第1話 ブルーエクスプレス
師匠、レナード・ローガンに魔法と剣の教えをこいて11年が経った。
いよいよ旅立ちの時らしい。
「気をつけてな」
その朝、レナードはジャックの顔も見ずにコーヒーを飲みながら見送った。
ゴールドクロス駅に着いた。
紺青の塗装がされた列車が、駅のホームに泊まっている。
王都魔法学院地区サンシャルル行きの列車だ。
「本日は、急行ブルーエクスプレスにご搭乗頂きまして、誠にありがとうございます」
ガヤガヤと、楽しい旅を予感させるざわめきがある。
個室に乗り込むと早速、スライドドアがノックされて、ウェルカムドリンクのサービスがあった。
人生初のコーヒーの味。
ジャックは二度とコーヒーは飲まないと誓った。
――――なるほど、さすが高級寝台列車だ。
ジャックは窓の外を見ながら感嘆した。
2週間前、ジャック・アゼルバーンは17歳の誕生日を迎えた。
だからといって、この列車の旅が師匠、レナード・ローガンからの誕生日プレゼント、という訳ではない。
ジャックとレナードは、師弟関係とは言っても、必要最低限の会話しかしない間柄だ。
ジャックは、あの壮健な老人の年齢さえも知らない。
「2週間後にゴールドクロス駅から列車が出る。それに乗ってサンシャルルへ行きなさい」
そう唐突に告げられた。
その時に渡された、金箔を散りばめた紺色のチケットをジャックは眺めた。
「いくらするんだ……?このチケット」
もはや苦笑いするしかなかった。
そろそろ出発の時間だ。
物心ついてから、ジャックは列車に乗ったことがない。
浮き足立つ、という感覚を覚えながら、列車が動き出した。
そのとき。
個室のドアが開いた。
戸口には、暖かい髪色の幼女が、口を引き結んで立っていた。
登場人物
ジャック・アゼルバーン
次回登場人物
ジャック・アゼルバーン
サラ・シュガーズ
アイリス・シュガーズ