第2話 トランプ大好き幼女
「む!!」と幼女は何かをジャックに突きつけた。
随分と小さい手だ。4歳くらいだろうか。
腕をまっすぐに伸ばして、その手に持っているのはカードの束だった。
「トランプ?」
ジャックが目を少し丸めていると、幼女はジャックの膝の上に二枚のカードを置いた。
ソファによじ登って、ジャックの隣に腰掛ける。
「んー」
幼女が手札を見て唸った。
「…………」
――――いや待って、何のゲームなのこれ……。
ジャックは集中状態に入っている幼女に、訊くことができなかった。
二枚で遊ぶトランプゲーム。
何があっただろうか。
コンコン。
などと考えていると、個室のスライドドアがノックされた。
再びの来客らしい。
ジャックが返事をすると、遠慮がちにドアが開かれた。
「すいません。妹がお邪魔してませんか?」
戸口から覗くようにして、透き通るような青色の瞳がジャックに向けられた。
髪は隣のトランプ大好き幼女と同じ、暖かそうな亜麻色だった。
ーーーー綺麗な子だな。
ジャックは心の中で、口笛をそっと吹いた。
「あの、すいません……妹が……」
彼女は言いかけて、ジャックの隣に座る幼女を見た。
「サラっ。やっと見つけた……」
彼女は心底ホッしたように言った。
しかしトランプ大好き幼女は、姉の心配などどこふく風、神経をカードに注いでいる。
姉らしき美少女は、「すいません。一回だけしてあげてください」と申し訳なさそうに言って、幼女の隣に楚々として腰掛けた。
――――別に暇だし何回でもしても良いんだけど……。
しかし、その心の隙が仇となった。
出発から2時間。
景色は田園地帯から峡谷へと変わっている。
「サラっ。いい加減帰るわよっ」
サラと呼ばれた幼女は、100戦やっても満足しなかったらしく。
ジャックの着ている黒の外套の襟を掴んで、両足を姉に引っ張られながらも抵抗を続けていた。
2時間の間に、姉はアイリス・シュガーズという名の公爵令嬢だということがわかった。
「サラっ!!」
「むん!!」
離さないサラに、ジャックはお礼を言った方が良いだろう。
まさかアイリスが折れて、公爵家のスイートルームに招待されるとは。
登場人物
ジャック・アゼルバーン
サラ・シュガーズ
アイリス・シュガーズ
次回登場人物
ジャック・アゼルバーン
サラ・シュガーズ
アイリス・シュガーズ
ローゼン・スターク