開かずの間の屋根裏に……
昔々、あるところに一軒の洋館がありました。
六人の家族と、一人の使用人がそこには住んでいました。
二階の一番奥は『開かずの間』と呼ばれていて、その名の通り、誰もドアを開けたことがありませんでした。
鍵がかかっているわけではありません。ただ、なぜか誰もそのドアを開けなかったのです。
『あの部屋に入るとみるみる歳をとってしまう』とか『あの部屋には幽霊が出る』とかいった噂があれば、かえって興味を引かれて入ってみようとする者がいたことでしょう。
何もないからこそ、みんなが怖がって入らなかったのでしょうか。
まるで忌むべき虚無には誰も近寄らないように?
ぼくの名前はキョム。
開かずの間の屋根裏に住んでる。
誰もぼくに会いには来ない。
忌み嫌われてるんだ。
誰もぼくの姿は見たことがない。
自分でもどんな姿形をしてるか知らない。
もしかしたらぼくは存在してないのかもしれないね。
でも、こうやって喋ることは出来るんだ。
誰かを待って、誰かと話したいと希望をもつことは出来るんだ。
誰かがぼくを見つけて、笑って言葉をかけてくれるのを待ってる。
でも、こんなところにいたら見つけてもらえないよね。
降りて行こうと思う。
そろそろ下へ、開かずの間と呼ばれるその部屋へ、降りて行こうと思う。
そこから外へは出られないけど──
こんなところにいるよりは、たぶんましだから。
さぁ、行こう
あかるいところへ。
ある日、何も知らない少年がその部屋のドアを開けました。
洋館の中を探検していて、すべてのドアを開けて回っているうちに、開かずの間のドアも開けてしまったのでした。
部屋の中では小さな子供が泣いていました。
「どうしたの?」
少年は尋ねました。
「君は誰?」
顔を覆って泣いていた子供が、その顔を上げました。
子供には目も鼻も口もなく、ただ顔の真ん中に穴が空いていました。
少年は驚きましたが、持っていたスマートフォンを前に掲げると、動画を撮影しはじめました。
彼はこの、とても古い洋館に、幽霊を撮影しに来たのです。
「何もないかと思ってたけど、幽霊、いたー!」
喜ぶ少年の首を締め、息をしなくなったその体を子供は大事そうに抱き締めました。
転がったスマートフォンを拾い上げると、洋館の主は珍しそうにそれを眺め回しました。
妻も、家族全員が現れて、記憶の向こうへ消えて行きました。
そしてそこには何もなかったことになり、空っぽの古い洋館だけが残りました。
すべてが昔々のお話になりました。