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魔法使いと繋がる世界 ~三つ子の魂編~『2024年改訂版』  作者: shiori


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第十二話「想いの先へ」3

 私はスタッフルームに戻ってデスクの前に座る舞の隣の椅子に腰掛けて、そっとトレイに乗せて持ってきたコーヒーカップとミルクを優しく置いた。


「ありがとうございます。今仕事終わりました、何だか気を抜いたら意識が飛びそうでした……」


 コーヒーの香ばしい香りと共に、女子校生らしい澄んだ舞の声がスタッフルームに響く。


「お疲れ様、毎日大変よね」

「そうですね、でも、()()()()()()()()()()()()

「なぁに? 好きな小説の一節?」

「分かります?」

「それは、舞の事だから」

「だって、気付いたら、こんな風になってるんですから、人間なんて分からないですよね」

「そうね、私だってそうよ」


 久々に二人でいると自然と会話が弾んで、舞もこういう時間を心待ちしていたのだなとよく分かった。

 話を聞いてあげることで舞の気が楽になるのなら、それは私にとって大歓迎なことだ。私は舞の話に耳を傾けた。


「あたし、こんな自分にも何か出来ることがあるって、そう信じたかったんです。あたしの両親は脆くて、それでも懸命にあたし達のことを一番に考えて、苦労して、傷ついて、心配させないようにして……。


 それで、あたし、分かってしまったんです、このままじゃいけないって、あたしが頑張らなきゃいけないんだって、恩返しをしていかなきゃって。


 両親が本当の親じゃなくて、あたしと光は稗田家で産まれた養子なんだって教えられた時、そんなこと思いもよらなかったから、ショックでした。


 でも、それ以上にあたしは思ったんです。二人の愛は本物なんだって。本当の親じゃないのに、そんなこと気付かせもしないくらいに立派に育ててくれた、本当に立派な大人なんだって。

 だから、あたしは二人にこれ以上苦労をさせたくなかったんです」


 私の事を信頼してくれている証拠だろう。舞は溜め込んできた気持ちを解き放つように言葉を紡いだ。

 その言葉には家族を想う強い気持ちが込められていて、表情には憂いの色が出ていて、私は胸が苦しくなるほど、舞の苦労を感じ取った。


「すみません、つい久しぶりに先輩と二人きりだから嬉しくって、ついつい自分の事ばっかり」

「舞は本当に頑張ってるもの、だからいいのよ、自分をちゃんと誇っても」

「そんなことないです、あたし、今日だって先生に説教受けて。先輩が想ってくれるような人間ではないですよ」


 よく表情をコロコロ変える舞が少し涙ぐんだ。それだけで、私は舞の苦労が全部理解できた気がした。


「でも、覚悟の上だったんでしょ?」


 私は感傷的にならず、自然を装って聞いた。


「それは、そういうところもありますけど、分からないですよ。

 冷静に考えてみれば、周りからはただやりたいことをやってるだけに見えて、あたしって滅茶苦茶ですから」

「まぁ、そうね、舞の気持ち次第なのかしら、自分を事をちゃんと知ってもらうかどうかは」

「何だか、人生相談みたいになってます?」

「いいのよ、舞がそうしたいなら、話しはいくらでも聞くわ」

「いえ、悪いですよ、せっかく二人なんだから楽しい話の方がいいでしょ?」


 舞がしおらしく遠慮がちになる、色んな表情を見せる舞を救ってあげたい気持ちになった。


「それもいいけど、私、話したかったことがあるのよ」


 時間は有限であるからこそ私は思った。

 伝えたい気持ちは、そのタイミングを逃しては、手遅れになってしまう。

 誰しもが一度は経験することだ。

 

 舞と話をするのは楽しい。でも、私は私の思っていることをちゃんと舞に伝えないと、それでたとえ舞に嫌われることになったとしても、恐れて逃げることは簡単だけど、それでは何も解決はしないから。


 稗田さんのためにも、光くんのためにも、私が言わないと……。


 今、話さなければ、一生後悔することになるかもしれないと、私はそう思って、ちゃんと現実と向き合うことに決めた。


「そうでしたね、先輩、話があるから待っていてくれたんですよね」


 そう言葉にして、舞は右手に持っていたコーヒーカップを机に置いた。

 その様子を見て、今ならばと思い、私は口を開いた。


「私のクラスに昨日来た転校生、その子の話を聞いたら舞と光は双子じゃなくて、その子を含めて三つ子だって。それを聞いて驚いたけど、でも、舞は引っ越してきた稗田さんのこと歓迎出来ないんでしょ?」


「唯花先輩も、ですか……、あたしって、そんなにおかしいことを言っているんでしょうか」


「簡単には受け入れられないことは分かる。でも、本当の事を知ってしまった以上、それと向き合わないといけないんじゃないかしら? 

 私は水原家の両親は、舞にはちゃんと向き合って欲しいから、本当の事を話したんじゃないかと思うの。舞が真実と向き合えるだけ成長したと、そう、認めてくれたから話してくれたんじゃないかしら?」


 私は出来るだけ言葉を選んで舞に語り掛けた。

 舞や光も、二人を育てた水原家の両親も悪くないはずだから。


「分からないです……。でも、稗田家はあたし達にとって関わりを持つべき相手じゃないって、そう思いました。だって、両親はあたし達を引き取ったおかげで、今も苦労をしてるんですから」


「でもね、舞。両親はきっと、舞と光を引き取ったことを後悔していないはずよ、むしろ感謝しているくらい。

 だって、二人は両親から愛されているんだから」


 稗田家という存在が舞を頑なにさせているのはよくわかる。

 でも、それで引き下がっていいとは思えなかった。

 私の言葉を聞いて、気持ちが揺れたのか舞の肩がビクンと震えた。

 舞にとってその言葉は、痛いくらいに心に響く言葉だった。


「それは、その言い方はずるいですよ……っ、先輩っっ!!


 あたしの親は今までもこれからも、ずっとあの二人だけなんです。だから、あたしは二人にこれ以上苦労をさせたくなかった。


 正直“怖かったんです”、あの人が突然入ってきて、あたしのこれまでに頑張ってきたことが全部意味のないちっぱけなものになってしまうのが!! 


 簡単に受け入れてしまったら、今、あたしが頑張ってる理由もなくなってしまう……。こんな自分でも出来ることがあるって、家族のための支えになってるって、そういう自分になりたかったんです……」


 感情的に自分の中で溢れ返る気持ちを吐き出す舞、揺れる舞の気持ちを落ち着かせるように、私は言葉をかけた。


「大丈夫よ、舞」


 私は舞をそっと抱き寄せて、優しく頭を撫でた。

 ずっと強がってきた舞の涙腺が緩んでいくのを私は受け止めて、自分の中に封じ込めてきた感情を話してくれたことに感謝した。


「その気持ちはご両親にも伝わっているはずだから。もう、我慢しなくていいのよ。舞だけが、そんなに頑張らなくてもいいのよ」


 舞だけが一人で頑張らなくていい、一人で我慢しなくていい、そう、私は伝えたかった。


「先輩、でも、あたし悔しいです。

 こんなあたしでも、いいですか? 

 たぶん、あたしは稗田家のこともあの人の事も、一生許せないです。それでも、あたしはあの人と一緒に暮らしていくべきですか?」


 舞が言葉を紡いでいくたびに、これまで頑なだった部分の心が少しずつ和らいで溶けていっているのを私は感じた。

 確かに稗田家のことも、突然一緒に暮らすことも簡単に受け入れられることではない、そのことは私もよく理解できることであり、ちゃんと分かってあげなければならないと感じた。


 おそらく、()()()()()が一つになるには、失われた時間と同じく、現実を受け止めるだけの時間が必要なのだろう。私にはそれは想像も付かないことだが、それでも私は少しでも今を変えようと向き合おうとする気持ちを応援したくなった。


「すぐに信じるのは難しいことではないと思う。でもね、稗田さんはちゃんと思いやりのある人だと思うの、だから光は慕っているのではないかしら。

 だからね、ゆっくりでいい、お互いの事を知るところからでいい、まだまだ、人生これからなんだから、少しずつ、お互いのことを知っていきましょう」


「――――受け入れてくれるでしょうか、あたし、酷いこと言ってしまって」


 不安そうに俯く舞、その不安が杞憂であること、稗田さんとちゃんと向き合うべきである事、それが大切なことだと私は思った。


「大丈夫よ、会ってみれば分かるわ。舞と分かり合える日を、待ってくれているはずだから」


 私がそう言うと舞が小さく頷く、これで、少しずつ舞も変わろうとしている。そう信じることが出来た。


 それから私は、昨日の出来事を改めて舞に話した。舞は少し素直になったように、ハンカチを濡らしながら、その話を静かにずっと聞いていた。



「ありがとうございます、先輩」


 話しを終えて、すっかり遅くなって、日が変わろうとする頃、私と舞は着替えと戸締りを済ませてファミリアを出た。

 舞は疲れもあるだろうが、清々しい表情をしていた。


「いいのよ、ずっと心配だったから。でも、留年したって昨日聞いたのは本当に驚いたわ」

「それは、まぁ……、前々から言わないといけないなって思ってはいたんですが、なかなか直接じゃないと言い出せなくって……」

「そういうことってあるわよね……、時代が変わっても、人間って根っこの部分では、きっと変わっていないだろうから」

「顔色が見えた方が、安心することってありますから」


 私が徒歩で帰るのに対して、舞は駐輪場に停めていた自転車に乗った。

 舞のスカートは短くて、サドルに乗って足を広げると思わず下着が見えそうだった。

 夜風で一段と寒さが厳しい春風で肌寒さを全身に感じながら、上着でなんとかそれを誤魔化して、私は舞に手を振る。


「それじゃあ、夜道気を付けて」

「先輩こそ、気を付けてくださいね」


 言葉を交わして、舞は手を振って先を行った。

 ファミリアから自宅までは、舞の方がずっと遠く、唯花は歩いて来ることの出来る距離なので、普段から歩いてきていた。


「これで少しは、状況が上向いてくれるといいのだけど」


 私は世話が焼けるなぁと思いながら、三つ子が仲良くなれる時を願って、ゆっくりと晴れやかな気持ちで帰り道を歩いた。


タイトルにもなっている通り、三人の絆をどう取り戻していくのかが大きなテーマだったので、このシーンをちゃんと見せるために、どう導線を引いて、物語を組み立てていくのか、ずっと考えながらやってきたかなぁと思います。


 会話のセリフ自体は、このシーンを書く段階になって、初めて考えて書きましたが、気持ちが上手く伝わるものに出来ていたらいいなぁと思います。


 もうしばらく、EP1は続きますので、今後ともよろしくお願いいたします。

 

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