第10話 学園地区 サンシャルル
さて、学院に着いた。
長かった。ジャックは足に生痒い疲労を感じながら、学院の東門に立っていた。
――――大きな門だな。
大型トラックでもゆうに通れる高さである。獅子や鷹、龍などの猛々しい動物や神獣が装飾が施され、税金の無駄遣いだなとジャックは感じた。
門をくぐると、横に長い石造りの建物があった。
100年前くらいに前に建てられたような趣がある。
しかし中は近代的で、受付らしき女性達が、箱形の画面を前に何やらカタカタと叩いていた。
転入の旨を伝えると、受付の女性は疑わしくジャックの顔を見た。
ジャックはレナードの紹介だということを伝え、羊皮紙でできた入学許可証を女性に見せると、女性は校内への入場を許した。最後まで訝しんだ光は瞳から消えなかった。
最初にジャックを迎えたのは、アーケード街だった。
――――ここ、学院の中だよね・・・・・・
幅8メートルはある、長いトンネルのようなアーケード街はそう思わせるほどに市街じみていた。
両脇には商店が並んでいて、賑わいを見せている。
その中の一店を見ると、緋色の制服を着た学生が店主らしき人と価格交渉していた。店主が首を振っていたから、失敗に終わったようだ。
その店の商品を見ると、教科書を売っていた。
――――そうか、教科書とか制服を買わないといけないんだった。
入学案内にも書いていた。
そのことをすっかり忘れていたジャックは、一〇月から始まる後期までにお金を貯めないといけないなと思った。
ジャックが、この先にあるという事務室に行こうとした時だった。
「ちょっと、そこのあなた」
明朗快活な声が聞こえた。
どうやら後ろから発せられたようである。
ジャックが振り向くと、両手を腰に当てて仁王立ちする女の子がいた。いかにも気が強そうだった。
「見たところ、学院に慣れていないようだけど、もしかして転入生?」
吊り目の少女は、制服を着ていない。
その代わりに、オフショルダーの白のブラウスに黒のキュロットスカートを合わせていた。
髪は淡い赤毛で、カールがかかったボブだ。
「そうだけど・・・・・・」
ジャックは頭一つ分小さいその子に遠慮がちに言った。
「そう、なら色々ご入り用よね。来なさい。私の店は安いから」
「いやいいよ。まだ僕お金ないから」
「大丈夫、まとめて後払いでいいから」
まとめて後払い?ジャックは引っかかった。
その少女は、ニタリと笑いながら
「割引は今だけ、あなただけよ」
○ △ × □
ついて行かなければよかった。
ジャックは事務に紹介された住居の個室の中でそう思った。
ぐっちゃあ・・・・・・と。
あのフィオナと名乗った女に買わされたもので普通のワンルームが埋まっていた。
錬金術科ではないのに真鍮製の鍋に水銀五瓶。
予備、という名目で二冊ずつ買わされた教科書。
何に使うんだよ、という狸の置物・・・・・・。
「・・・・・・都会、怖いな・・・・・・」
あの後。
彼女に連れて行かれたのは、バックヤードらしき倉庫だった。
教科書が平積みされ、あとは木のコンテナが天井高く積んであった薄暗い場所だった。
「さっきのアーケードは私のお父さんが会長の『グレンジャー商会』がとりまとめてるの。
だから色々安くできるわよ」
フィオナは景気よくそう言った。
結果的に見ると確かに単価で見ると安くなっている。
しかしながら、フィオナは「制服は四着買うのが常識よ」、「魔術学部?ならミスリルよ」と言葉巧みにジャックにありとあらゆる物を買わせた。
気づいたときには、購入の証明を果たすであろう紙に署名までしていた。
「まいどあり~」と言った、彼女の憎々しい笑顔をジャックは生涯忘れることはない。
さらに恐ろしいことに、その支払いの期日が2週間後だった。
こうして、ジャックの学園生活は金貨8ガレオンの債務からスタートを切ったのだった。
登場人物まとめ
ジャック・アゼルバーン
アイリス・シュガーズ
サラ・シュガーズ
ローゼン・スターク
黒のローブの男
襟足の長い男
フィオナ・グレンジャー
次回登場人物(予定)
ジャック・アゼルバーン
アイリス・シュガーズ




