死が2人を分かつとも、愛し続けることを誓いますか?
リーン…
ゴーン…
荘厳な鐘の音が鳴り響く白い教会の中。
色とりどりの花に飾られた祝福の空間で、神父が誓いの言葉を今日夫婦になる男女に問いかけた。
「…死が2人を別つまで、愛し続けることを誓いますか?」
「いいえ!…たとえ死が僕らを別れさせたとしても僕は死んだ後もずっと君を愛すると誓うよ!!」
情熱的にそう語りだした男に些か驚きながらも神父は気を取り直して女にも同じことを問いかけた。
内心「いいえ」ってなんだよ「はい」の一言でいいだろうがよ!真正面から神への誓い断ってんじゃねぇよ!!なんて思ってたとしても、そんな事お首にも出さずニッコリと問いかけた。
「えぇと、コホンっ!…貴女は死が2人を別つまで、愛し続ける事を誓いますか?」
「はい…死んだ後のことは私には分かりませんが、来世でも彼の事を愛せるとは微塵も思いませんから彼とは今世の一生分だけで十分です」
淡々とした口調で、けれどもハッキリキッパリとそんなことを言いきった新婦に隣に立つ新郎は顔を青ざめさせた。
そんな2人の言葉に神父は思わず額に青筋が浮かぶも微笑みを絶やすことは無かった。が、心中大荒れである。
…なんなの、この2人。
なんでそう2人してひねくれた回答してくるわけ?!
いいじゃん!そこは素直に「はい」だけでいいじゃん!!
てか、君たち今日結婚するんだよね?新婦、実は新郎のこと嫌いなんじゃない??ってくらいなんか辛辣な言葉だったよ??え、この2人大丈夫???
「そ、そんなっ!!僕はこんなにも君のことを愛しているのにっ!!君は違うと言うの?!!ひ、酷いよ!!」
「愛してますよ。でなければ今結婚式なんて挙げてません」
「で、でも僕は来世でも来来世でもずっとずっと君といたい!!」
「それは結構です」
「うぅ~!!き、君は僕のことが嫌いなの?!!」
「いえ、だから今世は愛しましょう。来世は知らん」
「な、なら!来世でも僕は君のこと振り向かせてみせるから!!その時はまっててね!!ね!!!」
「振り向かせられるものならやってみなさい、とだけ」
「み、みとけよっ!!絶対絶対君を僕は来世もその先もずっとずっと愛し続けてみせるんだからぁ!!」
「はいはい」
「うわぁーん!!」
かくして、呆然とする神父を置き去りに泣き叫ぶ男のネクタイを引き寄せ情熱的に誓いのキスを終わらせた女は男の腰を抱き寄せ颯爽と教会の花道を進んで出ていった。
春の麗らかな暖かい風に包まれて、白く美しい教会では今日も目出度く1組の夫婦が誕生したのであった。
◇◆
「僕は君との婚約を破棄する!!」
そう、声高らかに宣言したのは私の婚約者。
その彼の腕の中には小柄な愛らしい見た目をした少女が涙目で怯えるように私の事を見つめていた。
まぁ、実際は蔑みと嘲笑に濡れた酷く濁った瞳だったが…。
衆人環視の中突然行われた断罪という名の茶番に辟易としながら彼らの言葉なんて右から左に適当に聞き流しているのは私ことルーン・リオネス侯爵令嬢であり、恐らくこことは別の世界の記憶を持った転生者である。
突然何を言い出すかと思うだろうが、現在進行形で私の婚約者である彼の被害妄想と私へと誹謗中傷で作られた私が彼女に対して行ってきた罪状?という名の惚気?いや戯言を聞くのも面倒臭いので前世の記憶をふりかえってみようかな、とまぁ、暇つぶしという名の現実逃避というものではある。
前世の私は普通の容姿で普通の家庭で育ってきたごくごく普通の人間だった。大学へ行き、就職して、数年後には結婚して子供を産んで…まぁ、そこそこ順風満帆な人生を送ったと思う。前世の旦那はちょっと…いや大分?変な人だったけれど。
旦那とは私が大学3年の時に友人らと大学の長い休みを利用して行った旅行中にたまたま出会った。まぁ、出会ったというか…普通に友人らと街中を歩いていた途中で突然、
『っ!やっと会えた!僕の運命!!』
なんて、叫びながら抱きついてきたのだ。
いや、普通に不審者。
思わず殴り飛ばした私は悪くない。
それが例え芸能人張りにイケメンだったとしても、だ。
顔がいいからと騙されてはいけない。一緒にいた友人らはキャーキャー嬉しそうにはしゃいでいたけれど…
それからというもの、どんなに邪険に扱っても無視してもトリモチのように引っ付いて離れなかった彼は態々私の家の近所に引っ越して来た。
大学卒業後直ぐに大手企業の会社に就職すればあっという間に役職持ちの高給取りになっているし、私の親にも友人らにも挨拶回りして好青年を演じたり…気付いた時には外堀を埋め尽くされていた。最早あとは私の気持ちひとつで何時でも結婚できるぞっ!という所まで追い詰められて…
正直、とても気持ち悪かった。
それを伝えた時の彼の顔は見物だったなぁ、うん。
せっかくの綺麗な顔を涙と鼻水と涎でベッタベタのグッシャグシャにして私の足に縋り付いて
『僕゛を゛ず で な゛い゛で ~!!』
なんて号泣するんだから…
いい大人がみっともないしキモイから離せって突っぱねたら余計に離れなくなってあれはイライラしたなぁ。
まぁ…それでも外面は完璧な癖に私の前では子犬のようにしっぽを振りまくって引っ付いてくる彼に自然と絆されて…いや、あれは諦めとも言うのか…?と、とにかく結婚までしてしまった私も結局彼には弱かったのだろうな、うん。
その後は、彼は浮気することも無くやっぱり執拗いくらいに引っ付いて離れなかったけれど…。
彼のおかげで前世の私の人生はとても幸せだった。
もしまた、彼に会えたら…
いや別に会えなくてもいいな。
あそこまで執拗いのはあの一生分だけで十分だな、うん。
幸せっちゃ幸せだったけどさ?
束縛が強すぎるのも考えものだよねぇ。
「ーーーであるからして、君は僕の婚約者に相応しくないっ!!」
あ、やっと終わったんだ。
長かったなぁ…まぁ、全然話聞いてなかったのだけど。
「はぁ」
「よって僕は君との婚約を破棄し、真に愛おしい彼女と婚約する事にした!」
いや、だから何?
もうご自由にどうぞって感じだわぁ…。
「はぁ」
「僕の愛しい人を傷つけてきた貴様には国外追放を言い渡す!さぁ、さっさと出ていけ!!」
「はぁ、では御機嫌よう」
…とは言え、今世の婚約者のように己の不貞を堂々と公言して婚約破棄を突きつけてくるような浮気者より一途で子犬みたいな一面を持った旦那の方が私は好きだったなぁ。
なんて、考えながらスタスタと1人会場を後にしようのすれば…何故か呼び止められてしまった。
もう、さっさと帰って寝たいんだけど…そんな私に元婚約者は何故か焦ったように私に問いかけてくるのだ。
「ま、まて!何故そうあっさり出ていくんだ…」
「出て行けと言われたので」
「そ、だけど…ぼ、僕に対する言葉とかないのか?!」
「『御機嫌よう』と伝えましたが?」
聞こえなかったのかな?と首を傾げるが、どうやら違ったらしい。腕の中にいた小柄な少女を押しのけこちらに駆け寄ってくるとなんとも必死に言葉を押し付けてくるでは無いか。
いいの?愛おしい人放ったらかしにしてこっち来ちゃって。ほら、彼女凄く呆然とした顔して見てるけど…?
「それだけ?!え、だって今まで僕ら婚約者だったんだよっ?ほら、もっとこうなんかあるでしょ??」
「いえ別に。もう帰ってもよろしいですか?」
「き、君は今まで僕の事愛してたんでしょ!愛おしい相手が別の人と一緒になるって言ってるんだよ?!なんで君はそこで何も言わないのさ!罵倒の一つでも飛んでくるのが普通でしょ!!本当は僕の事なんて愛してなかったとでも言うのかよ!」
「はい、私は貴方の事を愛していません」
婚約者だった男の目を見てハッキリキッパリ言い切れば、男はポカン…とした顔をした。
何故そうも驚いた顔をしているのか心底不思議だ。
あと、何?どうして罵倒のひとつも飛ばしてこないんだーって言われてもさ本当に意味がわからないのだけど…
え?もしかして罵倒されたいの?Mなの?なんなの?
こいつ、マジでキモイわー。
「え?な、なんて…?」
「もう一度言いますか?私は、あなたの事を微塵も愛してませんでした。むしろ何故愛されていると勘違いを?」
そんな素振り、1度だってしたこと無かったと思うのだけど?
まぁ、したとしても婚約者としての振る舞い位じゃない?
てかマジでキモイいな、この男。
あー、旦那の子犬っぷりが懐かしいなぁ…
心底癒しが欲しい。
「だ、だって僕は君の婚約者だろ?」
「婚約者だからといって愛さないといけないのですか?
そもそもこの婚約は親同士が決めた政略結婚であり私達の気持ちで左右されるものではありません。
まぁ、私的には愛はなくとも生涯を共にするのですからそこそこの関係を築ければそれでいいと思っていたのです。それこそ愛人でもなんでも作ってくれて別に全然良かったのですよ?公私の分別がつくのであれば、ですがね。
しかし…貴方がこうも人々の目の前で堂々と婚約破棄を宣言されましたので望み通り私との婚約は無くなることでしょう、良かったですね」
愛する人と一緒になれるかは分からないけどね?
「は?!そ、そんな…いや!だ、だとしても!ずっと一緒にいたんだから少しくらい僕に気持ちがあったって可笑しくないだろ?!」
「なぜ?」
「何故って、だって僕は」
「実際、幼い頃から婚約者として共に居たのに貴方は私への気持ちなんてこれっぽっちもなかったのでしょう?
ですからこうして茶番いえ婚約破棄を宣言されたのでは?」
「今茶番って言った?」
「良かったですね真に愛する人が現れておめでとうございます」
「いや、は?え?」
「では私はこれで失礼しますね、御機嫌よう」
「え…?」
また呼び止められては敵わないとさっさと会場を後にした私は、屋敷に戻ると両親に事の顛末を伝えその日はそうそうに寝室に引っ込み眠りについたのだった。
◇◆
婚約破棄騒動から3ヶ月。
衆人環視の元行われた茶番劇は、相手側の不貞行為による過失により破棄。膨大な慰謝料を受け取り私は自領に戻り今のところ悠々自適な毎日を送っている。
私は何も悪くないけれど、1度婚約破棄をしたという汚名が付いた私にはもうまともな婚約は望めない為取り敢えず自領に引っ込んできたのだが…私はこれからどうなるのか?
まぁ、恐らく修道院行きだろうな。
傷の付いた嫁にも行けない娘をいつまでも家に置いておく訳にも行かない。まぁ、優しい両親のことだからこのまま家にいてもいいと言ってはくれるだろうけれど…
それではただの穀潰しだ、それは私が嫌だ。
何れにしてもここにいつまでも居られない身。
とはいえどっかの後妻やら側室やらで送り出されるのはちょっと抵抗があるし、そもそも私の両親はそんな事しない。
だとしたら残るは修道院なのだけれど…修道院、ね。
なんか、つまんなそうだよね。
いっその事本当に国外にでも行ってみようかな。
冒険者、なんていいかもしれない。いっその事貴族なんて捨てて平民として色んな国を旅して回った方が楽しそうじゃない?あれ、結構いいかも…うん、そうしようかな。
「…という事で、私平民になるわ」
思い立ったが吉日と、早速両親のいる部屋に突撃をかまして宣言してみた。
「どういう事??いや、落ち着こうか。ね?たかだか1回婚約破棄されただけでそこまで思いつめることないんだよ??ほら、お父様が今度こそ良い男連れてくるからさ、ね?ね?」
「あらあら」
金髪蒼眼の美中年である父が普段見せない様な動揺っぷりを見せつけるも、隣にはいつも通り優雅に微笑む幼げな顔に似合わず出るところはしっかりと出ている母。
なんだか残念な父とはえらい違いである。
「衆人環視の中堂々と婚約破棄された私にまともな縁談があるとでも?無いですよね」
「ぐっ!だ、大丈夫!!お父様の伝を舐めてはいけないっ!娘の幸せのためなら何だってするのが父親だからね!!」
「本当ですか?なんでも、してくれるのですか?」
「勿論!男に二言はないよ!!」
「では、私平民になります」
「なんで?!!!」
「冒険者になって様々な国を旅して来ますね。あ、ちゃんとお土産送りますので楽しみにしててくださいね」
「いやいやいや!!そんな、何も冒険者にならなくとも!!しかも旅?!危険だよ!!」
「私、こう見えて剣も魔法も結構できるのですよ。護身術も暗殺術も薬草学も詳しいですし野営も経験済みですから、結構自信ありますの。なんなら騎士団長様達の折り紙付きですよ?」
「い、いつの間に…いや待ってなんか色々令嬢としておかしい部分があったような…」
思い悩む父の隣で、今まで静かに成り行きを見守っていた母が嬉しそうに微笑んだ。
「まぁ、凄いわぁ!さすが私の娘っ!色々必要になると思って教えてきたかいがあったわぁ」
「君が教えたの?!!」
そう、何を隠そう。
私に騎士団長様方を紹介してくれたのは母である。
と言っても、母がしてくれたのは本当に紹介だけであってその後私が彼らに弟子入りしたことまでは知らなかっただろうが…
この様子だと『影』でも使ってみていたようだ。
「あらぁ、私が教えたのは令嬢としての作法とちょっとした護身術だけよ?他は騎士団長様とか諜報部隊長様とか魔法師長様とかよ」
「まって何その面子私の娘なんでそんな方々に教わってるの?可笑しくない??しかもいつの間にそんな事に??」
「それはあれよぉ、叔父様やお祖母様の伝手を使ってちょっとね」
「君の叔父様って…え?それって要は陛下じゃない??そんでもってお祖母様って皇太后様?!!ちょ、なんでそんなとんでもない人達に娘の教育頼んじゃったの?!!」
母の母…私にとっての祖母は現国王陛下の実妹にあたる。
つまり、母の叔父とは現国王陛下である。
そんな現国王陛下は妹である祖母のことを事の他可愛がっており(つまりはシスコンである)、母の実家である公爵家に嫁入りし王籍を離れたあともお忍びでよく遊びに来ていたらしい。
その為、母も小さい時から交流があった為に現国王陛下とはとても仲が良い。
そんな現国王陛下のご両親に当たる前国王陛下ご夫婦も母とは祖父母の関係だからと、昔からとても良くしてくれていたそうな。私自身、彼らには曾孫だからと良くしてもらってきた。
「1度会わせてみたらこの子は筋がいい!って皆様なんでも教えてくれたのよぉ。止める間もなかったわぁ、何より本人が楽しそうだったから。ま、いっか☆って」
「せめて私に報告してよ…!」
「後で驚かそうと思って…忘れてたわぁ、てへ♪」
「という事で、冒険者になりますわ」
「てへ、じゃないよ!もう!可愛い!!…ってだからって冒険者なんて認められないよ?!!」
「お父様…男に二言は?」
「な、ないとはいったけどそれとこれとはまた違うというか…ね、ねぇ?」
「たまには帰ってくるのよ?お土産待ってるわね!」
「はい!もちろんです」
「ちょ、送り出さないでぇー!!」
こうして私は冒険者として旅に出る事にしたのだった。
因みに、貴族籍を抜けることは許されなかったので平民ではなく身分を隠しての一人旅である。
いざ出発!!
◇◆
国を出て約1年。
冒険者としてそこそこ名を馳せつつ様々な国を旅してきた私は久しぶりに国に帰ることにした。
…と言っても定期的に手紙や土産物を送ったり、転移魔法を習得してからは割と頻繁に母にだけはこっそり会いに行ったりとしていたけれど。
一応、貴族社会では私は婚約破棄のショックで元々病弱な体を壊してしまい自領で療養中…との触れ込みであるのであまり公に外には出られない身。しかし、それも一年もひきこもって(実際は世界中旅して回っていたわけだけれど)いれば私の存在など貴族の世界には既にないようなものである。
と、言うことで…そろそろ本当に貴族をやめて平民として暮らしていこうと父に宣言するために帰国を選択したのだ。
あとは…
「マイハニー!もうすぐ君の国だね!僕楽しみで仕方がないよ!」
「はいはい、ハニーって呼ぶな」
「でもでも、“約束”どおり今世も僕と結婚してくれるんだよね?!それならハニーでいいでしょう?…でも、別に平民にならなくても僕が貴族になるよ?お金はあるし、英雄になれって言うなら君の為に僕はいつだってヒーローになれるんだから!」
「はいはい」
「もー、信じてないの?僕は君のためなら国も世界もいつだって壊してあげるし救ってあげるよ?君がこの世界が気に入らないって言えば別の世界を作ってあげられる事だって簡単なのだからねっ!」
「はいはい」
適当な返事を返す私の隣に立つのはこの世界では珍しい黒髪赤眼の美丈夫である。その完成された造形は誰もが振り返り一瞬で彼の虜になるだろう美貌の男は今世もトリモチのように引っ付いて私から離れてくれない。
「今世も僕と幸せになろうね!マイハニー!」
「ハニーって呼ぶな」
そう、何を隠そうこの男…前世の私の旦那である。
今世での出会いも酷いもので、旅の途中で突然…
『見つけたっ!僕の運命っ!!』
なんて言って抱きついてきたのだ。
いや、普通に不審者。
思わず魔法ぶっぱなして弾き飛ばした私は悪くない。
いかに顔が良くともその行動はどうかと思う、いやマジで。
まさか今世でも彼に出会うとは思いもしなかった。
そもそも、互いに記憶を持ったままというのもそうだが前世と全く同じ容姿の彼の姿になんだかおかしいことに気付いた私はとことん彼を問い詰めたところ…
実は私の旦那、邪神だった。
いや、神て…しかも邪神てなんだよって、普通ならば何の冗談だ馬鹿にしてんのか?ってなると思う。
でも、納得。まぁ元々彼は『人ではない』何かなのだろうとは薄々感じていたので、神と言われればあぁ、そうだったんだって感じで私はすんなり受け入れた。
そもそも、彼は私に嘘をついたことがないので自分は神だ!なんて痛い発言だとしてもきっと本当のことなのだろう。
それにここでもし、私が彼の言葉を信じなかったら彼はきっと邪神らしくこの国を、いや。世界を壊してみせるのだろう。それは流石に面倒臭い。
邪神な彼は私に出会う前はとても気まぐれで、様々な世界を時空を超えて自由気ままにさ迷っていたらしい。気が向けばその世界に留まって、遊び感覚で世界を壊したり作り直したり…なまじ力があるから彼を止められる神もなかなかおらず、危険神物として神達からも放置されていたそうな。
それはそれでどうなんだ?とは思うけれど、まさに『触らぬ神に祟りなし』と言った感じだったのだろう。
そんな折、たまたま降り立った世界でたまたま見かけた私に何故か一目惚れしてしまったらしい彼は私を何とか己と同格の存在にするために、そしてファンタジーが好きだった私の為に様々な世界を旅させてあげようと今世ではこの世界に私を送り込んだらしい。
なんでも、何度も転生を繰り返す中で少しずつ邪神の力を混ぜて馴染ませつつ魂の格を上げるとかなんとかよく分からないけど、そんな感じらしい。
本人の了承もなくなんて勝手なことをと思ったが、まぁ旦那だし。そもそも神らしいのでそこは仕方ないだろう。
今世、私に記憶があったのは彼の意図したことではなく彼自身驚いたそうな。そもそも記憶の引き継ぎはとても大変なものらしく、下手に手を加えると魂の損傷が激しくなりそのまま消滅する場合があるとか何とか。
そこら辺もなんだか長々と説明されたけれど、興味もないし面倒くさくなったので聞き流しておいた。
それに…前世の記憶がなくともどんな姿に生まれ変わったとしても君は君だから。僕はどんな君でも何度でも振り向かせて必ず君だけを愛していたよ、と言われた。
なんという執着心。マジで引く。
愛が重すぎて怖いわ。
って言ったらまたせっかくの顔をグッシャグシャにして泣いてすがりついてくるのだ。
こんなのが邪神だなんて大丈夫だろうか?
前世、私は教会で彼を愛するのは『今世の一生分で十分だ』と言ったけれど…まぁ、それは前世の誓いなので。
「ねぇ」
「ん?なぁに?」
彼は嬉しそうに首を傾げながら私の顔を覗き込んでくる。
美しすぎるその顔に似合わず、外面だけは完璧だけれど私の前では残念な犬みたいにしっぽを振りまくり引っ付いて離れないこの男に、どうやら私はまたしても負けてしまったらしい。
「…死が2人を別つまで、貴方は私を愛し続けると誓いますか?」
そう、問いかければ彼はいつになく真剣な顔をする。
そして、そっと私の手を取って口付けを落とした。
とても気障な行動だけれど、なまじ顔が良すぎるのでとても様になる。
「いいえ…たとえ死が僕らを別れさせたとしても僕は死んだ後もずっとずっと君を愛すると誓うよ」
その言葉が、じんわりと私の体の中に溶けて広がってゆく。前世、この言葉を聞いた時も思ったけれどやっぱり…
「ふふ、そう」
「…今度は今世の一生分で十分だ、なんて言わないの?いや言って欲しいわけじゃないけどね?!!」
「だって、何度でも私を振り向かせてみせるんでしょう?」
「っ、勿論!!」
顔を真っ赤にして嬉しそうに笑う彼の顔を見て、自然と私の顔にも笑みが浮かんだ。やっぱり私の旦那は可愛い、ちょっといや大分執拗くてうざいけど。
「ねぇ、好きよ。来世は知らないけど」
「来世も来来世も!その先もずっとずっと君を愛してる!!何度でも振り向かせてあげるから、だから…また、待っててね?」
「振り向かせられるものならやってみなさいな…でも、待ってるから早く来てね」
「っ~~!勿論!最速で行くから!!絶対!」
「ふふ、さぁ行きましょうか」
「うん!」
私たちは今世も手を繋いで歩き出す、前世と同じように…。
彼の愛は重くてトリモチのようにくっついて離れないし、その執着心はストーカーみたいでちょっと、いや大分?気持ち悪いし正直引く。
でも、きっと来世もその次も私は彼を愛するのでしょう。
彼が何者だとしても、私が何者だとしても…
私たち二人はきっとずっと傍にいるのでしょう。
ねぇ、前世の私は貴方といられてとても幸せだったわ。
今世もきっと…
◇
死が2人を分かつとも…
私は、何度でもあなたを愛します。
日間異世界転生転移ランキング2位!(2021.12.7~10)
総合日間ランキング31位!(2021.12.7)
総合日間ランキング23位!(2021.12.8)
ありがとうございます!!