表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/24

閑話休題 フィオナと夜

次回より、本編に戻ります

 月さえ沈んだ真夜中。

 それは唐突に訪れた。


「いッ……!!」


 ジャックは飛び起きた。


「シーッ、みんなが起きちゃうでしょ!!」


「…………フィオナ?」


 暗い部屋の中、すぐそばから囁き声はフィオナのものだった。

 脇腹に鋭い痛みが残っている。多分思い切りつねられたのだろう。


「……どうしたの、こんな真夜中に……」


 今は何時だろう。ジャックは体感で、3時くらいだと感じていた。

 フィオナはすぼめたような口調で言った。


「あんた……トイレ行きたくないの?」


「……え?」


「もし行きたいなら、付いていってあげてもいいわよ」


「…………」


 しばらく、暗闇の中のフィオナらしき影をジトっと見た後。


 ――――やれやれ。


 ジャックは布団の温もりを名残惜しくも手放した。


 ○ △ × □


 そして、トイレの前。

 ジャックは用を足すフィオナを待っている。


「あんた、なんかずっと喋ってなさい」


 無茶な注文である。

 今は誰もいないからいいが、もし誰かがトイレに来たら…………。

 真夜中にトイレ前で一人談笑する男になっしまうじゃないか。


 とりあえず、フィオナに話を振ることにした。


「フィオナは休みの日とか何してるの?」


「はぁ?商人に休みなんてあるわけないでしょ。時間が少しでも空けば店を回るわよ。売れそうな商品とかアイデアを探してね!!」


「……ああ、市場とか回ってるんだ」


「その中でも私は嗜好品が多いわね。茶葉とか豆を取り扱っている店は、中央市場だけでも200店以上あるから」


「そんなにあるんだ。行ったことないから分かんないけど」


「じゃあ今度連れてってあげるわ」


 と、フィオナが行った頃、ちょうどトイレのドアが開いた。手を拭きながらフィオナが出てくる。


「でも、私が本当に売りたい茶葉はどこにも無いのよね」


「え?どういうこと?」


「小さい頃に、私、アイリスの家で食事をしたことがあったの。

 当時の私にはどれも見たことない料理で、とてもワクワクしたわ。

 でもその中で、もっとも度肝を抜かれたのがその時ローゼンさんが入れてくれたお茶よ。

 ローストポークでもラムチョップでもエクレアでもプディングでもなくね!!」


 お茶?

 ああ、そういえばとジャックは思い出した。

 ブルーエクスプレスでご馳走になったときに飲んだお茶も、香りが凄かった覚えがある。


「そう!!香りが他とは桁違いなのっ。氷輪花の花弁から出たエキスを茶葉に移しているんだけど、これが素晴らしいのよ!!」


 フィオナは頬を紅潮させながら手をグッと握った。

 おおかた、彼女の中でそれを売りさばく好奇心が暴走しているのだろう。


「でも……っ」


 フィオナは心底悔しそうな顔をした。目をきつく瞑り、歯がみしている。


「香りのエキスの効果は、3時間しか持たないの。 シュガーズ領内からここへ運んで来ている間に、その香りは失われてしまうわ。

 たとえグレンジャー商会所有の最速飛竜船、グラスバードを使ってもね」


「そうなんだ。……えっと、愚問だけどその花ってレッドフォースの気候には……」


「合わない。寒い気候じゃないと芽さえ出さないの」


「でも」と今度は、両手を胸の前でグッと握る。

 フィオナはその目に闘志のような炎をたぎらせながら、


「絶対売ってみせる!!それで私は億万長者になるのよ!!」


 その焼き尽くさんばかりの炎の前で、ジャックは「……がんばって」とエールを送った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ