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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

とある王道学園の非王道な物語

真冬の風は冷たかったけれど、寮は、騒がしく暖かった。

 前回の『珈琲は冷たかったけれど』の続き的な何か。


 最後は何となく決まってたのに勝手に動くキャラクターのせいで(?)少し長くなったのもあり、多少の誤字脱字等があるかもしれません。(具体的には前回は3000文字ぐらいだったけど今回は三倍の9000文字近くある)

 それでも良い方は時間がある時に読んでくれるとありがたいです。

「――おー、アイちゃん?」

「てんこーせいさん、オレに何の用ですか?」

「え、ちょ、他人みたいに振舞うのやめろっ!?」



 転校生(ふうが)がやってきた。

 ……はぁ、ついに来てしまった、面倒くさい。



「……お前ら知り合いなのか?」

「え、違うけど」

「アイちゃーん!? 俺等親友だろっ、なんでしれっと赤の他人ですがみたいな顔してるんだっ!?」

「……知り合いなんだよな?」



 転校生の案内役らしい風紀が俺に聞くから速攻で否定したら涙目で風牙が俺に縋り付いてきた。

 ……はぁ、と一度だけため息をついた後、風牙を見る。

 涙目な風牙がちょっと可愛いと感じる俺はもう駄目だと思う。



「……風牙のばーか」

「な、なんかディスられた? でもアイちゃんに見られるなら別に良いか……」

「……はぁー……」

「お前ら仲良いな……」

「良くないよーオレとこいつはただの知り合い」



 これからを考えると本当に面倒くさい。

 まぁでもこの後は風紀と学園内を歩くだけだろうし、大丈夫だろう。

 ……何で生徒会の奴じゃないんだ、あぁでもそういえばこの時期は結構忙しいんだっただろうか? だからといって案内を風紀に丸投げしたのはどうかと思うが。



「アイちゃんアイちゃんいい加減俺のことを見て?」

「煩い、後アイちゃん呼ばないで」

「……俺必要ないんじゃないか」



 風紀が凄い可哀そうなことになってるが、俺は知らない。

 原因は九割風牙のせいだ、んでもって俺は帰る。



「もうお前が案内したらどうだ?」

「やだ」

「アイちゃ、ぐっ!?」

「あ」



 即答する俺に抱きついて止めようとするので咄嗟に出てしまった回し蹴りが風牙にクリーンヒットした。

 ……違う、俺は悪くない、だって風牙が近づいてきたから、咄嗟に足が出るのは仕方ないと思う。

 股間じゃなくて回し蹴りだからセーフ……?



「あー……大丈夫か、華月(かづき)?」

「だ、大丈夫です……黒羽(くろばね)先輩」



 ……仲良いな、風牙と風紀。

 ちなみに華月というのは風牙で華月 風牙(かづき ふうが)が名字込みの名前だ。

 黒羽は…………あぁ、思い出した、確か風紀の苗字だったか、風紀としか言わないから一瞬誰か分からなかったけど……えー……フルネームだと確か黒羽 琥珀(くろばね こはく)だったか。

 ところで目の前のコレは――



「――ん、ちょっと血が出てる、少し待て」

「わ……黒羽先輩ってそういうの、いつも持ち歩いてるんですか?」

「ん? あぁ、風紀だと怪我する時もさせることもあるからな、最低限だが……」

「……ありがとうございます、黒羽先輩」

「いや、そんなに気にするな、他に怪我はないな?」

「はい、大丈夫です」



 ……俺は何を見せられてるんだ?

 風紀が持ち運べるタイプの救急箱を取り出して風牙の治療をしてるだけのはずなのになんか……


 というか俺への反応と風紀への反応が違いすぎないかと言いたい。

 …………これは、風紀委員×転校生か、逆か……別に俺は腐男子ではないがこの数カ月学園に居て何となくは分かるようになってしまった、主に同室のアホのせいで!

 具体的には――


『――やっぱり月光(げっこう)は誘い受けタイプだと思うんだよ風紀の黒羽辺りとくっついてくれないかなそれとも不良系とか!』


 とか早口で言いやがった同室のアホに不良ならお前だろと突っ込んだら……


『え、俺は腐男子であってノーマルだからやだ』


 やだってなんだよお前が言い出したんだろ一年の不良さん! というか俺を攻めと見るのはまだ良いけどなんで受けなんだおかしいだろっ!

 ……とか色々言いたくなるのをどうにか止めて机に突っ伏した俺を見習ってほしい。


 はぁ……同室のアホのせいで無駄に知識が増えてしまったし……というかびーえるってなんだよと最初は思ってたのにあのアホは絶対許さないからな……!



「あ、アイちゃんこの後予定は?」



 と、無駄な決意をしてたら風牙に聞かれた。

 正直遠い目をしかけていたが、どうにか現実に意識を戻す。

 予定を頭の中で考える、もう結構な時間だし……



「……寮に帰るだけかな」

「だったらアイちゃんも俺と行こう!」

「いや、風紀だけで良いでしょ……」

「俺としてはどっちでも良いが……」



 だったら行こうと風牙が俺の腕を掴む。

 足を踏んでやろうかとちょっと思ったが流石に耐える。

 ……今日って寮に帰ってそれで終わり……じゃなかった、そういえばもう一つ予定があった。



「いや、オレは帰るよ、ちょっと予定もあるし」

「え、俺以外に予定があるとか嘘だろ!?」

「なんで風牙以外に予定を作っちゃいけないのかな?」

「……ちなみに予定ってなんだ?」



 冷静に聞いてくる風紀を見習ってほしいと少し風牙に言いたい。

 もう少し冷静になってくれると嬉しいんだが……



「同室がお腹空かせて待ってそうだからね、早めに帰ってあげないと」

「……同室って……あぁ、そうかお前の所は桜宮(さくらみや)が居るんだったか……」

「桜宮?」

桜宮 暁(さくらみや あかつき)、一年の不良とか色々言われてる有名人の一人、かな?」



 俺が首を傾げてる風牙にそう言えば少しだけ微妙な顔をする。

 危険じゃないのかと言いたげな風牙に苦笑する。

 ……実際にあのアホの素を見たら、危険の意味合いが変わる、というか主に妄想されるという意味の危険になる。



「あのアホってば最近まで昼抜き朝夜どっちも適当に納豆か卵って不健康な生活してたからね……」



 少しだけ遠い目をする、つい最近まで気づかなかった自分を怒るぐらいには不健康な生活をしてた。

 ……あのアホ、覚えればそこそこ料理が出来たのはまだ良かったけど、覚える気がないせいで自分で料理というのを殆どしない、おかげで俺がご飯を作ってあげてる。

 でも朝だけは俺弱いから作ってもらってるけど。


 ……明らかに俺より美味いせいで素直に喜べない、美味いんだけど、美味いんだけどどうして自分で料理をしないんだと机に突っ伏することになったのはここ最近の出来事だ。



「……それは、また……」

「え、なにそれズルい」

「そーいうわけでオレは帰るねー」



 反論を聞く前にさっさと荷物をまとめて帰る。

 ……夜ご飯はちょっと遅くなったし、手軽に作れる何かが良いだろう、何にしよう?


 *


「ただいまー」

「遅い」

「悪かったけどさー……あれ?」

「冷めるからさっさと食べるぞ」



 ……帰ってきた寮の部屋には二人分の食事。

 アホ以外に誰かいるのかと思ったら同室のアホこと桜宮しかいない。

 ……え、もしかしなくても遅かったから作ってくれた?



「……なんだよ、その目、食べないのか?」

「あ、食べます食べます、いただきますー」

「あぁ」



 慌てて席について、手を合わせる。

 出来立てなのかまだ温かいご飯は俺が作るのより美味い。



「……美味いか?」



 ふと、目の前のまだ手を付けてない桜宮を見れば、少しだけ不安そうな目をこちらに向けていた。

 ……そういえば俺が作ってやったことはあるけど、桜宮が作ったのは初めてだったかもしれないと今日の献立を改めて見る。



「美味しいよ? 流石桜宮だよねー」

「なんだそれ……まぁ、良いけど」



 言葉はそっけないのに、どこか嬉しそうにしてる桜宮を見ていると素の時と印象が違いすぎて逆に困るというか困惑する。


 お互い無言でご飯を食べる、俺と桜宮の食事中はあまり会話はない。

 というか桜宮はBL関係以外だと素にあまりならないせいで無口無表情のままだ。

 ……素の時も無表情なのはちょっと怖いからやめて欲しいが。



「ごちそーさまでしたー」

「ん、洗うから寄越せ」

「うん? それぐらいはオレがやるよ」

「別にいい、お前はここで大人しく待ってろ」



 ……今ナチュラルに頭撫でられたんだけど? おかしくない?

 なんか顔が赤くなってる気がする。


 ……というかあのアホのクセに、無駄にイケメン……いやいや、俺はノーマル、同性愛とかないはず。

 ……風牙、は別に……あぁぁ! ……考えれば考えるほど駄目になる気がする。


 少し、頭を冷やす意味でもベランダの方へと出る。

 桜宮には大人しく待ってろと言われたけど、ちょっとだけ疲れた。

 ……真冬の風は酷く冷たい。



「……さむ……」



 もう一枚ぐらい着てきた方が良いぐらいにはすごく寒かった。

 冷たい風を浴びながらぼんやりと空を見上げる。

 曇って星すら殆ど見えない、真っ暗な空。



「……はぁ……」



 ため息を一度だけついて、ぼんやりと考える。

 全てが分からなくなりそうなぐらい、自分の感情がぐちゃぐちゃだった。

 風牙のことも、桜宮のことも……好きではある、でもそれはただの友愛なはずで、だからこんな感情はおかしいんだと何度も思った。

 ……そもそも二人に対して好意を持つ時点で駄目なはず、そう――


『――やっぱり転校生は総受けなのかそれともあえての総攻めとかもありなのか!? 月光はどう思う!?』


 ……何故か興奮気味に俺に言ってきた桜宮の言葉を思い出した。

 確かあの日は桜宮が転校生について知って、何故か総受けとか総攻めとか訳の分からないことを言ってきて、俺に聞くなと素で言いそうになった日だった。


 後風牙がその本みたいな風になることはありえないって否定したくなったけど、どうせ見たら納得するから諦めた。

 ……風牙に会った次の日だったのもあり、風牙のことをあまり話したくなかっただけだが。



「……はぁー……」



 なんで桜宮の言葉を思い出したかは知らない、というか俺は別に二人のことが好きなわけじゃない。

 いや好きだけどそういう好きじゃない、とにかくただの友愛とかのはずだ。



「っ、くしゅっ……」



 ぶるりと、体が震える。

 ……思ったより時間が経ってる、流石にここにこのままいたら風邪引きそうだと考えていたら、ばさりと何かをかけられた。



「え?」

「……何やってんだアホ」

「あ、桜宮、どうしたのさ?」

「どうしたのかは俺が聞きたいんだが? ……ったく、風邪引くぞ?」



 改めて見ればどうやら桜宮の上着をかけてくれたらしい。

 俺よりでかい桜宮は、自然と見上げる形になる。



「オレに上着かけたら桜宮が風邪引くよ?」

「だったらさっさと室内に行くぞ、アホ」

「オレはアホじゃないしー」



 さっさと室内に行こうとする桜宮を追いかけるように歩く。

 ……ふと、何か明るいものが見えた気がしてそっちの方を見ようとして――



「――わっ!?」

「っ……大丈夫か?」



 ……びっくりした、まさか躓くとは……そのまま地面に倒れるかと思った俺をしっかりと支えてくれたのが桜宮だった。

 上を見上げれば、心配そうにこちらを見ている桜宮の目と合う。



「……あ、ありがとー?」

「……はぁ……」

「ろ、露骨にため息つかれるとちょっと心に来るんだけどっ!?」

「煩い」

「あ、はい……」



 ……なんか失敗した気がする、どうすればいいんだろうこの空気。

 正直俺がため息をつきたいぐらいだけど、どうにか我慢する。

 さっさと離れる方が良いのだろうか、それとも謝った方が良いとか、どうすればいいのかが分からなくて、だんだんと気分が沈む気がする。



「はぁ……アホ」

「え、わっ……!?」

「何考えてんだアホ」

「え、いや……あれ?」



 いきなり頭を撫でられて、びっくりして桜宮を見る。

 呆れた目をした桜宮に一度瞬いて、何故かいい言葉が出なくて、視線をそらす。

 たまたま目に入ったのは、テーブルの上に置かれたソレ。

 ソレをじっと、見る、だってソレは明らかに――



「――気になるのか?」

「え、いや、まぁ……」



 ――明らかに、誰かに渡すための綺麗に包まれた箱。

 誰に渡すのかは知らないけれど、気になってしまうのは仕方ないと思う、何かの記念日とかだっただろうか? と首を傾げる、でも何も出てこなかったし……誰かの誕生日とかが近いのだろうか?



「……誰かの誕生日とか、そういうの?」

「誰かの……まぁ、合ってるんだが……」



 どこか微妙な顔をした桜宮に、首を傾げる。

 誰か俺の知ってる奴の誕生日なんてあっただろうか? 思いつかないし、多分俺の知ってる奴じゃないんだろうなとぼんやり思う。



「……はぁ、これは完全に忘れてるな……」

「え? 何を?」

「……誰かの、誕生日じゃなくて、お前の誕生日だろ、今日は、お前の」

「オレ……?」



 一瞬何を言ってるのかが分からなくて、固まった。

 ……今日は何日だっただろうかと考えて、あぁそういえばそうだったかもと思い出す。



「……忘れてた」

「だと思った、だから脅かそうと思ったのに、ベランダにいるし、タイミング逃したし……」



 ……そういえばさっきやけに強く大人しくいろと言ってた気がする。

 もしかしなくても俺をびっくりさせようとしてたのに居なくて困ったのかもしれない、なんか悪いことした気がする……



「……はぁ、とりあえず、さっさと室内に行くぞ」

「う、うん……」



 ふと、視界に映った綺麗な月。

 ……曇っていて、ただの暗闇だったはずなのに、綺麗な丸い月。



「あ? ……曇ってたのに、晴れたんだな」

「……そう、だね……」



 ぼんやりと月を見る俺に気づいて、桜宮が止まる、俺が何を見てるかに気づいて、俺の隣で一緒に空を見上げていた。

 ……綺麗な月、綺麗な、丸い、月。


 ……何だか自分が醜く見えて、酷く嫌になった。

 自分の汚い所が出ているようで、冷たい風と共に体と心が冷えていく気がした。


 ……美しく、穢れなき月。

 俺とは違う、俺は穢れているのだと言われた、俺は気持ち悪いのだと、どうしようもないものが心を傷つけるような気がして、傷ばかりが増えて、俺はまた汚れていくのだ。

 月光(げっこう)の姓を持つのに、俺は月の光のように綺麗ではない、月のように穢れない存在ではない。

 ……俺は――



「――おい? 大丈夫か?」

「……え? 何が?」

「何だかぼんやりしてたから」



 瞬く俺の腕を掴んで、少しだけ驚いた目をした桜宮をぼんやりと見る。

 桜宮の紅い瞳は酷く綺麗で、俺とは違うんだと分かる気がした。



「……体、冷たいな……いい加減室内に行くぞ?」

「あ……うん」



 そのまま桜宮についていく。

 室内だとかなり温度差があるんだと分かる程度には部屋の中は暖かった。



「……お前さ、もっと誰かを頼ったらどうだ?」

「え?」

「俺とか…………まぁ別に他の奴でも良いけど」

「……最近似たことを親友に言われた」



 ふと思い出したのは、風牙の言葉。


『――俺は、仮にもアイちゃんの唯一の親友、だろ?』


 どこか寂しげな風牙のあの言葉。

 その後は逃げるように帰ってしまったけれど、多分あれは風牙の本心だと思う。

 つい最近会ったことなのもあって、あの時のことははっきりと思い出せる、風牙があの時のことを何か言わないかと少しだけドキドキしていたけれど何も言わなかったことはありがたかった。

 そんな風に、ぼんやりと考えていれば――



「――ふぅん? だったらその親友でも頼れば良いだろ」

「……え?」



 ――何処かイラついたような、桜宮の声が聞こえて、そっちを見る。

 どこかむすっとした? ような桜宮の様子に一度瞬く、一テンポ遅れて反応した俺を無視して桜宮はテーブルへと向かう。



「え、と?」

「それ、誕生日プレゼント」

「う、うん?」

「んじゃ、俺は寝る」

「え? えぇっ?」



 帰ってきた桜宮は俺に方へ押し付けるように綺麗に包まれた箱を渡して、さっさと部屋から出て行こうとする、慌ててその腕を掴む。

 ……掴んだ俺の方を見て、なにと呟く桜宮を見て、何も言うことが思いつかなくて、どうしようと逆に慌ててしまう。



「……え、っと……」

「……」



 こちらを見る桜宮の目は何故かイラついている感じがする。

 正直何がそんなに怒らせることになったのか凄く気になるけど……聞いても多分教えてもらえないやつだと思うから、流石に聞かない。


 ふと、その紅い瞳と目が合う。

 俺を見下ろす紅い瞳はやはり綺麗で、俺とは違うんだってのが良く分かって――



「――綺麗だ」

「……は?」



 つい、出てしまった自分の言葉に、一瞬俺も固まった。

 そしてその意味を理解して顔が赤くなるのが分かった。



「あ、いや、今のは、ちが」

「……」

「あぁぁぁっ……!」



 あわあわとする俺を無言で見下ろす桜宮が何を思ってるかが怖くて、逃げるように掴んでいた腕を離してベランダに逃げようとして――



「――っ……おい、待てっ!」



 ――逆に捕まえられた。

 腕を引っ張られて、抱き寄せられて、咄嗟に出そうになった足を止める。

 ……止める? なんで、止めた、後で謝る必要が出るが逃げられるチャンスだったのに?



「……顔、真っ赤だな」

「い、言わないで……」

「ふっ……」



 先程のイラつきが何処にいったのかと聞きたくなるぐらいはっきり分かる。

 凄い嬉しそう……俺が逃げようとするのを捕まえて、楽しげに耳元に息を吹きかける。



「ひゃっ……!?」

「可愛いな、月光……いや、どうせなら藍李って呼んでいいか?」

「え、ちょ……」



 ただでさえ頭が真っ白の時に何言ってるんだと言いたいっ!

 耳元で囁く桜宮の声が、この状況が、恥ずかしくてたまらない。



「俺のことも、暁って呼んでくれ、な?」

「あ、暁……?」

「っ……可愛いな、藍李……」



 小さく桜宮――いや、暁の名前を呼べば、凄く嬉しそうに俺のことを呼ぶ。

 恥ずかしいのでやめてほしいけど……多分無理なんだろうなというのが何となく分かる。


 そぉーっと、暁を見るために見上げてみる。

 ……しっかりと紅い瞳と目が合ってしまった。

 視線を逸らすか迷ったが、改めてその赤い瞳はやっぱり凄く綺麗だと思う。



「……あ、暁?」

「……そんなに見るな……」



 不意に目を逸らした暁、名前を呼んでみたが目どころか顔を逸らした。

 ……じっ、と見ていてようやく気付いた、耳、赤い……なんか悪戯心が……



「……えいっ!」

「っ!?」



 強引に顔をこちらに向けさせる。

 ……目が合ったとほぼ同時に、暁の顔が赤く染まる。



「……真っ赤」

「っー! おま、お前っ! このアホ!?」

「そんなに焦らなくてもいいでしょ……」



 焦りに焦って慌てて俺から離れようとする暁の腕を掴んでみる。

 すると流石に振り払う気はないのか落ち着いた。

 ……ように見えるだけで実際は視線が凄い動いてるしそわそわしてる。



「ほら、もうちょっと落ち着いたら?」

「おまっ、お前がっ、原因だろっ……!」

「まぁまぁ、焦ったっていいことないよー」



 深呼吸でもして落ち着いて、と笑って見せる。

 ……なんか微妙な顔された、なんで?



「……作り笑いやめろ」

「え? じゃあ年中無表情の暁と同じで無表情の方が良かった?」

「いや……それは……」



 そんなに悩むことを言っただろうかと首を傾げる。

 悩む暁に時間がかかりそうだと辺りを見渡す。


 ……ふと、目に入ったのは手に持っていた、綺麗に包まれた箱。

 そういえばさっき暁に渡されたんだったと思い出した。


 ……これ、中身何なんだろう、そこまで重くはないし、置物系ではないと思う。

 それに、そんなにでかくないし……アクセサリー系とか?



「……ねぇ、暁?」

「な、なんだ?」

「これ、開けてみていい?」



 何故か固まった。

 そんなにおかしいことを言ったつもりはない。

 ただ中身が何か分からないなら開けてみようと思って、丁度目の前に渡した本人が居るんだから確認はするべきかと思っただけなのに。



「…………あぁ、大丈夫だ」



 長い沈黙の後、少し視線を逸らしつつ、口を開いた。

 正直、本当に大丈夫かと聞きたくなったけど、大丈夫だと本人が言ったのだから多分大丈夫なのだろうと信じる。


 ……ゆっくりと、包みを取って、箱を開ける。

 中に入ってたのは――



「――ネックレス?」



 シンプルで、綺麗な月のネックレス。

 普段はあまり好きになれない月なのに、何故だかこの時だけは好きになれた。



「…………お前に……藍李に似合うと思ったんだ、そういうの、嫌いだったか?」



 じっ、とそのネックレスを見ている俺を、少し不安げに見ている暁に気づいて、首をふる。

 ただ、ただ嬉しくて――



「――ありがとう、暁」

「っ…………気に入ったなら、良かった」



 心の底から笑えるのは、少し久しぶりだったかもしれないと、少しだけ思った。

 ……ただ、少しだけ問題があった。

 普段あまりアクセサリーはつけないから、どうすればいいのか分からなかった。

 こんなことなら少しぐらいはアクセサリーとか、興味を持っておけばよかったとちょっと後悔した、ネックレスって、こう、後ろに持っていって、この留め具? てきなので留めるんだと思うんだけど……



「……む、むむ……」

「くっ……藍李って、変な所で不器用だな……」



 上手くつけれなくて、困っている俺見て、少しだけ笑いつつ、暁が近づいてくる。

 貸して、と言われて、素直に渡したところまでは良かった、そして渡してから思った。

 ……あれ? これってつまりは……男性が女性につけてあげるアレ的なアレじゃ……?


 ぐいと、抱き寄せられて、そのままつけてくれる。

 そこまで長い時間じゃないはずなのに、酷くドキドキするのは多分気のせいだと思いたい。

 耳元に聞こえる吐息が、酷く恥ずかしい。



「ん、これで良し……って、なんで顔真っ赤なんだ?」

「……む、無自覚……」



 こっちは結構恥ずかしかったのに、当の本人は無自覚だったとか正直疲れた。

 ぐでーんと、暁の方に倒れると、首を傾げつつ俺をささえてくれる。

 ……ふと、首元にある、ネックレスを見る、何だか凄く嬉しくて……



「っ、おま……かわ……」

「うん? 暁?」

「っ! あぁぁぁっ! もう俺は寝るっ!」

「え? ちょ、暁っ!?」



 いきなり叫んだ暁に驚きつつ、さっさと逃げるように部屋へと向かう暁……の手を取ってしまって一瞬固まった。



「……っー! 煩いアホっ!」

「え、ちょ、酷くないっ!?」

「良いから手を離せっ!」

「えーもうちょっとぐらい良いでしょ」

「良くない!」



 真冬の風が窓から入ってきて、酷く冷たかったのに、寒いとは感じず、ただ今の時間が楽しかった。

 俺と暁の言い合いは、結局日付が変わる直前まで続いたのだった――




 ――真冬の風は冷たかったけれど、寮は、騒がしく暖かった。

 読んでいただきありがとうございます。

 反省点はいくつかある気がしますが、個人的に一番気になるのは暁の腐男子要素が出せなかったのでもし続きがあるならその辺りも書きたいところです。

 後次期生徒会会長、実は名前すら決まっているのに話に絡まなかった可哀そうな存在なので次あるなら出したいです。


 残りは前回同様、キャラクター設定を出しておきます。


 ◆月光 藍李(げっこう あいり) (男/身長150後半/16歳/1.Sクラス)

 黒髪、青と黄のオッドアイの少年、普段はカラコンで隠して青色の瞳にしている。

 最近は誰かを口説くより風紀に追い掛け回されることが増えている。

 暁が不健康な生活をしてることに最近気づいて昼に弁当(自分の分と合わせて)と夜ご飯を作るようにした。

 努力型の天才、努力すればきっと誰かに愛されると信じたかったけど諦めかけている、でも最近は風牙が気になっているのと暁にドキドキしてしまってるが、自分はノーマルだと暗示をかけている。

 最近の楽しみは暁の作る朝ご飯。


 ◆華月 風牙(かづき ふうが) (男/身長150前半/16歳/1.Sクラス)

 黒髪緑瞳の少年、アイちゃん(藍李)大好きな転校生。

 ついに転校してきた転校生、案内役になった琥珀と友人になって最近は藍李が自分に構ってくれないと恋愛相談してる。

 案外普通にクラスに馴染めていて実は藍李より友人が多い、でも親友は藍李だけと言い張っている(親友並みに仲が良いのは琥珀ぐらい)。

 最近の楽しみは学園内のアイちゃん(藍李)の観察。


 ◆黒羽 琥珀(くろばね こはく) (男/身長170後半/17歳/2.Sクラス)

 黒髪、琥珀色の瞳の男性、風紀委員。

 普段は藍李や授業をサボる奴らを追い掛け回してたりする。

 生徒会メンバーの一人と親友、実は文武両道で凄いけど親友に負け続きで深夜に勉強してたり。

 最近の楽しみは可愛い後輩(風牙)の恋愛事情を聞くこと。


 ◆桜宮 暁(さくらみや あかつき) (男/身長170前半/16歳/1.Sクラス)

 赤髪紅瞳(白髪紅瞳)の青年、藍李の同室、藍李曰くアホ。

 実は隠してるけどアルビノ、不良時代に赤く髪を染めてそのまま学園に入った、紅い瞳はカラコンだと思われているが別にそうではない、最近は黒く染め直すかと少し考えている。

 普段は無口無表情のイケメン、素だと無表情のまま早口でBLを語る腐男子、学園に入る前から腐男子で学園について知って速攻で入ることを決めた。

 藍李のことは結構好き、恋愛的な意味かは不明だが……なお本人はノーマルだと主張している。

 実は何もしてないのに高得点取れる程度には頭が良いし運動も結構できる。

 夜の街で色々やってた不良だけどバレないように入ったが、入った後に直ぐにバレて逃げるように避難した裏庭が案外居心地が良く、それ以降授業をサボって裏庭で昼寝してる。

 最近の楽しみは昼は食べてないと言ったら作ってくれるようになった藍李の手作り弁当。


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