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魔法使いと繋がる世界 ~三つ子の魂編~『2024年改訂版』  作者: shiori


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第五話「西暦2059年」2

 西暦2059年、時代は変わったようでいて大きく変わっていない。多くの課題を抱える中、世界的に求められてきた目標も果たされたとは言い難く、人は未だ歯がゆさを感じるほどに前進することが出来ないでいる。


 それは潜在的に人という生物は変わらないことを望んでいたからだろう。


 いや、人自身が人という生物を誤解しているのかもしれない、人だけが生物の中で特別であると。


 進化の歴史を辿れば特別であるということは簡単に否定できるようなものではないが、文明としての進化と生物としての進化は別に考察する必要があるだろう。


 人であれ、どんな生物であれ、10年や20年で大きな進化を遂げるようには出来てはいない。


 欲望のままに繁栄し続けて膨れ上がった人類により続けられた開墾に続く大量生産、大量消費。

 それに伴って社会問題となって広がっていった多くの事象は、環境破壊にも繋がっていくこととなった。

 

 社会問題として広がる家庭ゴミや食品ロス、様々な疫病の元となる環境汚染、文明の発展に伴い発明された製品の大量生産のために必要とされた、さまざまな資源の消費が、異常なまでの速度で地球環境を脅かしていくこととなった。


 本質的に便利さを捨てきれないのが人間の本性であり、時代を重ねるごとに求められる生活の水準も向上し、必要不可欠である水や食料はまだしも、電気やガス、娯楽の類いまで、人の欲望を満たすために安定的供給が継続され、文明は発達し続けている。


 便利な暮らしからの転換は難しく、先進国と発展途上国、共に豊かさと求めて経済的発展を優先させた政策が継続されている現実は変わりない。

 

 都会と地方の格差、先進国と発展途上国の格差。

 ネットワーク社会によって見えるかが進んだことで、セーフティーネットは充実することになったが、それでも世界は争いが無くなることはない。


 自動化されていく社会で人はどう変わっていくのか、そんなことを長く言われてきたが、人は相も変わらず労働という束縛からは逃れられていないのが現実だ。


 これは個人の持つ資産そのものが一つの価値であり、資産や経歴、役職、容姿が力として猛威を振るう評価経済社会とも言える。


 とはいえ、こんなことを考えたり思ったりしてしまうのも、半ば強制された学業の賜物で、年相応とはとても言えないほど学びに勤しんできた成果である。


 そのこと自体は私が望んで進んで行ってきたことかと言えば半分ウソになってしまうわけで、その証拠に今、大学を離れてとても清々しい気持ちでいる、あぁ、なんという解放感なんだっ!


 稗田家の後継ぎとしてこれはなんと愚かしいことか……、あぁくわばらくわばら……、いやぁ……、情けないったらないことですね。


 もう、すっかり余談が過ぎました。

 2059年の社会情勢の事は一旦横に置いて、時計の針を進めましょう。



 光との感動の再会を迎えた後、ようやく落ち着いた私と光は近くの喫茶店を訪れた。

 私はいつもの調子でアイスコーヒーを頼んだのだけど、光は抹茶ラテを頼んでいて、何か脳内で負けた気分になった。


「コーヒー好きなの?」


 そう光に聞かれて言葉にしようのないほどに恥ずかしい気持ちになった。確かにここ四年間成長が止まっていて、ずっとこのままなのでは? という恐怖に囚われているほどに、私は子どもみたいな体型しているけど、ちょっと光ってばデリカシーが足りないんだから。


「光、何だか意地悪だよ?」

「いや、ただ気になったから聞いてみただけなんだけど……」


 急に気性を荒くさせて言う私に光は若干に引き気味になる。


「そうだと思うけど、乙女心が許してくれないんだから」

「そんなに気にしなくてもいいのに……」

「気にしちゃうの、気にしちゃうの、気にしちゃうのっ、紅茶でも頼んでおけばよかった」

「女の子って変なとこ気にするよね」


 感情的になったまま会話を続ける私に光は困った表情を浮かべる。


「気にしちゃダメなの?」

「そ……、そうじゃないです」


 余計な話をして少しは緊張もほぐれてきたかもしれない。真正面の席に座わる光のことをガン見するとそうもいかないが、ビデオ通話していた時のように自然に会話できるようになってきた。


 コーヒーフレッシュの白が黒いアイスコーヒーの中で溶けていくのを見つめていれば、なんとか意識をそらすことが出来た。


「四年前、おばあちゃんの葬儀の時に、私は叔母さんと叔父さんから本当の事を二人に伝えたって聞いて、そのときに光の連絡先を聞かせてもらって、それでやっと連絡を取れるようになったのよね」


 最初に光とコンタクトを取ってビデオ通話した時は柄にもなく緊張したものだ。

 本当に懐かしい記憶、その頃にはもうアメリカに住んでいたから簡単に会ったりは出来ないって覚悟はしていたけれど、それでも話しができて嬉しかったことを今でも覚えている。


「僕は本当に驚いたけどね。自分たちが養子で、しかもお姉ちゃんがいて、それが三つ子だったなんて」


「そんなに無理に私のことをお姉ちゃんだなんて呼ばなくていいのに……、同じ時に産まれたのに、何だか恥ずかしいよ」


「それは今更無理な相談かな。だってお姉ちゃんはお姉ちゃんだから。

 一番最初に抱き上げられた子どもがお姉ちゃんで、それはずっと届かない場所にいる気がして、今だって頼れるお姉ちゃんだって思ってるから」


 ビデオ通話で四年前から話し始めて以来、ずっと直接会って話したいと思っていた弟の光。こうして初めて直接顔を合わせてみて、今までの言葉が嘘なんかじゃないと思えて、それが嬉しくて、光の事を大切にしたい気持ちでいっぱいになった。


「お姉ちゃんはいつ知ったんだっけ? 自分が三つ子だったって」


「私は三歳の頃かな。おばあちゃんが三人の中で最初に産まれた私を抱きかかえて、”お前を選んだんだって”、その頃は家の事なんてよく分からなかったから、不思議だったけどね。でもおばあちゃんのことは好きだったから、誇らしげに話すおばあちゃんの姿を見て嬉しかったかな」


「そうなんだ……、おばあちゃんは見抜いていたんだね、お姉ちゃんの才能を」


「才能って言われても、周りの人のおかげだけどね、ここまで来られたのは」


 私に秘められている力、そのことを思うと複雑だった。

 今はまだ光に話すわけにはいかない、祖母が私を選んだ本当の理由だけは。

 でも、私は安心していた、《《光がまだ普通の人間のままでいることに》》。ビデオ通話だけでは分からないことだから、こうして会えてようやく安心することが出来た。


 とはいえ、まだ《《覚醒していない》》だけなのかもしれないが、とりあえずの不安材料は払拭することが出来たことは、今日会うことが出来て大きな成果だった。


 そう、私は光にも舞にも普通の人生を歩んでほしいのだ、大義のための人柱になどならない、普通の人生を。


「それで、これからうちで暮らすって本当のこと?」

「うん。学園を通うようになったら、お邪魔することになるかな……」

 

 私は光の質問に答えた。今日と明日はホテルに泊まるけど、学園に通い始めれば水原の家にお世話になることにしている。それはこちらとしては申し訳ない部分があるのだけど、今は考えないでおこう。


「お姉ちゃん、ずっと夢だったんだよね……? 今、僕らのいる学園に通うことが」


 光は私の話を覚えていたようで、理解されているように思えて嬉しかった。


「うん、おばあちゃんと約束したから。それだけは天国にいるおばあちゃんのためにも叶えておきたいの。それに、やっぱり学生として通えた方が楽しいからね」


 普通の人は、海外の大学に通う私が今更日本の高校にと思うかもしれない。実際多くの人の反対意見を跳ね除けて、無理を言ってここに来たのだ。今更引くことなんて出来ない。私の決意はそれほど固いものだから。


「――――舞ちゃんは元気?」

 

 私はもう一人の姉弟のことを聞いた。

 舞とは今も話したことがない、それは私にとってずっと気掛かりなことだった。


「うん、一応元気だよ、今日もファミリアに行ってると思う」

「働いているんだっけ?」

「うん、僕的にはあまり根を詰めないでほしいんだけど、舞的には働いてるほうが精神的に落ち着くみたい」


 私のせいだ……、そう頭の中に浮かんでしまったが口には出来なかった。

 それを口にしてしまうと、何もかもが惨めになってしまう。不器用なのだ、望んでもない結果に関しては。


「――――話してみたいな……、舞ちゃんと、本当に」


 今の私には、そう言葉にするのが精いっぱいだった。


「うん、きっと分かってもらえると思う。だって、僕たちは血の繋がった姉弟なんだから」


 私も光も舞のことに関して、それ以上言葉に出来なかった。

 願いとは裏腹に、それが簡単ではないことは、とうの昔に気付いていたから。



「いいの? 送ってもらっても?」

「もちろんだよ、今日は疲れてるだろうし、無理しないで」


 時差のこともあり内心疲労はあったので、光の気持ちは嬉しかった。

 私は水原家に挨拶に行くのは明日に回して予約をしていたビジネスホテルへと向かった。

 10分ほど歩くと、おそらく10階くらいはありそうなビジネスホテルに辿り着いた。

 

「それじゃあ、また明日、お姉ちゃん」

「うん、ありがとう光、大きくなったわね」

 

 私の身長を抜かしていった弟を見ながら、私は少しお姉さんらしいことを言って、笑顔で手を振って見送り、ここまで送ってくれた光に感謝してホテルの中に入った。


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