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第十一話「リトルソーサラー」1

 真奈に懇願され知枝は魔法使いについて教えることになった。


 別の部屋の静かな場所でゆっくり話そうと思った知枝だったが、初めてやってきた家でどこに行けばいいのか戸惑ってしまい、結局真奈に引っ張られて二階に上がり、今現在真奈が使っている部屋に入った。


 真奈に案内され丁寧にお辞儀をして部屋に入る知枝だったがその部屋にベッドはなく、真奈はいつも自分で布団を敷いで眠っているのだった。 


 なお、二階の他の部屋は劇団で使っていた備品や衣装などがある物置と二階で一番広い浩二の部屋があるだけである。


「なんか、きんちょーする。胸がゾワゾワっとしてフシギなきもちなの。それにね、おねえちゃん、近くにいるといいにおいがして、ココロがキレイになるみたいなの」


 知枝の隣に座った真奈は今まで感じたことのない感覚に驚き興奮して、知枝の手を離せなかった。


「それは真奈ちゃんの綺麗な心が私に反応しているからだよ」


 手が触れているだけで想像以上の魔力を感じることに知枝は驚いた。

 しかし、それは感情によって左右されやすいまだ幼いもので、制御されていない不安定な状態だった。

 潜在的なマナの蓄積量というべきか、まだ能力が発現されていない可能性の多い個体といえた。


(潜在的なマナの総量は私以上か、いや、そんなはずはないと思うけど。でも、まだ自分の持つ魔法使いの才に気づいていない。

どうしようか、ゆっくり身体から魔力を放出する感覚を馴染ませて、慣れてから目覚めさせないと危険を伴うだろう。

 少しずつ、慣れていった方がいい、最初は戸惑うはずだから)


 自分の意思で能動的に発揮できるような干渉力や発現力を持ち合わせたものではない。


 今、自分が持っている魔力に感応にして、備わっている魔力に気付き戸惑っている状態だろうと知枝は印象を受けた。


 どうしてこの子がこんな可能性を秘めているのか、不思議に思いながら、魔法使いの血が騒ぐ知枝はどうにか焦る気持ちを抑えなければならなかった。

 

「ねぇ、なにをおしえてくれる? どんなことがおねえちゃんできるの?」


 可能性に満ちた素体である真奈が知枝に質問した。


「そうだね、真奈ちゃんはテレパシーって知ってる?」


 基礎的な部分から興味を持ってもらおうと思い、知枝は聞いた。


「テレパシー? ユリゲラーじゃないの?」


「そ、それは超能力者ね……、テレパシーはスプーン曲げではないの。

 うーんとね、心で通じ合う、言葉として会話しなくても、相手の思ってることとか考えていることが分かったり、自分の気持ちを言葉やジェスチャーにせずに相手の頭に直接伝えることよ。

 慣れると少し離れていても、出来るようになるんだよ」


 知枝は子どもの知識に合わせて放すのは苦手だったが、出来るだけ分かるように話したつもりだった。


「なにそれー!! すごいすごい!! はなれてても会話できちゃうの?!」

「そこまでいけるのは、本当に特殊なケースだと思うけど、才能次第で深く相手を思うことで、相手の記憶に触ることもできるの」

「うにー、なんだかむずかしそう……」


 個人番号を登録することを義務付けたことで普及した生体タグを活用した生体ネットワークによって、既にテレパシー会話は人類が習得可能なものになりつつあるが、それでも真奈は目を輝かせて興味を抱いた。


「まず最初は初歩からやってみましょう。私の目をじっと見て、私の考えてることを想像してみて」


「う、うん、やってみるっ!」


 無邪気に実行に移す真奈の様子を知枝は冷静に見つめる。

 最初は真奈の持つ魔力の流れに驚かされた知枝だが、真奈の素直さに安心感を覚えていた。


(真奈ちゃんにESPの才があるとすれば、無自覚であることの方が、将来的に見れば普通の人として生きるのは難しい可能性もある。これだけの魔力を秘めているなら、それだけで身体に負荷を与えることだってありえる。でも、どうして、真奈ちゃんが……)


 ESP(Extra Sensory Perception)にはテレパシーや予知、透視などがあり類義語に第6感が馴染み深いものとしてある。

 知枝自身、遺伝的に霊感を持っていて、幼い頃からこうした超能力の鍛錬を続け、人よりも鋭い感知能力を持っている。


 真奈の持つ才能に関して考えてはみるがすぐに答えの出るようなものでもない。今はこの場の講習に集中すべきだろう。知枝はそう決めて、真奈に読み解いてほしい思考に集中した。


(真奈ちゃん、私の考えてること、読み解いてみて!)


 テレパスを使える知枝は少し力を込めて干渉力を高めると、真奈の意識の中に潜り込み思考を覗いてみる。


(うにゅー、なに、光が付いたり消えたりして、なにか聞こえてくる)


 どこに何があるのか分からない宇宙のように広がる空間の中で、光が灯り何かが浮かび上がる。


 そこに一つの扉が現れ、誘うように扉が開く。

 真奈はその扉に向かって、一歩ずつ歩いていく。


(真奈ちゃん、聞こえる?)

(あれ、まほうつかいのおねえちゃんのこえが聞こえる、どこから? どこにいるの? お姉ちゃん)


 目は閉じているが、それでも映っている眩しい光のせいで、扉以外の物が見えない。真奈は半睡眠状態に陥るように身体の感覚が鈍くなる分、頭に響いてくるような声がはっきりと聞こえた。


(大丈夫 真奈ちゃん、聞こえるよね)

(うん、聞こえるよ)

(それなら、大丈夫、これがテレパシーだよ)

(でも、マナ、なにもしてないよ?)

(それは、真奈ちゃんの力が強いから)

(そんなこと言われても、わからないけど……)


 真奈はこれがテレパシーなのか実感のない感覚に戸惑った。

 すぐにアクセスが繋がり会話が出来ている。一体どれだけの力を秘めているのか、知枝から見ても未知数だった。

 しかし、力の使い方を誤ってしまったら……、そう考えると知枝の心境は複雑だった。


(真奈ちゃんは、まほうつかいになって、どんなことがしたい? どんな力がほしいのかな?)

(分からない……、でもこうしておしゃべりできるのは、とってもフシギな心地、ユメの中にいるみたい)


 真奈の集中力の成せる技か、テレパシーだけで半睡眠状態になっている。

 願いの強さは力の開放に影響する、真奈の純粋な願いが、自然と力の開放しやすい状態に体が導かれているのだと知枝は感じた。


(なに……、マナの中に、なにか流れ込んできて、くるしい……)


 悲鳴や銃声、薬莢の臭いや血の匂い、突如として広がる意図しない残虐な光景。

 あらゆる感覚を過敏に刺激するように、恐怖心が膨れ上がっていく。


(どうして……、人が倒れてる……、たくさん、ひとり、ふたり、さんにん、わからない……)


 段々と抜け出せないほどに意識が残酷な情景に引きずり込まれていく。


「真奈ちゃんっ!!!!!!!!」


 危険に気付き、声の届かない真奈へ向かって知枝は大声で叫んだ。


「えっ? おねえちゃん……?」


 声に気付いた真奈は目を開いて、知枝の姿を見た。

 心配そうに見つめる知枝の姿を見て、真奈は自分が遠いところにいたような感覚を感じた。


「大丈夫? 真奈ちゃん」

「うん、なんだか、こわかった……、あれがおねえちゃんのキオク?」

「たぶん、そう。ごめんね、私の思考が乱れてたからかも、テレパシーをするだけのつもりだったんだけど」


 予想外の結果に知枝は動揺した。無意識のうちに真奈は知枝の記憶に入り込んでいた。

 真奈が見ていた光景は知枝にも分かった。それが自分の過去の記憶であり、本来思い出したくないものだと分かり、申し訳ない気持ちになった。


「ごめんなさい、たぶんね、勝手に足が動いて、扉の中に入っちゃったんだと思うの」

「扉が見えていたの? ずっと」

「うん、光の中にね、ポツンとあって、きっと、あれがおねえちゃんのキオクの中へ入るためのトビラなんだね」


(真奈ちゃんは、そういうイメージを頭の中で自然と作り出して、無意識のまま私の記憶の中に入ってきた。とすれば、真奈ちゃんの深層心理の中に何らかの意思を持った何かがいるのかな? 潜在的な“知りたい”という願望、それが無意識に働いて、私の記憶に触ろうとした。そういうことなのかな……)


 まだ幼い真奈の心にある無意識的な好奇心が思考を遮断して、求める方向に進んでしまったということか、これは慎重に向き合う必要があると知枝は思った。


「真奈ちゃん、ちゃんと私の声に耳を傾けていれば大丈夫だよ」

「そうしたら、わるいユメ、みない?」

「うん、一緒に楽しいこと考えよう」


 思い出すだけで心が痛むことがある知枝は、真奈な自分のせいで傷つかないようそう語り掛けた。


「うん、でも、おねえちゃんの中、悲しいこと、辛いこと、痛いことでいっぱいだった、かわいそう」


「そう、かもしれないね。大人になるってことは、いろんな辛いことも、悲しいことも経験して、成長していくものだから」


「そっか、おねえちゃん、とってもがんばったんだね」


 真奈はそういって、知枝に抱きついてくる。知枝はそれを受け止めて、ギュッと優しく小さな身体を抱き寄せた。


 知枝は真奈の温かい心、優しい気持ちに触れた。それが家族や周りの人たちによって支えられていること、育まれていることを知った。


(真奈ちゃんといると、大切なことに気付かされるな……、当然のように醜い社会に染められちゃってたのかも……)


 もう一度、原点に立ち返って、自分の成すことに責任を持とうと、知枝は改めて思った。


「―――――あのね、みんなには言えないけど、マナ、ねがいごとがあるの」


 テレパシーという不思議な体験を初めてした後で、真奈は遠慮がちに口を開き、躊躇いながらそう言った。


「なあに? 教えて」

「おにいちゃんやおねえちゃんには言わないでね、たぶん、叶わない願いだから、こまらせちゃうとおもうの」

「うん、わかった、知枝おねえちゃんとの約束だよ」

「うん、ありがとさまなの」


 知枝とまだ幼い真奈は互いの小指を結んだ。それは真奈にとって最初の魔法使いの誓いだった。


「マナね、ほんとのおとうさんと、おかあさんに会いたい、ユメの中でもいいから、この目で見たい。しゃしんやどうがじゃなくって、この目で見たい。

 それでね、マナは元気だよって、伝えたいの。きっと、よろこんでくれると思うから」


 真奈の願いは平凡な願いで、でも、途方もないほどに叶えられない願いで、切ない想いだった。


「真奈ちゃんなら、その想いをずっと忘れずに思い続けていれば、その願いはきっと届くよ」


 知枝はいつかその願いを叶えて上げたいと心から思った、自分の持ちうる全てに賭けて。

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