第八話「二人の交差地点」2
職員室に入って転校生であることを告げると、担任の先生のところまで案内された。
本当はたくさん書類を書かなければいけないそうだが、今日のところは免除された、おそらく明日か明後日書かされることになるだろう。
「それじゃあ、さっそく教室に行こうか」
朝の職員会議のせいもあって、担任の漆原先生から受ける説明の時間はほとんどなく、思えば心の整理を付ける時間もほとんどなかった。
始業のチャイムが鳴り、慌ただしく各教師は立ち上がって、各々の教室へと向かっていく。私は漆原先生の後ろに付いて三年生の教室が並ぶ階へ向かった。
「前理事長の孫で、学園長の親戚というのは本当か?」
漆原先生は思ったことは直球で聞いてくるタイプなのか、互いに教室まで歩きながら聞いてきた。
「はい、そうです」
「そうかそうか、稗田家の人間を生徒に持つことになるとは、人と人の巡りあわせというのは不思議なものだな。」
陽気な口調の裏でこの先生が何を考えているのか私にはわからなかったが、この人が一年間を受け持ってくれる担任の先生なんだ、あまり警戒されないようにしないと。
「君がどういう意思で、ここに来たかはわざわざ聞かない。気が向いたときに話に来てくれればいい。目的があるというなら協力もしよう。それが教師というものだろう?」
「それは、分かりませんけど……」
何だか、聞けば聞くほど思考の読めない人だ、意味深なことを言って惑わせようとしてるのかな? まさか諜報員? いや、そんな深い考えはないと思いたいけど。
「まぁ、いいさ、警戒はしないでくれればいい。ただ、うちの生徒に迷惑はかけないでくれよ?」
そう言葉にした漆原先生の目は真剣そのものに見えた。これが教師というものか、私は心の中で思った。
「さぁ、ここが私の教室だ。紹介するまで外で待っていてくれるか?」
「分かりました」
私が返事をすると、日常が始まったように、先生は教室に入り、生徒たちに声をかける。私はその様子をとても懐かしいものを見るような目で見ていた。
先生に呼ばれ、少し緊張しながら教室に入り、教壇に立つとみんなの視線が私に集まる。同じ歳の子たちがたくさん目の前にいる、それだけでも私にとっては懐かしかった。
当たり前が当たり前でない、それだけ私は特殊な人生を送り今に至っている。
でも、この場所が今日から私の新しい日常になる、心なしかそう考えると胸が躍った。私にも人間らしい純粋な気持ちがあったんだ、バカみたいにそれが嬉しかった。
(ねぇ、おばあちゃん、見えていますか? これがおばあちゃんの作った、守り抜いた、今の学園の姿、生徒たちの姿です)
春の息吹を感じる出会いの季節。私はこの嬉しさを込めて、みんなに向かって挨拶をした。
「皆さん初めまして、稗田知枝です――――――――――――――――――――――――
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私は言葉を紡ぎながら一人の男の子と目が合った。光だった。
(そっか、よかった、光も同じクラスなんだ)
偶然か教師の思いやりか分からなかったが、同じクラスに光がいるならなんとかやっていけそうだと安心した。
こうして、私の学園生活は始まった。




