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魔法使いと繋がる世界 ~三つ子の魂編~『2024年改訂版』  作者: shiori


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第七話「決意の先へ」2

 しばらく歩いて私はプリミエールを連れて霊園に辿り着いた。

 市の自治体によって管理された公営霊園は広い敷地を誇り、厄災によって犠牲になった犠牲者の数を表すように、墓石が立ち並んでいる。


 市の北側にある神代神社(かみしろじんじゃ)に近い、山中に位置するこの霊園は静かで、まだ春先ということもあり、過ごしやすい陽気だ。


 プリミエールは先ほど口にしていた通り、本当に遠くから私のことを見守っていた。


 ドーム型の建造物もある広い敷地を誇る綺麗に手入れの行き届いた霊園、厄災の犠牲者の多くがここに今も眠っている。


 想像を超えた規模の厄災の爪痕が、墓地となって今もここに残っているのが伝わって来る。


 意識を研ぎ澄ませてもおばあちゃんの気配は感じられない。あれほど一緒にいるときは傍に感じられたのに、一緒にいるだけで何もかも理解しあえるような、そんな喜びをいつもおばあちゃんは与えてくれた。


“おばあちゃんから教わったたくさんのこと、今だって忘れてはいない”


 一歩一歩、ゆっくりと時の流れを感じながら踏み締めていき墓石を確認していく。


 歩き続けるとひと際大きな墓標を見つけ、それが祖母のものであることが分かった時、はち切れそうなほどの感情の波が押し寄せてきた。


 稗田黒江の名が刻まれた墓標を前に背筋が自然と伸びる。


 祖母は36歳の頃にこの舞原市に凛翔学園教諭として転勤し、厄災に巻き込まれた。そして、その厄災を娘の凛音と共に生き残った。


 私のお母様を祖母が守り抜いたからこそ、私はこの世に生を受けることが出来た。

 

 命は確かにこうして繋がっているのだ。私は晴天となった青空を見上げ、時の流れに思いを馳せた。

 

「おばあちゃん、今、戻りました。待たせてしまってすみません、必ず約束を果たします、だから……っ」 


 私は生前祖母が好きだったラベンダーの花をお墓の前に添えて言葉を掛けた。

 一緒にラベンダー畑を見たこと、まだ小さかった頃の記憶が蘇る。

 

 言葉にした直後、たまらなく私は感極まって泣き崩れてしまった。

 どうしていいのか分からない時、今でも祖母の手を借りたくなる。そんなことはもう出来ないのに。

 でも、苦しい時も、悲しい時も、つい、祖母のことを思い出してしまう。


 なんでも相談に乗ってくれたこと、分からないことも親切に教えてくれたこと、今だって忘れない、大切な思い出達。



 私の祖母、稗田黒江は4年前の2055年に発生した香港劇場火災事故で負傷をした後、帰国した日本で死亡した。

 事故発生直後、容体は報道規制される中、プライベートジェットで帰国した祖母だったが、負傷した怪我は重症であったのか死亡が確認された。


 私はその時、日本を緊急帰国したが、父に本家に戻ることに制止され、祖母を看取ることは叶わなかった。


 悲報を聞いた時は信じられない気持ちだったが、父の手伝いをしていたプリミエールから告げられると、納得するしかなかった。


 その後、祖母はこの舞原市で深い眠りを送ることになったが、私は祖母の葬儀を終えてから、過酷な道を自ら選び出来るだけ祖母がいなくなった現実を直視しないよう、向き合わないように努めた。


 でも、もうそんな風に目を背けている子どものままではいられない。

 私は本当の意味で祖母に別れを告げるため、祖母の遺志を受け継ぐためにここに来たのだ。



「おばあちゃんが再建した学園?」


 昨日のことのように思い出すあの日のこと。まだ小さかった私、いつか別れが来ることなんて思いもしなかった幼き頃。


「ああ、いつか知枝にも見てもらいたいんだよ。

 そして、そこでたくさんの思い出を残して欲しいんだ。

 おばあちゃんが何としても残したかったもの。その価値を、その目で見てほしいんだよ。


 そこには、きっと知枝が知りたかったことがある、まだ知枝には教えられていないことの全てがそこにある。


 だから約束だよ、知枝、おばあちゃんとの約束よ」


「うん、約束、おばあちゃん」


 白く霞んでしまう記憶、忘れてはならない約束、祖母は再建した凛翔学園のことを、そう話していた。


「もう迷わない、私がおばあちゃんの後を継ぎます、魔法使いとして、どうか見守っていてください」


 私はやっとここまで来た。今一度、私は決意を祖母に語り掛けた。


 明日から、いよいよ祖母と約束したその学園に通うのだ。

 祖母が生涯をかけて復興させ、再建した学園。そこに何があるのかまだ分からないけれど、私は真実に辿り着いて見せる。


 決意を新たに私は立ち上がって、私はラベンダーの香りから線香の香りまで心に刻みながら、決意を固め、墓標の前を後にした。



「で、まだ付いてくるわけなの……」

「それはもう、わてぃしも水原家の方にはお会いしたかったですし、お嬢様をお任せするのですから、ご挨拶するのが当然でしょう」


 《《会ったことがあるのに何を今更》》と言いたい気持ちを私はグっと堪えた。


「――――プリミエール、あなたって本当、何もわかってないのね」


「何がですか? わてぃし、間違ったことを言いましたか?」

「もういいわ、言ったところでどうにかなることでもないから」


 稗田家と水原家、その関係が根深いものであっても、舞と光の血縁の事情のことはなかった事にしたい、それは双方の一致する見解だった。


 私にはどうすることも出来ない範疇、親同士の、家同士の決め事。今更私が干渉できることではないことはよく分かっていた。でも私はそのまま二人のことをなかったことにするなんて受け入れられなかった。


 だから、これも全部わたしのわがままであることに違いはない。私なりに精一杯頑張って考えて、ここまで来たけれど、本当のところ私のしていることは水原家、稗田家双方にとって迷惑な干渉だろう。


 ずっと煮え切らない気持ちを抱きつつも、それでも私は前に進むために、失われたものを取り戻すために奔走することはやめない、そう心に誓った。


「明日から私は学園に登校しないといけないんだから、今日で帰るのよ」

「そんなぁ、そんなに邪険にしなくてもいいじゃないですか……」

「困るのよ、お世話係がいるなんて思われるのは。私は特別扱いされたくないの、学園に通う以上は普通の生徒でいたいのよ」

「その成長した姿勢はわてぃしには複雑です……。喜んでいいのやら、悲しんでいいのやら……」


 プリミエールは寂しげに項垂れた、彼女は私の教育係(今では秘書だけど)だけをしているわけではないから、そこそこ忙しいはずなのだけど、私の前ではそんなところは微塵も見せないから、こっちがむしろ心配になってしまう。


 計算高いところが元々あるから、私の行動予測までして、隙あらば私に引っ付いてきているのかもしれない。


「……お父様は元気にしていらっしゃるのでしょう?」

「はい、それは心配なさらずに」

「それじゃあ、お父様の事をお願い、私には出来ないことだから」


 父は立派な人だが、もう祖母の葬儀の時以来会っていない。

 正直何を考えているのかもよく分かっていない。だが母や祖母がいなくなって、稗田家のことを一手に抱えているという事だけは分かっているつもりだ。

 父が私を遠ざける理由を今まで考えてきたが結論は出ていない。父には父なりの複雑な思惑というか、こうしたい感情があるのかもしれない。


 だが、いずれ接触することになるだろう、そのことだけはもう分かっていた。


 父が厄災の真相についてどれだけ知っているのか、そのことは分からない。でも、私がその答えに辿り着いたとき、その時が父と会う時なのだろうと、魔法使いの勘なのかどうか分からないが、何となく私は感じていた。

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