表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法使いと繋がる世界 ~三つ子の魂編~『2024年改訂版』  作者: shiori


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/42

第九話「止まない雨」2

 浩二と唯花に連れられて樋坂家まで知枝はやってきた。


「さぁ、稗田さん、入って入って!」


 自分の家のようにそう言いながら唯花がドアノブに手をかける。

 誤解を受けかねない案内だったが、今の知枝にはそれに気付く余裕はなかった。


「私、いいんでしょうか、ご迷惑ではないですか?」

「大丈夫よ、こういう時は遠慮しないで」


 唯花のことを疑う気持ちはなかったが、知枝は心配そうに浩二の方に視線を送った。


「ああ、気にしなくていいよ、うちは親もいないし、無駄に広い家だからな」


 広い家……、その言葉に知枝は思い出すように罪悪感を覚えた。確かにそう、普通に暮らす人にとってはそうだろう。ましてや、妹さんと二人で暮らしているのなら、知枝はそう思ったが、稗田家の豪邸を思い出すと、酷く罪悪感を覚えた。


(確かに、家の広さなんて、自分たちの地位の高さをアピールするだけのものでしかない)


「こんなに濡れたままですみません、お邪魔します」


 知枝は一度頷いてから二人に向けて言った。

 それを聞いて、唯花は“大丈夫だよ”と一言言って扉を開けた。


「おにぃ、おかえりーー!! 言われた通り、おフロもうすぐ入れるよ!」


 元気な声で真奈が出迎えてくれる。浩二がここまで歩きながらメッセージを送り指示した通り、真奈は知枝がすぐにお風呂に入れるように準備を進めていた。


「ただいま、真奈」

「真奈ちゃん、ただいま」


 二人が帰ってきたことで弾ける笑顔を見せる真奈。まだ小学生になったばかりの小さな子ども、こんな子どもと樋坂くんは二人で暮らしているのかと知枝は気づき、それは大変な境遇だなと思った。


「お邪魔します、真奈……ちゃん」


 知枝は割り込む立場に申し訳なさを感じながら、真奈に断りを入れた。

 真奈は初対面で少し怯えたように、浩二の身体にしがみ付いた。


「真奈、クラスメイトなんだ、雨宿りさせてあげてくれるか?」

「うん、わかった、おにぃ。このおねえちゃん、かなしそうな顔してる。どうして?」

「ずっと雨に濡れてからな、お風呂入ったら元気になるさ」


 そう言うと真奈は小さく頷いて、心配そうに知枝のことを見ていた。

 知枝は心に突き刺さるような、ビリビリとした強い感覚を真奈から感じた。


(この子、こんなに強い感覚……、感じたことないくらい。どうして、こんな子どもが……)

 

 雨に濡れた知枝は目が覚めるように驚いたが、何とか表情に出さないよう努めながら、二人に誘われるままに玄関を上がる。


「稗田さん、風邪ひかないように、先にお風呂入って。その間に着替え、家から持ってくるから」

「すみません……」


 唯花に優しく案内されて脱衣所に知枝は入った。

 家庭的な雰囲気に触れると、知枝は胸が苦しくなった。


 浩二と唯花は買い物で買った重い荷物をダイニングに一旦おいて、ようやく一息ついた。


「浩二、何があったと思う?」


 唯花はここに帰ってくるまでずっと疑問に思っていたことを聞いた。


「分からない、そもそも俺たちは今日知り合ったばかりなんだ」


 稗田知枝(ひえだちえ)という高校三年生になって凛翔学園にやってきた帰国子女。二人にとって最も興味惹かれることは友達である光と舞と三つ子の関係であることだった。


「そう……、だよね、公園にいるとき、深刻そうな表情してた、私、放っておけなくて……」

「分かってるよ、俺だって同じ気持ちだ」


 浩二は自分一人であったら、ここまで行動できた自信が持てず、お節介が発動した唯花を労った。


「うん、ごめん。私、冷静じゃなかったね」


 感受性の高い唯花が落ち着かない様子でいると、どうしたもんかと浩二は考えていた。今日知り合ったばかりのクラスメイトを家に上げることになるとは、思いもよらないことだった。


「あの人、かわいそう。おにぃ、あの人とってもつらそうだったの。ココロがギューって締め付けられて、なやんでなやんで、なんだか、頭の中がぐちゃぐちゃなの。ねぇ、あの人のこと、助けてあげて」


 真奈が浩二の腕を掴み普段は見せないぐらいに不安でいっぱいな表情をしている。浩二は真奈が初対面の相手を前に、真剣に助けてあげたい意思を示しているのに驚き、どう言葉をかけてあげればいいのかに迷った。


「大丈夫だよ、稗田さんは頭がよくてしっかりしてるから」


 安心させようと真奈のことをぎゅっと浩二は抱きしめる。そうすると真奈はようやく落ち着いて、身体を離した。


「でも、どうするの? 私はこれから家にサイズ合いそうな着替えを取ってくるけど」


 唯花がそう言うと、浩二は考え込むようにして、また口を開いた。


「光に連絡してみる、光に迎えに来てもらった方がいいだろう」

「そ、そうだね、姉弟だもんね……、三つ子の」

「あぁ、二人は親密そうだったし、光に任せた方がいいだろう」

「うん、分かった。それじゃあ、連絡任せたよ」

「おう、唯花はこっちに戻ってきたら、料理の準備頼む」

「もちろん。それじゃあ、行ってくる」


 会話を終えると、唯花は玄関を出て自分の家へと向かった。

 残された浩二は携帯を取り出し、光に連絡をした。

 通話が無事繋がると浩二は光に事情を説明した。


「お姉ちゃんが? どうしたんだろう……、家で何かあったのかな。とりあえず、浩二君の家に行けばいいんだね?」

「あぁ、俺と唯花で解決できる問題でもないだろうし、光も同伴の方がいいだろう」

「そうだね、お姉ちゃん、立派な人だけど、自分の中で抱え込んじゃうタイプだから。急いでいくから心配しないで」

「あぁ、サンキューな、光」

「うん、こっちこそ、お姉ちゃんの事、助けてくれてありがとう」

「近くに来たら、また連絡くれ、迎えに行く」

「うん、そういえば、二回目……かな、そっちにお邪魔するのは。ありがとう」


 話し終えてお互いに通話を切る。

 それからすぐ、唯花が着替えを手にやってくると、知枝はまだお風呂の中にいるのを知り安堵した。


「稗田さん、着替えここに置いておくね、後、着てた服、乾かしておくから」

「あ、ありがとうございます……!!」


 湯船に浸かりながら慌てて返事をする知枝の声を聞いて、唯花は元気が少しは戻っているのが分かり安心することができた。


(はぁ……、私、こんなところで、何やってるんだろう……)

 

 知枝は恥ずかしくなって肩まで湯船に身体を沈める。

 

 逃げ出すように、公園で雨に濡れていた自分。


 人の優しさに触れ、次第に自分のした迷惑に気付かされた知枝は、自分の無防備さに罪悪感を覚えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ