第5話 列車を襲ったのは……
ギイイイイイイッ!!!!
金属と金属が高速で擦れる耳障りな音とほぼ同時、全員の体が後ろから押された。
時速九〇キロで走行していた列車に急ブレーキがかかったのである。
進行方向側の壁に、慣性が働いた全てがたたきつけられようとしていた。
ジャックはとっさに隣にいたサラの小さい体を抱きしめるようにして、壁に背中を向けた。
約2人分の衝撃が背中にぶつかる。
「かは……ッ!!」
衝撃の瞬間にジャックの肺にあった空気がすべて吐き出された。
列車は速度を急にゼロにすることはできず、列車は連結部を屈折点として蛇腹のように折りたたまれていった。
金属が軋む音が鼓膜を打つ。
やがて列車は雪の上で完全に停止した。
灰色の煙がもくもくと上がっている。
パラパラ、とジャックの頭に何かのかけらが落ちた。
「くッ ……」とジャックが体を起こすと、
体の上のサラが心配そうな顔をしながら、小さな指でジャックの頬に触れた。
「・・・・・・心配しないで、大丈夫だから……サラは怪我ない?」
ジャックが息をまともに吸えず、途切れ気味にそう言うと,サラはコクコクと頷いた。
ジャックはホッと息をつくと、周囲を見た。
――――地震の後みたいだな・・・・・・。
舞い上がった塵芥で視界が白く曇っていて、その奥に散乱した家具や調度品が見えた。
「ローゼン!!」
アイリスの声がした。
ジャックが声のした方向を見ると、壁を背にして顔を歪めるローゼンと、その側で狼狽えるアイリスの姿があった。
ローゼンは右腕を潰されたように、呻き声を漏らしていた。
額から、汗がドッと滲み出ている。
ローゼンはジャックと同様にして、アイリスをその身で守ろうとしたのだが、運悪く壁に設置されていた本棚の角に肘を強打したらしい。
骨を金槌で砕かれたような激痛と、鋭い痺れがローゼンを襲っていた。
「う・・・・・・うぁ・・・・・・」
今の衝撃で、鞭打ちや打撲など給仕も含めてほとんどが体を痛めていた。
ジャックも、もう少し身の丈があったら、壁に施された装飾の出っ張りで、動けなくなっていたかもしれない。
しかし、ジャック達にのんびりと治療している暇はなかった。
「ギギッ……」
照明の消えた廊下から、身の竦むような悍ましい声が聞こえた。