読書感想文「米国の若手リーダーが注目、論理力を超えるプレゼン・説得スキル「物語力」とは」を読んで
読書感想文「米国の若手リーダーが注目、論理力を超えるプレゼン・説得スキル「物語力」とは」を読んで
出典:日経ビジネス アソシエ2004.07.06号
国会図書館でロバートマッキー先生を検索したらこちらの雑誌記事に巡り合いまして、名著「ストーリー」の内容がプロの仕事により簡潔にまとめられていましたので、感動のあまり書写させていただきました。
ビジネスパーソン向けにプレゼン法として「ストーリー」の技巧を応用するというのが、逆に対比することにより創作への理解が深まると思いました。
著作権法的には「引用」ということで許してもらえないでしょうか。
(引用部分は『』でくくります)
『物語力の身につけ方
ロバート・マッキー氏、脚本家養成者。その指導を受けた脚本家、映画監督、プロデューサーらは過去アカデミー賞を26、エミー賞を124など大量の賞を受賞し、同氏の指導は映画・テレビ関係者から高い評価を得ている。
また、1997年に出した著書「ストーリー」は全米でベストセラーになり、海外12か国で翻訳出版されている。
そんな映画・テレビ関係者にとって「グル」の彼が、最近は米国内のビジネス・法曹界でも注目されている。背景にあるのは、自らの説得力不足を痛感するリーダー層の存在だ。
「上手な物語法を身に付ければ、パワーポイントのプレゼンテーションよりも深いレベルで聞き手を感動させ、行動させることができる」とマッキー氏は言う。』
2004年の記事なので結構前ですね。お写真で師匠のお顔を初めて拝見できました。ジャックニコルソンさんとかイビチャオシムさんとかみたいな感じ?コワモテガッチリ系?
『ステップ1、3つの自問をして答えを明確に
ではどうしたら「物語」を作れるのか。まず3つの質問に答えよ、とマッキー氏は言う。』
「3つある!」っていきなり師匠らしさ全開ですね。
『質問1、主人公の願望は何か
ドラマや映画では、物語をスタートさせる「誘因」によって、それまで比較的平穏だった主人公の人生は一転、バランスを失する。
バランスを回復するため主人公は願望を抱き、それを達成するために行動を起こす。
プレゼンなどに際しても、あなたが何を欲してしるのかをまず明確にしなければならない。』
「契機事件」によって主人公は人生の均衡を失い、回復するため外的欲求を持つ、と。それくらい知ってますよ、へへ。
『質問2、主人公の願望を妨げる障害物は何か
ドラマにおける障害物は様々だ。
自分の力量不足、恐怖感が目標追求を妨げるかもしれないし、家族、同僚などが反対する場合もある。社会的な組織や慣習との衝突、物理的な時間の欠如が壁になる可能性もある。
プレゼンの場合も、あなたの願望を妨げるものを明確にしておこう。』
「敵対する力」ね。ストーリーに迫力が足りない場合は、この力が弱いってことでした。
『質問3、障害物を前に、主人公は自分の願望に向かって、どう決意し、行動するのか
苦難の中で決断するその仕方に、主人公の真の性格が現れる。
臆病に見えた人物が実は勇気を持っていた、など普段は見えない人間の本性が露呈するのは、重圧の中で主人公がある決断をする瞬間だ。
プレゼンでも障害を前にした時のあなたの本心を伝えよう。』
重圧のかかる場面で主人公が極限まで追い詰められてのジレンマな決断に人間性が発露されるんですよね。
簡潔に「物語を作る上で必要なはこの3つ」ってことで。
『ステップ2、行動vs障害の構造を明確に
主人公は自分の願望に向かって行動1を取る。この時主人公は、自分の取った行動に対する外部の反応は肯定的なものだろう、と期待している。
ところが実際には、外部の反応は期待に反して厳しく、願望追求を妨げる方向に働く。外部の反応は、自分を取り巻く人々からの反対、世間との衝突を指す。行動以前には分からなかった自分の心の中の葛藤も含む。
この「期待と現実のギャップ」によって、主人公は最初の行動では願望を達成できないことを知り、第2の行動に踏み出す。この時、行動2は行動1よりも強い意志、大きな努力を伴ったものになる。』
「ドアを開けてもらおうとしてノックしたけど開けてもらえない」のくだりですよね。「期待と現実のギャップ」って簡潔なワードにまとめられていて素敵です。
なんでも主人公の思い通りに進んだらつまらないし読む価値無いと。
『ステップ3、物語メソッドでプレゼンの練習を
(新薬開発ベンチャーの資金集めの例)
「論理(パワーポイントでの説明)」は新薬の特徴を箇条書きで説明するのに対し、「物語」は父の死、承認機関、裏切り、特許など次々に障害が現れ、乗り越えていくダイナミックな過程を描く。
当然、後者のメソッドに聞き手は引き込まれ、結果として同社に共感する確率は高まる、というわけだ。』
実際にプレゼンで使用する例が載っていました。ここから逆に創作で大切なことが分かりそうに思います。
淡々と説明するのではなく、読み手を引き込んで、共感を起こして、心を動かそうという心構えが必要でしょう。
次のページでポップなイラストやグラフ(感情の高まり?)で「ストーリー」の内容がまとめられていました。
『物語の基本は5部構成である』
「ストーリー設計の五つの要素」、テストで出そうですね。
「契機事件」「段階的な混乱」「重大局面」「クライマックス」「解決」でした。過去にまとめたエクセルを見返してきました。
それぞれの働き・役割はあやふやだったので、こんなに簡潔にまとめてくれてて流石プロね。
『1、誘因(Inciting incident)
物語の中の最初の事件。主人公の身に降りかかる事件の場合もあれば、主人公が原因となって引き起こされる場合もある。
それまで平穏だった主人公の人生がプラスまたはマイナスに大きく振れ、バランスを失う。バランスを回復しようと主人公が動き始める、その契機だ。』
何度も出てくるので、それだけ重要なんでしょう。
『2、紛糾(progressive complication)
「誘因」によって崩された安定を回復しようと、主人公が行動を開始してから、絶体絶命のピンチに追い詰められるまでの過程。物語の大半はこの部分に費やされる。
既に示したように、主人公の行動は簡単には目標に到達せず、様々な葛藤・衝突・対立に妨げられる。
新しい行動に移るたびに、乗り越えるべきハードルは高くなり、最終的にのるかそるかの選択に迫られる。
この時主人公の行動の推進力になっているのが、マッキー氏が「背骨(spine)」と呼ぶ、主人公の内に潜む深い欲望だ。
主人公が自覚している場合もあれば、無意識の場合もある。願望が表面上コロコロ変わる場合、主人公が気づいていない無意識の願望が推進力になっている。』
「背骨」は「脊柱」と訳されていたような。
脱線しますが、主人公が何がやりたいのか分からない→予想ができない→最後はどうなるのか興味がわかない→途中で読むのをやめる→評価が上がらない、じゃないかなと思いました。
この「主人公は何がしたいの?」が浮かばなくって悶々としておりますよ。
『3、危機(crisis)
絶体絶命の最終局面で主人公が下す決断のシーン。この決断によって、願望の対象が得られるかどうかが決まる。』
「重大局面」ですね。「どっちにすんの?」ってジレンマの果てに、主人公はどんな決断を下すのか。
ここまでで共感が足りないと「別にどっちでもいいよ」となりそう。
『4、山場(climax)
危機が最終局面での決断とすれば、山場は決断後の行動になる。従って両者は通常、連続して現れる。人間はしばしば決意するまでに時間がかかるため、話し手は最終決断に至る機微を細かく描く。
この間、聞き手の緊張感はダムの水位が上がるように高まっていく。決断した瞬間、放水口から水が一気に流れるように、行動のシーンを流れ出す。』
決断して行動を起こしてしまったら、後は一直線に、もう元には戻れない、最後はどうなるの?ってページをめくる手が止まらない、みたいな?
派手なラストバトルにすればいいということではなさそうです。
『5、解決(resolution)
山場後の残りのシーン。後日談、伏線の後始末、余韻などのための部分。』
なんか最後そっけないね。
まとめエクセル見直したけど「解決」については何も写してなかった。良いクライマックスが出来れば自ずと決まってくるのかも。(原書を読み返す気力は無く)
『ロバート・マッキー、インタビュー
復習の意味も込めて、マッキー氏へのインタビューを紹介しよう。氏は物語力を身に付ければ、優れたビジネスリーダーになる確率を高めると断言する。』
インタビュー記事が3ページありました。雑誌全体の割合からいっても少ないけど、その分まとまってて流石プロ。
『―ビジネスパーソンも指導していると聞きました。
名前は明らかにできませんが、ビジネスパーソン、弁護士、法律事務所などが顧客になっています。約5年前からです。
彼らは従業員、社外取締役、顧客、陪審員などに自分たちの見方を伝え、その方向に人々を動かさなくてはなりません。
しかし、彼らは人々を説得できていない、と感じています。私のコンサルティングを求めているのは、説得力を高めるのが目的です。
古来、説得法は2種類あります。「レトリック(論理を使った弁論術)」と「物語」です。
レトリックは事実、数字、専門家のコメントなどを駆使し、論を組み立てます。典型的なのがパワーポイントのプレゼンテーションです。
「私の言っていることは正しい。なぜならこの事実、この数字、この専門家のコメントが示しているから」という具合に進めていきます。聞き手の知性、頭脳に訴えるやり方ですね。
しかし、レトリックには欠点があります。聞き手には聞き手なりに、自分の事実、数字の分析を持ち、自分の見方をサポートする専門家を抱えています。
あなたがレトリックを使えば、聞き手は彼ら自身の事実、数字、専門家を揃え、あなたに反論します。その結果、説得は難しくなってしまう。』
コンサルティングって何?ってぐらいの。
『ー物語について今一度復習させてください。
物語とは、単純化すると、ある人の人生がどう変わったか、理由(why)と過程(how)を示したものです。
変化を効果的に見せるために、誘因→紛糾→危機→山場→解決という一連の流れを備えています。』
重要なことをサラッとおっしゃった。
「物語とは何ですか?」と聞かれたらこの辺を言えばいいんじゃない。
ストーリーテリングの技法とは、変化を効果的に見せる方法なのかもしれない。
『通常、物語は比較的バランスの取れた平穏な状態から始まります。だが、ある事件が起こり、安定がひっくり返ってしまう(誘因)。
主人公はバランスを取り戻そうと努力し始めるが、本人の意に反して、壁に行く手を阻まれる。
主人公の期待と厳しい現実のせめぎ合い(紛糾)の後、主人公は逃げ場のない困難な局面に追い込まれ、そこで決断を下し(危機/山場)、最後に真実を見出します。』
何回も言われてもう覚えたんじゃないかな。復習って大事ですね。
『古代ギリシャからシェークスピアを通じて現代に至るまで、優れた物語は主観的な期待と厳しい現実の間の葛藤を描いてきました。』
「葛藤とは何ですか?」と聞かれたら「期待と現実のギャップ!」と早口に答えることができます。
『ー物語は才能ある芸術家が作ってきました。ビジネスパーソンが物語を作れるのでしょうか。
確かに天賦の才能の側面がないわけではありません。この才能は2つあり、1つは文章の才能、もう1つは物語の才能です。
前者は言語的な才能で比較的ありふれているのに対し、後者は素材を物語に組み立てる才能で、より貴重です。この2つに関連性は全くありません。
実際、優れた経営者やリーダーの中には後者、物語の才を持っている者がいます。彼らは取締役会で話し、聞き手を感動させ、行動させることができるんです。リーダーシップの才能と言ってもいいですね。』
出ました、「文章力なんか必要ない」論。映画の脚本には無駄な装飾語は不要ってことで、小説では最低限は必要だよな、って最近思います。
『しかし物語には才能と同時に、技能の側面もあります。表現形式を学んで理解し、使いこなすことで、隠れていたリーダーシップの才能が引き出され、その有効活用が可能になるんです。
パワーポイントは天賦の才能なしでも上手に説明できる道具だから、大ヒットしました。一定水準の知性があれば、事実を論理的に組み立てられます。
しかし、物語の方が説得力が大きいことは一部のリーダー層が証明しています。』
ちゃんとビジネスのインタビューだと理解して応えられて偉いですね。
『ービジネスパーソンが物語を作る上での課題は?
3つあります。』
出た!
『まず、物語メソッドは映画やテレビ、小説に使われてきたため、物語イコール嘘、作り事とビジネスパーソンは疑い、そのため敬遠しがちです。
しかし、レトリックが多用する数字、統計もやはり嘘をついています。米国の過去数年のスキャンダルはバランスシート上の数字そのものが嘘でした。
内容が真実か否かは、語り手の良心が決めるのであって、レトリックか物語かのスタイルが決めるわけではありません。』
バランスシートとは貸借対照表のことですね。うちの会社はこんだけ資産あるから投資してね、って感じで。
『第2の課題は、物語を使って、あなたの会社や仕事、あなた自身の真実を伝えるためには、会社やあなた自身が実際に変化していなくてはならないことです。
なぜなら物語さ変化を表現するメソッドだからです。変化していないものをストーリーにはできません。
だから不祥事を起こした企業が外に向かって物語を示したかったら、その前に、会社が変化していなくてはならないんです。』
不意に重要なことをおっしゃった。「物語とは変化だ」ということは「変化してないと物語じゃない」も成り立ちましょう。
物語があるから変化するんじゃなくて、変化したものを見せるのが物語なんですね。
すでに変化したものを遡って5つの要素に再構築していく感じでしょうか。
『第3の課題は、ビジネスパーソンのほとんどは否定的な面、弱い面、トラブルを隠す癖がある点です。彼らは自分たちの長所、強い面しか見せたがりません。
しかし物語メソッドは困難や障害を前面に見せて、それを克服する過程を表現します。従って、弱い面を見せる勇気が必要なんです。』
「あの時は極限まで追い詰められましてね……」って告白するのは勇気がいるかもしれませんね。
『ー物語はポジティブシンキングを否定しているんでしょうか?
そうではありません。むしろ逆です。困難や障害も隠さず見せることこそがポジティブな行為です。困難を明らかにし、その克服をドラマチックに見せることで説得力が高まるんです。
バラ色の未来を描くことの問題は、信憑性が伴わないことです。明るい将来像を示した報道用リリースを作ることは易しい。でも読者はそんなものを信じません。
会社の内部に欠点がないはずがないし、競争相手も存在します。明るい未来なぞ簡単には到来しないことを誰もが知っています。
困難の開示に怯える発想こそ、ネガティブな考え方です。物語はポジティブシンキングの態度からしか生まれません。
本当に前向き思想のビジネスパーソンは強いふりをする必要がないんです。』
嘘は言ってないけど「ドラマチックに見せる」演出とかは入れていいし、創作ではそこが技術の見せどころでしょうか。
アイデア(素材)は他から持ってきても、見せ方(料理)は人それぞれのやり方がありましょう。
『ー物語力とビジネスにおけるリーダーシップとの関係は?
優れた物語の作者は「自分が、もしこのキャラクターで、この状況にいたら、どう行動するだろうか」と自問自答し、全ての登場人物を自分から作り出します。
つまり、あらゆる偉大な物語の根底には、作者の己自身に対する深い知識があるんです。』
急に来た「魔法の「もしも」で考えよう」ですね。プレゼンとは関係さなそうですが、優れたリーダーの素質ある人はそういう想像力もあるのかも。
『また、あらゆる偉大な物語は懐疑主義に支えられています。懐疑主義者はテクストとその裏のサブテクストの違いを知り、表面に現れない部分に真実が宿ることを知っています。』
急に来た「テクストとサブテクスト」論。プレゼンとは関係なさそうですが、ビジネスで成功する人は人間心理にも鋭いんでしょ。
『この物語の原理を理解している人は、自分自身や人間の本性をよく分かっています。画面の下に隠れている他者の人間性を理解することができるんです。
こうした能力は、優れたビジネスリーダーになる確率を高めるはずです。』
最後は駆け足で秘伝を伝授しようとしてくれたのでしょうか。大まかでもだいたい知ってる内容だったので嬉しかったです。
最後にまとめると、
「物語とは、人生がどう変わったか、理由(why)と過程(how)を示したもの」
3つの質問(願望、障害物、決断・行動)を事前に
5つの要素(誘因、紛糾、危機、山場、解決)で構成を
「期待と現実のギャップ」で引き込み
くらいでしょうか。
他にもたくさん重要なことは「ストーリー」に書かれていたけど、たくさんあると何が特に重要なのか分からなくなるので、その見極めが難しかったところ、プロの記者さんに教えていただいた格好です。