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第21話 一眼種


 ズンズンと迫ってくるのは、一眼種サイクロプスだった。

 フィオナとルイは、恐怖を顔に滲ませながら駆け出した。

 しかし、荷台を引く牛はそう簡単に方向転換することができない。


 フィオナは酒樽のことを気にして、逃げる足を止めた。

 それを見てルイも急停止する。

 振り返ると、ちょうどサイクロプスが橋に足を踏み入れるところだった。


 ギギッ!!


 橋を支えるロープが悲鳴をあげた。


「フィオナっ、逃げて!!」


 アイリスが叫ぶ。


 しかしフィオナはそこで立ち止まった。

 岸のアイリスに、恐怖の滲んだその目を向け、少し間があった後で、ついにはサイクロプスの方へ駆けだした。


「フィオナっ」


 今度はルイが叫んだ。急いで追いかける。 


 サイクロプスの大きな足が迫る中、フィオナは荷台のところまでいくと、荷台と牛をつなぐ綱をナイフで切った。


 それを見て、ルイが荷台の取っ手を持ち、全身を使ってその場で転回させた。フィオナも牛をそうさせた。


「フィオナっ危ない!!」


 アイリスの声がフィオナに届いたとき、サイクロプスはすでに後数歩でフィオナを捕らえられる位置にいた。


 アイリスがとっさに、呪文を詠唱しようと手を前に掲げると、ジャックがそれを制止した。


「ジャックさんっ、邪魔しないでください!!」


「ダメだよ。魔法が少しでも吊り橋にあたったら、もう橋が持たない」


「で、でもっ、フィオナがっ」


 アイリスは恐怖に肩をふるわせながら言った。

 その肩を抑えながら宥めるも、ジャックはどうすればいいかまだ分かっていなかった。


 もう今にもロープが切れそうで、助けにいこうにもいけない。

 

 ギシッ!!


 フィオナとルイが駆けた。

 牛も命の危機を感じたのか、足早になっている。

 

 しかし、サイクロプスが歩くたびに吊り橋が大きく揺れ、フィオナたちは上手く走れないでいた。歩くたびにロープに抱きつくようにして体を支えた。距離が徐々に小さくなっていく。


「フィオナ、後ろッ!!」


 ジャックが叫んだ。 

 後ろを見て、フィオナは恐怖と驚きを隠せなかった。


 サイクロプスが、その太く長い腕を振りかぶっていた。

 振り下ろされるのだと直感で理解し、体が石のようになって動けなかった。


 ゴオッ!と。


 それまでの緩慢な動きが嘘だったかのように、腕がフィオナにたたきつけられようとしていた。

 腕の影が、フィオナを覆い被した。

 アイリスが顔を覆い、ジャックは一か八かと剣の柄に手を掛け体を沈めた。


 その時だった。


『――――炎杯ヘルモス!!』


 橙色の閃光が一同の顔を照らした。

 ルイがフィオナとサイクロプスの間に割って入り、呪文を唱えたのだった。


「――――」


 音が一瞬だけ消え、次の瞬間。


 ゴオオオオンッ!!


 爆風と轟音がサイクロプスを襲った。

 

 すべてがスローモーションのようだった。サイクロプスはその衝撃で体を倒され、そのまま橋の下に落ちていった。


 だが、その大爆発は吊り橋にとっても、とどめだった。

 ロープが焼け、橋が空気の抵抗を受けながら落ちていく様は蛇のようだった。


 フィオナとルイは、それぞれ引くものを押すようにして懸命に走り、間一髪のところで助かった。

 へたり込み、肩で呼吸する二人はサイクロプスの血をもろにあびていた。


「迂回するしかないみたいですね」


 アイリスがそう言い、吊り橋を使わないルートを遠回りして行くことになった。港に着く頃には夕日が海を染めていた。


 ○ △ × □


 橋の下。岩肌を夕日が照らしている。

 苔むしているその上に、サイクロブスの亡骸が横たわっていた。


 ルイの魔法は、ちょうどサイクロプスの胃を貫いたようで、内容物が外に漏れている。血みどろの、その中の一部に息絶えぬ者があった。


『――――ッ』


 蛇種スネイルの頭部が、赤い目を光らせていた。


 




第20話に変更点があります

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