第4話 魔術徴令
ローゼンの話をまとめると以下のようなものだった。
ーーーーアイリスは王族に命を狙われている。
理由は、アイリスの殺害をシュガーズ家との戦争のけっかけにしたいからという身勝手なものだった。
「私を暗殺して、その一部をお父様に送ればお父様は戦争を仕掛けるでしょうね」
アイリスは憂いた目で言った。
つまりは、王族はシュガーズ家から仕掛けた戦争、という名目にしたいのだとローゼンが付け足す。
しかし、王領地とシュガーズ領地は離れており、暗殺がしにくかった。
そのために施行したのが《魔術徴令》である。
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魔術徴令
ゼルウィード王国全領土、その地を踏む万民のうち、魔法を発現しうる者の教育の一切は王国領内学院区にて行うものとし、一切の例外を認めない。
第7代国王 ガゼル・ゼルウィード
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これは、自国の学院へ通うアイリスを国王領へおびき寄せるものだ。
これは王族の権威が及ぶ全国土に適用される。
他の諸侯の目もあり、断るわけにもいかず、アイリスとサラの《サンシャルル》編入が決定したのである。
「ぎりっ……」
ローゼンは歯噛みした。
王族への反駁は一言でも大罪だが、ローゼンはその怒りを隠せずにはいられない様子だった。
殺伐とした空気が流れる。
それを取り払うように、アイリスが笑顔で手をパンとたたいた。
「でも大丈夫ですよ。この列車はシュガーズ家所有の物です。
不埒者が乗車できないようにはしてますから」
「・・・・・・え、何だって?」
「・・・・・・?不埒者が乗車できないように」
「そうじゃなくて。え、何、この列車、アイリス……さんのなの?」
ジャック関心を通り越して呆れに近い感情を抱いた。
その質問に、アイリスはクスリと笑いながら「さんはいりませんよ」と答えた。
シュガーズ家は領民に尽くす貴族で、税による収入は抑えて、自営の事業で収入を得ていた。
この鉄道もその一つだ。
そのような公共事業、さらにシュガーズ家の人柄も相まって、領民から極めて慕われていた。
「だからこの列車の乗務員はシュガーズ家で雇っている人たちです。
それも私が今年の八月まで通っていた紺青の神殿を卒業した強者揃いなんですよ。
特にこのローゼンは第四八期卒業生総代を務めたんです!!」
「……総代?」
ジャックは目を丸くした。
「昔の話ですよ」
ローゼンは何でもない過去のように微かに笑った。
この瞬間に、ジャックはローゼンの底知れぬ実力を見た気がした。
アイリスはジャックの隣にいるサラの口元をナプキンで拭いた後、
「さぁ、食後のデザートにしましょう」
アイリスがそう言った後のことだった。
キィィィィィィッ!!!!!!
列車が悲鳴のようなブレーキ音をあげた。
登場人物
ジャック・アゼルバーン
サラ・シュガーズ
アイリス・シュガーズ
ローゼン・スターク
次回登場人物
ジャック・アゼルバーン
サラ・シュガーズ
アイリス・シュガーズ
ローゼン・スターク
黒いローブの男