
その日…『法王国』は陥落した…
その一週間後…その国は名前を変えた…『建国主』に『聖魔全能神』を据えて
『先進国 ゼクス』
そして、その国は…周囲の五つの大国を統一し…後にこう呼ばれることになる
『統一国家レギオン』…と
『聖魔全能神』によって導かれる…『******』の望む世界を実現するための第一歩として誕生した
白神零はそこに立っている…
「『******』…僕は君との約束を果たす…必ず…何を犠牲にしてでも」