第20話 吊り橋
火を消して、再び歩き始めること1時間。
ルイはフィオナにパンを食べられたことも知らず、今も夢中で
「ヘルモスっ、ヘルモスっ」
と魔法を使っていた。
まるで新しいおもちゃを買ってもらった子どものようである。
道中、何度か現れたゴブリンを倒すことこそできなかったが、今はとにかく何でも良いからモンスターを倒したくてウズウズしている様子だった。
ちょうど丘を越えたところだった。
「ここが最後の難関ね」
目の前には吊り橋を見ながらフィオナが言った。
幅は2メートルくらいで荷台がやっと通れるくらいだ。
ただ懸念すべきは、その木と縄でできた吊り橋が、荷台の重さに耐えられるかどうかだった。
風雨に晒されていて、牛を含めた荷台が通るにはあまりに頼りなさ過ぎる。
「……ロープは太いし、大丈夫じゃないかな」
ジャックが橋を吊るロープを触りながら言った。しかし、言うほどの確かな自信はなかった。
「ゆっくり渡りましょ。まず私とルイだけで行くわ」
任命されたルイは「任せとけ」とでも言わんばかりに胸を張った。
二人はゆっくりと牛の速度に合わせるように歩いて行った。
車輪が吊り橋の板を踏みしめてカタカタと音が鳴る。
「……大丈夫。落ちても運がよければ助かる高さよ」
「……少なくとも荷台と樽は無事では済まないと思うけどね」
時々、吊り橋は肝が冷えるような揺れ方をした。
そのたびに二人の肩が大きくはねる。
「あと半分……」
ジャックの横で、アイリスが祈るように言った。
その時だった。
「ギーッ!!」
ゴブリンの鳴き声がした。
一同の顔が驚愕が走る。
声の方向は、ちょうどフィオナとルイの進行方向で、顔を上げると橋の先に4体ほどのゴブリンがいた。
ゴブリン達は、橋を渡り始めてフィオナやルイに向かって駆けていく。橋が大きく揺れた。
「きゃっ」
フィオナが思わずしゃがんだ。ロープを両手でしっかりと握りしめ、振り落とされないようにする。
しかしゴブリン達は待ってはくれない。
奇妙な四足歩行で凄まじい速度と這い、ついにはフィオナの目前に迫った。
「きっ」
フィオナが甲高い声を上げようと肩を上げた。
だがしかし。
「え?」
ゴブリン達はフィオナやルイに攻撃をすることなく、何なら視界に捉えてもいないように駆けていった。
橋を渡りきり、ジャックやアイリスの横も同様に駆けていく。
「…………え?」
しばらくの間があった。
今し方起きた状況の説明を誰かにしてほしかった。
だがそれは数秒後、雄弁に語られた。
ズン……ズン……と。
地響きのような振動がした。
それはまるで森全体に響いているように、木々が揺れ、鳥が羽ばたいた。
橋の向こう。ゴブリン達がやってきた方向。
そう、ゴブリンは逃げていたのだ。
「ちょっ……あれって……」
「…………」
「うそでしょ……?」
ボブゴブリンの3倍はあろうかという身の丈。
地面に着かんばかりの長く太い腕には異様に太い血管が浮き出ていた。
中でもフィオナの背筋をこわばらせたのは、西瓜より大きな1つ目だった。
張り巡らされた血管がよく見えるその目は、しっかりとフィオナたちを見据えていた。




