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全6話になります。

今日は3話まで、明日に残り3話投稿になります。

「あなたのためなのよ」


それが実の母の最後の言葉だった。その母の顔はもはや記憶び片隅にすらない。

孤児院では他の皆が引き取られていく中、ずっと俺一人だけが見送る側にいた。俺のコミュニケーション能力が欠けていた事と、そして何よりこの目つきの悪さが原因だろう。

だが、この目つきが悪いのは俺の能力である鑑定眼によるものだ。始めは他の皆も見えてるのだと思ったが、どうやらそうではないらしい。

鑑定眼を使うと人や物のステータスを見ることができる。誰にもバレないようにこっそり調べた所、魔力が見える事と関係しているらしかった。

幼い頃は鑑定眼が制御できず、表示される文字に視線が向いてしまった。

そのため人を凝視する癖がついてしまい、目つきが悪くじろじろ見てくる気持ち悪い奴というレッテルを貼られた。


「お前いつも気持ち悪いんだよ、睨みつけてきやがって」

「そんなつもりじゃないよ、見てただけだよ」

「上から下までじーっと見つめて、気持ち悪いのよ」


そんな日々のストレスから、たさでさえ悪いと言われた目つきはさらに悪くなった。それが反抗的な目をしていると思われたのか、暴力をふるわれたものだ。


そんな中一人だけ手を差し伸べてくれたのは孤児院で勤めていた一人のシスターだった。暖かな手を持つシスターだった。


「人は見かけが九割なんて言う人がいるけどね。中身……心を含めて人間だからね。多くはないかもしれないけどわかってくれる人はいるからね。」


目つきが悪い、気味が悪い、反抗的だ。そう言われて邪険に扱われてきた俺に、優しい言葉をかけてくれた。

同年代の子どもと関われない代わりに読み書きを教えてくれた。俺が将来困らないように、というシスターの優しさだったのだろう。


「だからね、胡狼くん。あなたが勘違いされる事があると思うけどいい子だってのは知ってるからね。他にもわかってくれる人が現れるって私信じてる。もしそんな人に出会えたら、その人のこと……大切にするのよ。約束、ね?」


そんなことを言ってくれたシスターも、他の孤児院に行くということで居なくなってしまった。

唯一の心の拠り所がなくなった俺は荒んだ。


「どんくせーな、ウスノロが」

「おい、あいつまたなんかぶつぶつ言ってるぞ」


いや違う、皆が嫉妬しているのは優秀な俺が羨ましいんだ。

所詮何も能力がないやつらだ。俺のような選ばれた人間とは違う。

お前らは将来俺に媚びへつらうしかねーんだ。


そうして気づけば16歳。孤児院をでていく年齢になったが何の伝手もない。しゃぁねぇから俺は生活するために冒険者になった。

前に自分のステータスをみたが、残念なことに冒険者としての才能はなかった。それでも生きていくために薬草採取からゴブリン討伐など下位の討伐依頼までなんでもこなし、

世界を回りながら暮らすようになった。




 * * * * *



「ふふん、今日はツイてるぜ。俺ってやっぱ天才だな」


今日は立ち寄った骨董市で値打ちを知らない馬鹿から安く買い叩く事ができた。

全く鑑定眼様々だな。世渡りが上手ければ一財産でも築けたが、あのときはヒデー目にあった。

一度人を鑑定したことがあるが、騒ぎになり危うく拉致されそうになった。あんな目に合うのはもう御免だ。


「あー、にしても疲れたぜ。早く楽して暮らしてぇもんだ」


最近は少しシワができてきた。そりゃそうか、もう30も半ばだもんな。冒険者としてもかなり長くやってきた。まぁそれでもまだE級だが。才能がないってのもツレェぜ。

夕方だからなのか家族連れをよく見かける。家族なんて無縁だなと横目に見る。他人の面倒まで見きれるかってんだ。メンドクセェ。


そんなことを思いながら、夕食を買いに市場にいく。さーて、飯食ったら女でも買いに行くか。

そう思い帰ろうとしてると、何かトラブルが起きているようだった。


「例のあの子よ」

「ついに捕まったか」

「呪われた子じゃ」


周りがヒソヒソと何か話している。


「なんだなんだ、いつもクソ暗いとこなのによー。何か起きてんのか」


覗いてみると、10歳前後くらいの少女が男に捕まってるようだった。聞くに男の店の食べ物を少女が盗んだようだな。どうやら奴隷として売られるらしい。

奴隷の扱いは知っている。冒険者の肉壁・慰み者・過酷な肉体労働……いい噂は聞かない。けど俺には関係ねーな。


「早く帰って女買いに行くか」


そう思い去ろうとしたとき、一瞬少女のステータスが視えた。

……何かいつもと違わないか?




ステータス

 職業:シーフ

 魔法: スティール

    : ステルス

 

ギフト : 加護

    : 再現




ギフト? なんじゃこりゃ。

今まで見た中でギフトなんてものが表示される人間を見たことがなかった。

これはもしや俺より希少な能力なのか?


よくわからんが希少ならツバつけとして損はねぇかもな。

それにガキをうまく使えば、俺の将来も明るいものになるんじゃね?

ついにツキが回ってきたんじゃね?


「は〜な〜し〜て〜!!」

「このクソガキが、いつも店のものを盗みやがって。覚悟はできてんだろうな」

「痛い痛いやめて!!」


それ以上やられて俺の金のガチョウが壊れてしまっては困るな。

俺は店のオヤジらしき人物に交渉を持ちかけた。


「っす、あ〜俺の話聞いてもらってもいいか?」

「あ? 俺になんかようか」


ギロリとした目がこちらを向いた。おぉ怖。

まぁ目つきの悪さなら俺も負けないが。


「いや〜、そのガ……子どもなんすけどちょ〜っと許してやるとか出来ねっすかね」

「何言ってんだ、このガキは俺の店の物をこれまで何回も盗んできたんだ。その落とし前をつけなきゃ示しがつかねぇ」

「そんなケチケチしねぇでよぉ、どうか俺の顔に免じて一つ……なっ?」


とりあえず手を合わせる。ガキの一人や二人見逃せってんだ。


「初対面のお前の言うことを何で聞かなきゃならねぇんだ? いくらウチの店がこのクソガキのせいで損をしてるか知ってんのか?それとも何か、お前がこのガキの金を払ってくれるっていうのか? あ?」

「いや…………そのそれは……」


金はある。あるがコレは久しぶりに自分へのご褒美に使いたいんだよな。

金のガチョウとはいえ、こんなガキに使う金なんて一銭も無い。


「…………ハァ。わかった、わかったよ。チッ、仕方ねぇ。幾ら払えばいいんだ?」


無いのだが、無いのだが、無いのだが——俺は口走ってしまった。

金を持っていて気が大きくなってしまったのか、普段の俺では考えられない失態。


結局有り金の大半を取られてしまった。ぼったくられた気もがするが、これからを考えたら安いものだろう。そう考えることにした。


今日はたまたま俺が見つけたが、俺以外にこのガキの才能を見抜くやつが居ないとも限らん。

面倒だが、逃げられたら困るからな。上っ面だけでも仲良くするしかねぇか。


「お前名前は?」

「……春鈴」


なんだ、このガキ。辛気クセェな。

髪もボサボサでガリガリで骨みたいな体してやがる。

とりあえず恩人だということを教え込むか。


「そうか、俺は胡狼。お前を助けた男だ。お前はあのままじゃ奴隷にされてたからな。俺の機転のお陰だな」


流石に俺が助けたってのはわかるらしい。捕まっていたときに比べ態度がしおらしい。


「……ありがとうございます」

「おう、ところでお前の親はどうしてるんだ」

「……一人」


これはしめた。それなら俺が引き取っても文句を言う奴はいねーだろ。

とりあえず餌付けでもしておくか。


「帰るところがねぇなら俺のところに来い。乗りかかった舟だ、面倒くらいは見てやるよ」

「……」


少女はこっちを信用してるわけではなさそうだったが、やはり行く当てもないのか黙ってついてきた。


ねぐらについてから俺が食べ物を渡すと、ガキは貪るように食べたあと気絶するかのように寝てしまった。


次の日少女の身元を調べた。孤児院が引きとっている体で実際は放置しているようだった。

形だけ身元を引き受けていることにして、支援金を貰っているだけ貰ってるのか。ロクでもねぇ所だな。


俺は孤児院に引き取り人として話をつけに行った。万が一ガキの希少性を知っていたら面倒だと思ったが、案外すんなりと渡してくれた。

むしろ引き取ってくれてありがたいという雰囲気だった。

どうやら孤児院でも厄介な存在のようだ。……まるで昔の俺を見ているようでイライラする。


「よし、これで俺がお前の親だ。食べさせてやるからしっかりと働けや」

「……わかりました」


覇気の覇の字すら感じない返事。こんな奴を引き取って失敗だったか?


「あのなぁ、もう少しハッキリ話せや。誰のお陰で助かったと思ってんだ」

「はい、わかりました」


あまり変化がないが仕方ねぇか。これからどうにかなるだろ。


「ということで善は急げだ。すぐ町をでるぞ、準備しろ」


春鈴はその小さな足で俺の後ろを必死についてくる。

油断するとすぐに置いていきそうになる。

はぁ、仕方ねぇな。次の町につくのは多少遅くなるが合わせてやるか……。




最後まで読んでいただきありがとうございます。

次は21時頃投稿予定です。


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