第7話 魔衝撃≪フォルス≫
アイリスは目を見張った。
グリムリーパーが襲ってきた瞬間、ジャックは目一杯に身をかがめたかと思うと、
ザン!!と、
稲妻のような動きで、ローブの男の背後まで移動した。
ジャックは背中を向けている。
黒色の外套がバサッと翻った。
突風と絹を裂くような高い音がアイリスの耳に届いた頃には、ジャックは剣を鞘に収めていた。
プシューッ!!
灰色の液体が部屋に迸った。
アイリスの頬にも散ったそれは、触ると、ねちょっという音を立てた。
グリムリーパーの体液である。
頭から縦に斬られたグリムリーパーは、断面図からその液体を散らしながら「ア゛ア゛……」と声を出して倒れた。
あまりにおぞましくて、サラに見せないよう顔を自分の胸に押しつけた。
アイリスたちと同様に、グリムリーパーの体液を浴びた黒いローブの男は、短刀を逆手に持って腕を出していた。
その刀身が少し欠けている。
アイリスは、ジャックが移動しながら3つの標的を斬りつけたのだと理解した。
ローブの男は、奇妙なくらいに微動だにしなかった。
フードで隠れて見えない顔に液体が散ったらしく、指でそれを拭った。
顔の前にして、液体を見ながら『ほう……』とつぶやいた。感心の響きがあった。
ローブの男は、グリムリーパーの死体を残して戸口から出て行った。
「逃げるのか」
ローゼンが問うと、
『確実に勝てるときしか戦わない主義でね……』と微笑しながら言った。
しばらくして、状況がつかめてきた。
列車の進行方向の線路上に、突如として魔術による攻撃の受けたのである。
線路は無残に破壊され、レールが爆風でも食らったように変形していた。
旅の出鼻をくじかれた乗客は落胆と安堵の入り交じった表情を浮かべながら、アイリスが手配した、都市間を結ぶ駅馬車に乗り込んだ。