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このゲームはそんなにお気楽なものじゃない

 現在のドロシーはLV2。数字からして格上の相手である。序盤のボスと考えれば、良識の範囲内の敵といえる。しかし、魔法少女になって二日目でいきなりボスと鉢合わせするなど、パワーバランスもあったものではない。


 幸いにして、牽制しているのかリザードマンから仕掛けてくる気配は無さそうだ。格下だと見くびって、先手を譲っているのか。いずれにせよ、ドロシー側から動けるのは大きい。

「シューティングスター」

 作戦を立てようにも手数が無さ過ぎる。とりあえず攻撃してみるしか手はなかった。


 まっすぐに切迫する星形魔弾をリザードマンは微動だにせず待ち受ける。そして、タイミングを図って短剣を振りぬいた。

 たったの一閃だったが、その所作によって星の魔弾は一刀両断された。リザードマンの脇に墜落し、爆発音を立てる。


 あっさりと魔法を防がれたことに動揺を隠せない。「シューティングスター」と追撃を試みるが、これまた難なく短剣で切り払われてしまう。

 魔法が通じない以上、別の攻撃方法を試すしかない。だが、ドロシーが他にできることといえば、接近して殴るぐらいだ。武器を所持している相手に肉弾戦を挑むなど、自殺行為も甚だしい。


 手をこまねいていると、リザードマンはゆっくりと接近してくる。直感から、ドロシーを狩ろうとしている意思がまじまじと伝わってくる。こちらの火力が貧相だと判断し、一気に畳みかけるつもりだろうか。

 対して、ドロシーが取るべき行動は一つだった。膝が震え、杖を落としそうになる。恐慌する自分を叱咤し、踵を返す。そして、一目散に逃走を図るのだった。


 獣にとって恐るべきは格上の相手に一方的に狩られることである。なので、実力が不明の相手に対しては慎重にならざるを得ない。しかし、相手が格下ならば徹底的に狩りつくすのみ。なにせ、彼らの世界は食うか食われるかがすべてなのだから。


 ドロシーの走力はオリンピックに出場しても通用するほどだった。やはり、腕力だけではなく脚力も上昇しているようだ。だが、リザードマンは着かず離れずの距離を保って追跡してきている。ドロシーが必死の形相なのに、リザードマンは時折短剣をかざして威嚇する素振りを見せていた。


 そして、追いかけっこは永遠に続けられるものではない。どうにか振り切ろうと裏路地に入ったのが裏目に出た。進行方向の先には塀が築かれている。このまま進んでも袋小路になるだけだ。引き返すしかない。

 だが、逆方向には既にリザードマンが壁として立ちはだかっている。まさに詰み。突破するにはリザードマンと真っ向勝負して倒すしかない。


「シューティングスター!」

 星の弾丸を放つも、リザードマンのプレートアーマーによって弾かれてしまう。一応、ダメージ判定は発生したのだが、減少したライフはごくわずかだった。

 体力も魔力も限界スレスレ。もはや、リザードマンの攻撃を防ぐ手立てはない。ドロシーの心は折れ、膝を折ってしまう。そして、恰好の獲物を逃すわけはなく、リザードマンは嬉々として襲い掛かって来る。LV2にしてあっけなくゲームオーバーとなってしまうのか。


「モノブラスト」

 リザードマンの短剣がドロシーへと達するまで残り数十センチ。そんな際どいタイミングでリザードマンの額に弾丸が撃ち込まれた。地面を転がり、短剣がすっぽ抜ける。突然の出来事にドロシーすらも恐れおののいていた。


「その獲物は私がもらうわ」

 またも、どこからともなく声が聞こえてくる。一体どこから啖呵を切っているのか。首を回していると、リザードマンとの間に割り込むように一人の少女が飛び降りて来た。

 ジャンプの軌道からして、ドロシーの背後にそびえていた塀の上に立っていたのだろう。つややかな長い黒髪をなびかせ、きついツリ目はリザードマンをしかと見据えていた。モデル並みの長身で出ているところは出ている。同性であるドロシーですら惚れ惚れとするスタイルだった。漆黒のボディスーツをベースに、胸や肘などの急所が機械仕掛けのアーマーで保護されている。さながらアンドロイドの戦士のようだ。


 謎の少女は右手に構えている拳銃の銃口をリザードマンの喉元に定める。リザードマンの体力は雀の涙。もはや、一発すらも耐えきることはできまい。

「あなたに恨みはない。けれども、私の目的のために糧になってもらう」

 拳銃の先端にエネルギーが灯る。リザードマンは逃走を図ろうとしているのだが、額の傷は予想以上に深かったようだ。全身が痙攣してまともに動くことができない。


「ガトリングバースト」

 狭い路地を埋め尽くすように弾丸の雨嵐が降り注ぐ。本来は広範囲攻撃のようだ。文字通りハチの巣にされたリザードマンは苦悶の悲鳴をあげながら消滅していく。硝煙が立ち上る銃口に少女は息を吹きかけるのだった。


 あっさりと夢魔リザードマンを葬り去った少女は無言のまま立ち去ろうとしている。圧倒されていたドロシーだったが、我に返り、「あの」と声をかけた。

「助けてくれて、ありがとうございます」

「別に助けたわけじゃない。夢魔の気配を感じたから駆除しただけ」

 そっけない素振りにドロシーは困惑する。そもそも、背中を向けたままだ。どうにか会話を続けようと声にならない声で茶を濁す。


「あなた、最近魔法少女になったばかりよね」

「どうして分かるのですか」

「律儀に名札をぶらさげているから。まあ、私も人のことは言えないのだけれど」

 指摘されて頭の上を必死で払う。本人の意図に関わらず、名前とレベルは第三者からいくらでも確認できるのだ。変身後の名前を本名にしなくてよかったと思い知った瞬間である。


「一つだけ聞いておきたい」

 ひときわ低い声音で尋ねられ、真帆は姿勢を正す。同じ年頃の少女のはずなのに、熟年者に諭さられている威圧感があった。

「このゲームは夢魔を倒し続けて願いをかなえるだけの楽なものだとか考えていないでしょうね」

「それは」

 ドロシーは言葉に詰まった。それは図星だからに違いない。むしろ、ネムの説明からすると、そのようにとらえるしかないのだ。


 ドロシーの態度を肯定と捉えたのか、少女は声音を高めた。

「ならば、肝に銘じておきなさい。このゲームはそんなにお気楽なものじゃない。生半可な気持ちで挑んでいるなら考えを改めなさい」

「それって、どういう」

 疑問の余地も許さず、少女は飛び上がっていく。脚力だけで壁の上から民家の屋根へと飛び移っていっており、もはや忍者並みの機動力だった。


 彼女を深追いしたくても、身体能力の差から追尾できる自信はない。それに、もう一つ理由があった。どうにか彼女の名前とレベルだけは確認できたのだが、恐るべき数字を突き付けられたからだ。

「魔法少女バレット。レベルは42」

 現時点のドロシーとはあまりにも実力差がある相手。果たして、彼女は何者だろうか。それ以上に、彼女が残した言葉が胸に突き刺さった。ただのゲームではないとはどういうことか。疑問を解決するのに頭がいっぱいで戦いどころではない。タイムオーバーとなるまで夢魔と遭遇しなかったのが救いだった。


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