第6話 グリムリーパー
無作法に扉が破られた。
とてつもない力で吹き飛ばされたらしい扉は窓に激突した。
1点を槌で打たれたように、木製のドアはひしゃげている。
戸口を見ると、何か大きいものがドア枠に鋭い爪を立てながら、こちらを覗いていた。
「……………………グリムリーパー……」
ローゼンの口から漏れるように声が出た。
その目は見開いてる。
幾分か恐怖の色が見て取れた。
グリムリーパーと呼ばれたそれは、異様な形をしていた。
骨に直接灰色の皮を張り付けたような体表に、手を伸ばせば易々と天井につく長い腕。
腕の形がとりわけ奇妙だった。
長い腕に、関節が二個あったのだ。
骸骨のように窪んだ目には赤い光が蟠っている。
それが二体。
わらわらと室内に入ってくると、遅れて黒いローブを着たジャックより頭一つ分大きい男が入ってきた。
フードに隠れて顔は見えない。
男は変声機を通したような奇妙な声で言った。
『アイリス・シュガーズとサラ・シュガーズ……で、間違いないか?』
口元が見えないせいで、ジャックは一瞬どこから声がしたのか分からなかった。
「貴様は誰だ……、国王の差し金か」
ローゼンが肘を押さえながら呻いた。
『答える義務はない……』
ローブの男はそう言うと、グリムリーパーと呼ばれた怪物が前に出た。
前傾姿勢で長い腕が前に垂れている。
アイリスはサラを抱きしめるようにして、グリムリーパーをキッと睨んだ。
額に汗がにじんでいるローゼンが片膝を立てて、グリムリーパーと対峙していた。
他の給仕役もローゼンと同じ目をしている。
ジャックはその間に割って入った。
「……なんだ貴様は」ローブの男が言った。
ジャックが自分の名前を名乗ると、ローブの男はしばらく沈黙した。
そして微かにため息交じりに口を開いた。
「若い齢でグリムリーパーの前に出た勇気だけは褒めてやろう……。しかし悲しいかな、それは蛮勇に終わる……」
「難しい言葉は使わないで。字の勉強はあんまりしてこなかったんだ……」
ジャックは少し情けなくなった。
言いながら、黒マントの中から刀を抜く。
刀身は一メートルと少しの長さで、真っ黒だった。
『それでは言い直してやろう……少年。君のした事は勇気ある行動じゃない……』
グリムリーパーの足が収縮した。
『ただの自殺行為だ』
グリムリーパーが、飛びかかってきた瞬間、
『 魔衝撃 』
ジャックの刀が、裂帛の音を立てた。
登場人物
ジャック・アゼルバーン
サラ・シュガーズ
アイリス・シュガーズ
ローゼン・スターク
黒のローブの男
次回登場人物(予定)
ジャック・アゼルバーン
ローゼン・スターク