第六話「策謀の銃声」1
光との邂逅を終えてホテルのチェックインを済ませた私はホッとした心地で部屋へと入った。
「ふううぅぅ……」
自分でも気付かなかったほどに緊張状態が続いていたのか、部屋に入った途端どっと疲労感が巡って来ると思わず声が漏れた。
さっきまでと違って、急に静かな場所に入ると、つい先ほどまで過ごした時間の事を思い出してしまう。
「光、思った通りの優しい男の子でよかったな」
今日の記憶を思い返して思わず笑みがこぼれる。
私は心地いい再会の余韻に浸りながら、部屋の隅に旅行用カバンを置くと、ベッドメイクされたふわふわのベッドに倒れこんだ。
「肩が凝っちゃった……、シャワーの後でマッサージでも頼もうかな……」
身体能力に自信があるわけではなく、ずっと重いものを掴み移動していれば人並みに疲れてしまう。
一人でいると急に心細さを感じて、人がいないのをいいことに人差し指を口に含んで吸ってしまう。寂しい時にやってしまう癖のようなものだ。
「明日はおばあちゃんのお墓に行って……、水原家に挨拶に行かなきゃ……」
アメリカでの生活で一人旅は慣れているが、日本ではそうではない。
日本特有の文化や民族性もあるから、思い込みではうまく行かないところがあって気を配るところはつい多くなってしまう。
今は平和な国ではあるが、ただでさえ女の子の一人旅は危険がいっぱいだと言うことを改めて見つめ直しておくのが大事であり、用心するに越したことはない。
「とはいえ、いざとなれば自衛の手段はあるし……」
難しいことばかり考えていては疲れてしまう。私は少し荷物を整理してシャワールームに入ることにした。
ホテルの洗面所兼脱衣所で服を脱いで浴槽のある方へ移りカーテンを閉める。
シャワーヘッドから温かいお湯が吐き出され、疲れた身体に潤いを与えてくれる。持参しているボディーソープで身体を洗っていくと、泡のついた石鹸が浴槽から絶えず排水口に向かって流れていく。
シャワーに入って5分もしたところで、不審な物音が聞こえ、瞬時に意識を集中して身構える。集中すればシャワーを流しながらでも問題なく気配は感じ取れる。
(侵入者……? 物音からして玄関からではないようだけど、まさか部屋に誰かが隠れてたなんてことないよね……)
ルームの入り口の扉が開閉される音は聞こえなかった。つまりはそれが侵入者であるならばベランダから侵入したか、元々どこかの部屋に隠れていたということ。
身なりは年頃の少女、むしろロリ体型といえる私(未だに中学生に間違われるのは心外だ)であるが、こうした事態に身じろぐような私ではない。荒事や事件に巻きまれた経験だってある。
自信過剰に侵入者を制圧しに向かうのは危険ではあるが、今頼れるものはこの身一つしかない、迷っている時間がないことはもう分かりきっていた。
私は覚悟を決めて、シャワーを流しっぱなしにしたまま侵入者に覚られないにカーテンを静かに開ける。
また一つガタンッと物音か、足音か判断しかねるが耳に届いて一気に緊張感に包まれる。気のせいだとか勘違いだとか何度もリピートしながら考えるが、油断してはならないと何度も否定して、そう信じたくなる気持ちを抑えた。
悪意がいつ、どこで向けられるかなんてわからない、この世界は残酷なんだ、そう何度も自分に言い聞かせて生きてきた。
覚悟が出来ていなければいざという時に生き残ることが出来ない、それは祖母から教わったことの一つでもあった。
迷いを捨てさって白いふわふわのバスタオルを右手に掴み、急いで音を立てずに、髪と身体を軽く拭いてから上半身に巻き付ける。
太ももは途中までしか隠れてはいないが、この際気にしてなどいられない、私はドアノブを掴み、一度深呼吸をした。
(大丈夫だ、今の私ならやれる……っ)
こんなことで他人に余計な迷惑はかけたくない、そうした気持ちがドアノブを強く握らせていた。
そして私は意を決してドアノブを回し、一気に開き洗面所から出た。
身体を部屋の方に向けると黒いマスクをした男の姿が視界に入った。
服装も黒で統一され、顔はマスクをしているせいで顔半分が隠れていて、知り合いであってもすぐに判断は難しいだろう。
そこからは一瞬だった。まさにスローモーションに視界は瞬間的に切り替わり、相手の姿を視界に捉えたと同時に、互いに右手を相手の正面に捉えるように振り上げ、その手には拳銃が握られている。視界に捉えている以上、間違えようのない凶器を互いに向け、相手の姿を捉えると二発の銃声が部屋中に響き渡った。




