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1話 Gehenna-4

1話 Gehenna-4





『いいかい、ゲヘナの力は『契約』と『審判』だ。扱い方はすでに君の頭の中にあるはずだ。──それじゃあ、結界"解除"』


 エンマ様の掛け声で、私を取り囲んでいた結界は初めから存在なんてなかったかのように消滅した。

 その瞬間、少女の形をした黒い魔力──メリーさんは私に襲いかかってきた。


 彼女の振り回す包丁を笏で受け止め、捌き、受け流す。 


 いざこうして冷静に対処してみると、彼女の攻撃は非常に単調であった。

 突き、薙ぎ払い、切り上げ。基本的にはこの3パターンであり、しかも包丁であるためリーチが短く対処しやすい。


 メリーさんから漏れ出る黒い魔力には、焦り、怒り、困惑の色が見て取れる。


 これでわかったけど、魔力感知の効果かどうかはわからないけど、どうやら魔力から相手の感情を読み取れるみたいだ。


 さて、様子見はこれくらいでいいかな。今度はこちらから動こう。


 笏に魔力を流し込み、包丁を受け止めると同時に弾き飛ばす。


 その瞬間──彼女の包丁が最も容易く砕け散った。

 当然その隙を逃すはずもなく、身をくるりと翻し、返す刀──いや、返す笏でメリーさんの頭を殴打した。


 すると彼女の頭らへんの魔力が弾けてあたり一面に飛び散り、また首の辺りからは止めどなく黒い魔力が溢れ出ていた。


 ……これでも死んでるわけじゃないもんな。あくまでも、動けなくなっているだけ。再生すれば動けるようになる。


 まあ、動けなくなったならもう終わりだ。


『こんなもんだろうね、君の力なら。さて、とどめを刺そうか』


 ──地獄の門よ、開け。


 これが私、魔法少女ゲヘナの『審判』の力。寄生主が死なない限り殺せないプレデター供を、唯一殺せる力。


 ──罪を数えよ。罪を認めよ。


 空が割れる。地面が割れる。──空間が割れる。

 それはあらゆるものを引き裂きながら、現れた。

 大きさはおおよそ高さ15メートル、横幅8メートルだろうか。

 ──とても大きな、真っ赤に染まった扉であった。

 扉には何百枚もの札が貼られ、その上から鎖で閉ざされている。決して開けてはならないと暗に言っているようだ。


 おおよそ2割くらいの魔力を持っていかれた気がする。

 ……地獄への入り口を召喚したのに、2割しか持ってかれなかったのか。すごいな。


『……わかってはいたけど、すごいね。本当に、地獄の門を召喚できるとは』


 召喚した私が言うのもなんだけど、これヤバいね。この場にいるだけで感じるもん。これは決して開(・・・・・・・) けちゃダメだって(・・・・・・・・)


 それはメリーさんも身をもって感じているようで、頭がないのに立ち上がりその場から逃げ出そうとする。


 もちろん逃さない。


 ──捕えろ、多苦棘(たくきょく)


 メリーさんの足元から数十本の蔦がニョキニョキと生えだし、彼女を拘束する。

 蔦には数えきれないほどの鋭い棘が生えており、捕らえたものを決して逃さない。


 それでも逃げ出そうとメリーさんはもがいているが、その度に彼女の身体の至る所から黒い魔力が吹き出している。


 よし、終わらせよう。

 

 私は()を開く。

 当然視界にはメリーさんの姿は映らないが、『審判』の力により”罪状”を把握することができるのだ。

 名付けて『審眼』といったところか。


 ──罪状。「殺生」「邪見」「浄戒侵入」「妄語」


 ──よって”等活地獄”堕ちとする。

  

 ひらり、ひらりと門に貼られていた札が宙を舞う。

 地に落ちた雪の結晶のように、鎖が砕け散る。

 そして──地獄の門が開いた。

 

 莫大な量の紅蓮の魔力が吹き荒れ、地上を地獄と化す。

 真っ赤に染まる大地。メラメラと燃え盛る地獄の焔。陽の光を許さぬ漆黒の雲。

 先ほどまでただの市街地だった場所は、一瞬にて姿を変えた。

 

『はっはっは、流石はワタシの魔力だ。残り滓が溢れるだけでこうも影響を与えるとはな』

 

 ここが魔法少女の結界内で本当に良かった。もしここが結界によって作られた仮初の世界でなく、現世だったらと考えるとゾッと…あれ、ゾッとしない……?

 ……これまでに培ってきた倫理観が、ゾッとすると言っている。うん。


 それはさておき、扉から溢れ出るものがそれだけで終わるわけもなかった。

 あくまでこれは事故のようなものであり、本来扉から出てくるものは──無数の黒い腕であった。


『これはとある獄卒の腕さ。カッコいいだろ?』


 無数の黒い腕はメリーさんを乱雑に掴むと、ものすごい勢いで扉の中へと帰っていった。


『ふふ、これにて一件落着と。君相手じゃ、D級のプレデターはただの塵に等しかったね』


 ……なあエンマ様。


『どうしたんだい?』


 『契約』に限界とかってある?


『いや、ないよ。それに今の君は魔力の回復速度を加味して無限に近い魔力があるかもしれないしね。なんでも契約できてしまうんじゃないかな』


 ならばと私は再び閉じた地獄の門に近づき、触れる。


 “地獄”、契約だ。エンマ様の為に力を貸せ。対価は、私の全てだ。


『え、なにを馬鹿げたことを──』


 その瞬間、フッと地獄の門は見る影もなく消え去った。


 ぐらりと、私の身体が傾く。ギリギリのところで足に力を込め、転倒を免れる。


 おおよそ9割か、私の魔力のほとんどが吸われてしまった。瞬時に回復したが、これからは魔力の大量消費は避けたほうがいいだろう。

 ……まあ、こんな量を使うこともうないと思うが。


『……まさかと思うが、ワタシの地獄と契約できちゃったのかい?』


 驚愕、困惑の色がこもった声。とてもじゃないが、信じられないのだろう。だってエンマ様は、地獄の主人なのだから。


 ──うん、契約できちゃった。


『えええええええええ?!』


 エンマ様の絶叫する声が、私の脳内に響き渡った。

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