第8話 宿命
広々とした駅馬車の客車に窓には、外の風景が流れていた。
「ローゼン、大丈夫?」
アイリスが心配そうに言った。
サラもさっきまで心配そうにしていたのだが、今は寝息を立てている。
やがて窓が切り取る風景は、荒地から、田園風景、そしてグラート湾と風景が変わっていき、ゼルウィード第五の都市、シルヴァニアへとついた。
元の予定はサンシャルル行きである。
ここからはまだ、列車で行っても八時間はかかる距離だ。
乗客の不満が募る前に、アイリスは前に出て言った。
「シルヴァニアから王都に向かう飛竜船があるので、それに乗り換えます。
もちろん追加料金はいただきません。
この旅が皆様にとっていやな思い出とならないよう、シルバークラスをご用意いたしました」
乗客からすると、むしろ幸運だったに違いない。
そして今、ジャックは飛竜船と呼ばれた物体に乗っていた。
ラグビーボールのような形の気嚢を、飛龍『ハールドビーク』が牽引している。
「飛竜船はボトルシップとして販売されていて、マニアから人気を集めているんですよ」
港でアイリスが目を輝かせながら言った。
しかし、1回のガチャポンで、全78種類ある飛竜船のうち、どれかの1ユニット分の部品しか出てこないので、完成は1隻でも困難らしい。
今は、気嚢の下に付いているゴンドラの中にある医務室にジャックはローゼンといた。
アイリスは、飛竜船に乗り込んだ頃にはコク、コク、と船をこいでいて、今は部屋で眠っている。
「大丈夫ですか?」
ジャックが訊いた。呻くローゼンの代わりに、白衣を着た女性の医師が答えた。
「かなり重傷よ。そっちの腕はこの先使い物にならないでしょうね」
女医は白衣に手を突っ込んで、淡々と言った。
目の下に少ししわがあって、ジャックより二周りは年上の女性だった。
ローゼンの額には、脂汗が滲んでいた。相当に痛そうである。
「どうせ使わないんだから切っちゃった方が楽になれるんだけど、切る?」
女医が他の人のカルテを整理しながら言った。
「い……、いや……お嬢様を……お守りしなければ……」
ローゼンは喘ぎ喘ぎ言った。
「…………」
ジャックはじっとローゼンを見た。
少しして、ジャックは静かな口調で口を開いた。
「ローゼンさん……。そのことは心配いりませんよ」
ローゼンが眉根を寄せてジャックを見た。
年季の入った鋭いその目に、ジャックは静かに言った。
「僕が、アイリスを守りますから」
ローゼンは目を丸くした。
女医は何のことだか分からないが、気を引いたようでカルテを整理をする手を止めて目線をジャックに向けている。
「馬鹿な……誰が、どんな存在が相手なのか分かっているのか……。
確かに君には事情を話したが、あれはあくまで私達とはこれ以降付き合わないということで、安全と判断したから話したんだ……」
「大丈夫……、敵は誰だか分かっていますし、あなたの思いも分かってますよ」
ジャックの声はあくまでも静かだった。
ローゼンはジャックに恐怖を感じた。
ジャックの言葉からではなく、その行間から、彼の凄惨な過去が垣間見えたのでる。
ローゼンの耳元にジャックは顔をもっていき、「それにーーーー」と言って、
「――――はなから僕は、あの王を殺すつもりですよ」
ゾクッ‼︎‼︎
ローゼンは首筋に、鋭利な冷気を感じた。
それほどまでに、ジャックの声色は恐ろしく、明確な憎悪を帯びていた。
ジャックの微笑が、まるでナイフのようなに心臓を抉る。
(この少年は、一体……ッ)
漆黒の夜空を飛ぶ船は。
もうじき、王都『レッドフォース』に着陸する。
次回登場人物
ジャック・アゼルバーン
アイリス・シュガーズ
サラ・シュガーズ
セル・オックスロード