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2話 Unknown-2

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2話 Unknown-2




「──で、未知の魔法少女が見つかったって話だったか?」


 とある高層ビルの一室。魔法少女フレイムは、とある女性と向き合っていた。

 ぴっちりとしたスーツを着込み、胸には徽章らしきモノを付けている。


 彼女の名を椎名(しいな) 冰織ひおりといい、元S級魔法少女であり今は魔法少女省大臣を務めている。


「そうなの。つい先程D級プレデター”メリーさん”と遭遇、メリーさんと宿主である男を殺害したの。けれど結界が消えなくて、現場に戻ってみたらデータにない魔法少女に遭遇したの」

「特徴は?」 

「道服を着ていて、手には杓、なによりも──黒猫が一緒にいたの」

「……黒猫だと?」


 冰織は椅子から立ち上がり、カツカツカツと靴で音を鳴らしながらフレイムに詰め寄る。


「それは本当に黒猫だったか?お前の妖精も共に確認したのか?」

「もちろんなの。アイビーも一緒にいて、きちんと確認してもらったの。あれは間違いなく、黒猫を依代にしていたの」


 冰織はフレイムが目の前にいるのにも関わらず、お構いなしに頭を抱えその場に座り込んだ。


「クソッ、なんでこうも面倒ごとが立て続けに起こるんだ?ただでさえ”白鴉”の目撃情報があったというのに、今度は”黒猫”だと?」


 項垂れた様子にフレイムはぐっと口をつぐみたくなったが、それとこれとは別だ。報告はしなければならない。


「本当に申し訳ないの、もう一つあって──その時に”黒猫”と交戦したの」


 冰織はパッと顔をあげ虚な目でフレイムを見つめると、ゆっくりとまた口を開いた。


「……黒猫と交戦?経緯は?結果は?」


 冰織は震える手でフレイムの足を掴み、涙目になりながら問い詰める。


「こちらが武器を構えていたと言うのはあるけれど、先に攻撃してきたのは”黒猫”なの。私の問いに対し黙秘、間髪入れず直撃してれば死ぬレベルの極大魔力弾を射出。焔剣でギリギリそらしたから死なずに済んだけど、換装時の右腕は吹き飛んだし、焔剣は大破。しばらく変身できないの」

「……それを示す証拠はあるか?」


 フレイムは懐から赤色の金属片を取り出すと、冰織は奇声をあげて、さらには白目を剥いた。


「まさかそれは、お前の……」

「そう、焔剣なの。戦闘映像はジャミングされて残ってなかったけど、純粋な魔力によって破壊された私の焔剣の破片は硬質化して残ったの」


 まるでひったくりのようにフレイムから破片を奪い取ると、冰織は鋭い視線でそれを見つめる。

 そして大きくはぁとため息を吐いた。


「──魔女会議だ」

「え?」

「いますぐSランク魔女10名を招集だ。魔女会議を開く」


 先ほどまでのみっともない姿が嘘のように、冰織は俊敏に動き出した。

 すぐさま魔法少女ネットワークを通じてSランク魔女に招集命令を下し、こなかったら殺すというメッセージも添付した。


「フレイムも来い。状況を説明してもらう」

「え、今の私は武器を砕かれたから変身できないの。アイビーがいま妖精界で──」

「んなもん知らん!私が身の安全は保障してやる。いいから来い!」


 フレイムをガッチリと羽交締めにする冰織。フレイムはなす術もなく転移陣に引き摺り込まれた。






 ……………ない


『急にどうしたんだい。そんなに身体を弄って』


 パーカーのポッケ、ズボンのポッケ、その他諸々全て確認した。でも、どこにもないのだ。


 ──家の鍵、財布、さらには身分証。全部どこにもない!


『フレイムに燃やされたんじゃないかい?君の着ていたスーツも正直ボロ布に等しかったし』


 たぶんその可能性が1番高い……が、そうだとしたら困ったな。

 鍵は最悪開けられるし、身分証も正直使えないだろうから関係ないけど、お金がないのは困る。

 財布ごと燃えたから銀行カードやクレジットカードもないし、当然カード番号なんて明確に覚えてない。

 それにスマホもどこかへ行ってしまった。  

 

 あれ、だいぶ詰んでないか?

 お金が無ければご飯も食べれない。家賃は引き落としにしてるから貯金が尽きるまでは保つが、時間の問題。

 お金を手に入れるにしても、声、聴覚、視覚がないからバイトにすら雇ってもらえないだろう。


『あれ、気づいてないのかい?君のその身体は食事を必要としないよ』


 え、そうなの?


『ああ、君の身体は99.9%魔力で構成されているからね。魔力が尽きない限り、食事も睡眠も必要ない』


 つまり極論を言うなら、私には家すら必要ないのか。

 お風呂とかも正直魔法でどうにかなりそうだし。


『そういうこと。人間でありたいなら別だけど、別に君は人間としての生命活動はしなくても生きてられる。どちらかというと、ワタシたちに近いね、キミは』


 そうとわかればお金とかは気にする必要もないかな。食事も睡眠もいらないなんて、とても便利な身体じゃないか。


 とりあえずドアは魔法を使って無理やり開ける。名前をつけるならシンプルに鍵開け(アンロック)でいいか。


『この魔法さえあればどんな家にも侵入し放題だね』


 いまのところ他人の家に忍び込む予定はないからね!

 なんてツッコミを入れつつ、私は自分の家に入った。


『なんともまあ、狭い部屋だねえ』


 男の一人暮らしなんて1LDKで充分だし。と言いたいけど、たしかに男の時は少し手狭だと思っていた。

 しかし今の身体ならこの大きさで充分だ。エンマ様がいたとしても事足りるだろう。


 カーテンは閉め切り、電気はなるべく灯が漏れないよう暗めのをつけておく。


 ……やっと、帰って来れたんだ。


 私はベッドに腰掛け、エンマ様を胸元に抱き寄せる。


『……胸を押し付けてくるのはやめたまえ。ソレにワタシは君のペットではないからね?』


 なんか思った以上に抱き寄せれないと思ったら、胸があるからか。

 残念だと思いつつ、私はエンマ様から手を離す。

 するとエンマ様はピョンと跳ねて私の隣に座り込んだ。


『ようやく落ち着いて話せるね』


 そうだね。道中ずっとこっちを見てる”目”もあったし、ここならゆっくり話せる。

 

 ──それで、エンマ様がこの世界にきた目的だったっけ。


『そうだね。そこらへんは先ほどの続きになるが──私の目的は地獄に送られてくる死者を減らすこと。そのために君には、プレデターをその命がある限り殺し続けてもらいたい』


 あれ、それなら他の魔法少女と同じじゃないか?他の魔法少女もプレデターを倒してるし、あまり変わらない気がする。


『いいや、一つちがう点がある。キミは倒したプレデターを地獄の門を経由して地獄に堕とすことができる。──キミ以外の魔法少女が倒したプレデターはね、実は何度でも復活できてしまうんだ』


 ……なんだって?


『疑問には思わなかったかい?魔法少女省が対策を公表するレベルで、同じプレデターが何度も出現するのを。どう考えても、可笑しいだろう?』


 言われてみれば確かに。倒したはずのプレデターが現れるって、よくよく考えればおかしいな。


『コピーやクローンの可能性とかも疑ったけど、ワタシが調べた限り出現した同種のプレデターは、すべて同一存在だ。クローンやコピーでは決してない』


 つまり今まで撃退されてきたプレデターは死んでなくて、あくまでも撤退しただけということか。


『そういうこと。しかもそのことに魔法少女省が気づかないはずがないのに──いや、待てよ。まさか羽虫どもがなにかしている……?』


 その可能性も少なからずあるね。妖精は人間と違って、魔法を扱えるんだろ?認識を歪ませたりってのもお手のもののはずだ。


『たしかにね。となると、人間界に干渉してるのは、オベロンクラスってことになるけど……。アイツがこんな真似するか?』


 オベロンって妖精がどんな存在かは知らないけど、何千年も生きてる妖精なら突然狂い出すってのもあるんじゃない?


『まあ、気にするだけ無駄かな。──とにかく、キミならプレデターを地獄に堕として完全に殺すことができる。そうすればプレデターによる死者も減って、地獄の仕事も減って、ワタシが趣味にさける時間も増える!なんとも素晴らしいだろう』


 たしかにエンマ様の言うとおりだ。この世のプレデターを全て地獄送りにして、世界の平和を取り戻そう!


『……ここはツッコミが欲しかったんだけどね。まあいい。で、今使ってるこの分体だができることは単純だ。プレデターの発生した座標をキミに伝える、それだけだ』


 その座標に私が魔法……転移魔法かな?で飛べばいいんだね?


『ああ、その通りだ。キミの魔力量なら、どこにだって跳べるはずだ』


 あ。そういえばひとつ気になることがあってさ、プレデターが同時に現れることはないの?


『当然あるさ。だから、ワタシはひたすらキミに座標を送り続ける。んで、キミはそこから選んで跳んでくれたまえ。ランクも種類もさまざまさ』


 ちなみに跳んだ頃にはもう魔法少女がいて、戦闘中だったらどうする?


『そんなものワタシが気にするとでも?気にせず地獄堕ちにしてしまえ』


 わかった。気になるのはソレくらいかな?


『ああ、それと魔法少女ネットワークを少々細工して、プレデターを倒せばキミにもお金が入るようにしておいた。モチベーション維持に使うといい』


 現状使い道はないけど、まあお金はあるだけ有難いか。


『さあ、世直しの始まりだね。キミの力ならE級だろうがS級だろうがお茶の子さいさいさ!発見次第座標を送るから、いつでも跳べるようにしてくれよ!』


 ラジャー!エンマ様!

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