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黒の革命論 〜最強王軍への反乱〜  作者: ぽんぽん
学院地区 サンシャルル
9/24

第9話 王都レッドフォース

 飛竜『ハールドビーク』は徐々に飛行速度を緩めていくと、門形の港の中で完全に停まった。港は巨大な高層建造物の最上層部に設置されていた。


 港からゴンドラに,トンネルの形をした橋が延びてくる。

 その橋を通ると、(ひら)けたロビーがあって人で溢れかえっていた。


(うわーーーーーー…………)


ジャックは世界中の人がここに集まっていると思った。

地方生まれ地方育ちのジャックにとって、これほどの人数を一度に見ることは人生で初めてだったのである。


 最上層は飛竜港だったが、地下には地下鉄の駅があるらしい。そこまで降りて、サンシャルル駅まで行ってもよかったのだが、ジャックは人酔いしていた。

  

 うねる人波をこれ以上見ると本格的に吐いてしまいそうだった。

 一階に降りるまでの間、人をかき分けながら、アイリスが口を押さえるジャックの背中をさすっていた。ジャックはその優しさに、逆に情けなくなった。


サラはケタケタと笑っていた。

サラは姉と違い、優しさのかけらもない令嬢に育ちそうだと思った。

 

 ロータリーに出ると、人口密度は少し小さくなったが、視界に飛び込む情報量がグッと増えた。

地方から出た子供なら上を見上げて高揚しているところだが、ジャックは何だか目眩がして、思わずその場で膝を折った。


――――私達は車で行きますけど、ジャックさんはどうされますか?


 アイリスがそう訊くと、ジャックは車に揺られたらいよいよ吐いてしまうと感じた。

病院に直行しているローゼンの代わりに、アイリスを守らなければと歯を食いしばっても車を見るだけで喉を駆け上がるものがあった。

 

 仕方なく、アイリスの護衛は、ローゼンの他の給仕役、兼、護衛役の方々(さっきの事故で軽傷にすんだ人たち)と、当初サンシャルル駅から学院までを送る予定だった黒塗りの特別護装車に任せることにした。


 酔いを覚ましてから、タクシーか何かで行こうと思い、駅舎とロータリーを結ぶ壮大な石階段の端でぐったりしていた。

何気なく、右手にあった掲示板が目に入った。暗緑色のボードを画鋲ではめられた羊皮紙が埋め尽くしている。


―――――――――――――――――――――――


『朱海にて謎の危険飛竜種 貿易中断 討伐パーティ参加はグレンジャー商会まで』


『キングウツボ 捕獲以来 討伐厳禁!!死体の場合は受理いたしません 報酬金 3ガレオン』


『スネイル20匹駆除の依頼 報酬金 5ガレオン』


『ライコウオオカミ 渓谷にて目撃情報 討伐者にはギルドより金貨4ガレオン!!』


―――――――――――――――――――――――


 なるほど、賞金がかかっているモンスターがいるのか。


 かつて自分が倒したモンスターはいるかと眺めてみるも、距離が遠すぎるせいで知らない名前のモンスターばかりだった。

 

 酔いがあまりに覚めないので、ジャックは歩くことにした。

 どのみち、ここから学院までタクシーで行けるほどの路銀は持ち合わせていなかったので、学院の方に近づきながら交通費を減らそうと考えた。


 30分ほど歩いた。

 酔いも覚めて、距離もちょうどよかったのでバスに乗ろうとした。

 バス停でバスを待っていると、後ろから肩を思いっきり掴まれた。

 

 ジャックが振り向くと、意地悪い笑みを浮かべた男の顔があった。


「やっぱりそうだ……その目。黒い。流民ルナードだ」


 流民ルナード


 ジャックは初めて耳にする単語だったが、蔑称だということはなんとなく分かった。

その男は鷹のように目つきが鋭く、髪の色は灰を被ったような白色で、なんとなく野生児じみていた。

襟足が尾羽のように長かった。


男はジャックの後ろに並んでいたが、ジャックの外套を無理矢理に掴んで列の外に押し出した。

 詰めろ詰めろと、自分より後ろに並んでいた子連れの母にも促す。

金色の髪を引っ詰めて、乳母車を押しているその女性は、ジャックに申し訳なさそうな顔を向けた。


しかし男が一睨(ひとにら)みすると、慌てて列を詰めた。

男は緋色のガウンを着ていた。それはどこかの組織の制服のような格調があった。

 

 バスが着いた。

 空気を吐き出す音とともに、スライドドアが開く。


 ジャックは列の外から、客達が乗車していくのを見ていた。緋色の制服の男は、ジャックが乗りこむのを邪魔せんばかりに、わざわざ戸口の脇に立っている。


制服の男とジャック以外が全員乗った。すると男は、自分が乗り込む前にニタニタという笑みを浮かべて言った。


流民ルナードは歩きな。王に忠誠を持たない愚民が」

 

 絡みつくような不快な声だった。ジャックは背に這うものを感じるほどだった。

 終わりに男は嘲笑を浮かべると、バスに乗り込んだ。


 ジャックは呆然とした。

 バスは音もなく、街路に向けて発車していった。


 

 




 

次回登場人物

ジャック・アゼルバーン

フィオナ・グレンジャー

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