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ただの夢じゃないもん

 次に目覚めた時、真帆は自室のベッドの中にいた。未知の都市ではなく、見慣れた自分の部屋の中だ。主に漫画雑誌が陳列されている本棚や、壁一面に張られている魔法少女アニメのポスターがその事実の表れである。

 スマートフォンを起動すると、時刻は午前六時を示していた。学校へ行くためにいつも起きている時間だ。


「夢オチ、ですか」

 ほっぺをつねると相変わらず痛い。夢オチで片づけるには妙にリアリティがあった。徹夜で魔法少女として活躍していたような感じがするが、不思議と倦怠感はない。いつも通り、八時間ぐっすり眠った後のようだ。

 とはいえ、右手に違和感がある。持ち上げようとするとズキリと痛むのだ。寝ている間に誤ってどこかでぶつけたのだろうか。とりあえず、日常生活を送るのに支障はない。

 けれども、怪我をした部位が不安を助長させた。なにせそこは、夢魔ゴブリンに殴られた場所と合致したのだ。夢の世界とはいえ、受けたダメージはある程度継承してしまうのだろうか。


「お姉ちゃん、ご飯だよ。さっさと食べなさいって、お母さんが呼んでるよ」

 一階から真奈の元気な声が届いた。夢のことをうだうだ悩んでも仕方がない。とりあえず学校へ行こうと、真帆は制服へと着替え始めるのだった。


 学校へ行っても心ここにあらずだった。授業を受けていても、どうしても夢の中の出来事が思い浮かんでしまう。もっとも、あれが夢の中の出来事であると片づけていいのか疑問ではあった。現実と夢と中途半端なところだろうか。

 もちろん、そんな調子なので先生から指名されてもとんちんかんな答えを出してしまう。けれども、叱責されても不思議と嫌な気分にはならなかった。


 休み時間になっても、にやついている真帆。時雨は気味悪そうに声をかける。

「やけに機嫌がいいけど、いいことでもあったか。夕飯がカレーだったとか」

「時雨ちゃんじゃあるまいし、それだけで上機嫌にならないよ」

「私が食いしん坊みたいじゃん」

 むくれる時雨だが、あながち間違ってはいない。色気より食い気を地で行く少女。それが霧崎時雨なのである。当人曰く、「部活をやると腹が減る」だそうだ。


「ともかく、いいことがあったら教えなさいよ。これか、これなのか」

 左手の薬指を突き出してくる。ませた尋問に、さすがに真帆は顔を赤らめる。

「そんなんじゃないよ。ただ、いい夢を見て」

「なんだ、夢の話か」

「ただの夢じゃないもん」

 露骨にがっかりする時雨に、真帆はムキになる。「へえ、どんな夢よ」とおちょくられ、真帆は自慢げに説明しようとする。


 だが、寸前のところで思いとどまった。念を押されたばかりではないか。魔法少女ゲー夢のことは第三者に教えてはならない、と。しかし、あの興奮をどうにかして時雨に伝えたい。いきなり言葉に詰まった真帆を、時雨は不審そうにのぞき込む。だんまりを続けていては、余計にどん詰まりになるだけだ。早いところ、うまい言い訳を絞り出さなくてはならない。


 下手をしたらギリギリアウトになるかもしれない。でも、ゲームのことを隠して例の出来事を伝えるにはこうするしかなかった。

「夢の中でマジカル☆ドリーミィになって活躍したの。夢魔という悪い奴もやっつけたのよ」

「なんだ、いつもの夢じゃん」

 露骨にがっかりされる。確かに、小学生のころから時雨に似たような夢の話をしたことがある。本当はもっと臨場感たっぷりに伝えたいのだが、真帆に相応の語彙力は無い。加えて、これ以上詳細に説明すると、ネムの忠告に抵触する恐れがある。なので、

「そうよ。夢の中では大活躍だったんだから」

 と、虚勢を張るしかなかった。


「はいはい、大活躍でよかったわね」

 時雨はまったく取り合ってくれない。ただの夢ではないことを伝えたいのだが、うまく話すことができずにもどかしい。

 移動教室のためか、時雨はさっさと教室を離れようとする。慌てて真帆も追いかけるものの、

「へぶっ」

 慌てふためき、机の角に小指をぶつけて派手に転倒した。派手におでこをぶつけたものの、スカートの中にスパッツを履いていたのが幸いだった。


「まったく、どんくさいだから」

 やれやれと時雨は起き上がるのに手を貸す。真帆が現実世界でも活躍できるようになるのはまだまだ先のようだった。


 その後は特に事件もなく、再び夜を迎える。気持ちが急いていたせいか、いつもより一時間も早くベッドにもぐりこんだ。この時間に眠るのは小学校低学年の時か、風邪を引いた時以来だった。寝付けるか心配だったが、真帆の気持ちとは裏腹に、すんなりと夢の世界に旅立っていくのだった。


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