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みんなの夢と希望を守る! 星の魔法少女ドロシー!

 どのくらい時間が経過しただろうか。いつの間にか、真帆はメガロポリスの真っただ中で立ち尽くしていた。高層ビルが立ち並び、真帆が普段住んでいる地方都市とは大違いだ。中央通りには絶え間なく車が行きかっている。そのはずなのだが、閑散としている。そもそも、大都市なのに、真帆しか歩いていないというのが妙だ。


「誰か、誰かいませんか」

 呼びかけてみるが返事は無い。アパレルショップだろうか。ショーウィンドウ越しにマネキンが確認できる。同時に、現在の真帆の恰好も確認できたのだが、驚愕するに十分だった。いつ着替えたのだろうか。フリルのついたワンピースという休日によく着用するゴスロリ趣味の私服になっていたのだ。


 途方に暮れて歩き始める。似たような風景が続いているせいで、時間の感覚がまるでない。そのうちに足が痛くなり立ち尽くす。

「もしもし、そこの君」

 いきなり話しかけられた。やっとのことで他の人間に出会えた。期待に胸を膨らませて振り返る。


 しかし、そこにいたのは不可思議な生物だった。顔面と前足、後ろ足がピンク色で、胸の辺りが白いという不思議な配色をした四足歩行の獣。おまけに長い鼻をくるませており、羽根が無いのに空中浮遊している。

 真帆の記憶を探るに、こんな生物は地球上に存在しないはずだ。おまけに、理解の範疇を超えている証拠として、

「やっと見つけた。ずっと探していたんだ」

 ごく当たり前に日本語を駆使しているのだ。


 どう反応すればいいのだろうか。硬直して会話もままならない真帆。そんな彼女などお構いなしに、不可解な生物は決定的な一言を放った。

「ようこそ、ドリームワールドへ。君はここで魔法少女として活躍してもらいたい」


「私が、魔法少女、ですか」

 母国語なのにカタコトになってしまう。他に人間はいない。真帆に対して依頼しているとみて間違いなかろう。

「おっと、いきなりで驚かせてしまったかな。そもそも、まだ名乗ってすらいなかったね。ボクの名はネム。ドリームワールドで活躍する魔法少女のサポートをする、いわば妖精さ」

「妖精ですか。ゾウさんかと思っていました」

「失礼な。ボクはゾウではない。バクだよ、バク。遊園地にもいるだろ」

 ネムは憤慨して鼻息を噴出する。咄嗟にバクと言われても姿が思い浮かばない。ネムの容姿から連想させていき、どうにかそれっぽい生物を探り当てる。


「えっと、ネム、さんですか」

「そうだよ、真帆」

「どうして私の名前を知っているのですか」

「初めから君を探していたんだ。名前も知らずに少女を探すほど馬鹿じゃないからね」

 地球上に存在しない生物に予め情報を握られていたとは末恐ろしいにもほどがある。身震いしている真帆をよそに、ネムは話を続ける。


「真帆。さっきも言った通り、君には魔法少女として活躍してもらいたい」

「それは構わないのですが、ここはどこですか」

「魔法少女になるのは構わないのか。まあ、否定されると面倒くさいからやる気なのは結構だ。この場所の説明だったね。ここはドリームワールド。眠っている間に行くことのできる夢と現実の狭間、いわば異世界みたいなところさ」

「つまり、これは夢なのですか」

 真帆はほっぺをつねってみるが、当たり前のように痛覚が発生する。それに、夢の割には意識がはっきりしている。


「夢とは微妙に違うけど、そういうことにしておいた方が理解しやすいかな。君の本体はぐっすり眠っている頃だし。いわば、精神だけこっちの世界にやってきている状態とでも言っておこう。まあ、この世界の仕組みについてウダウダ説明してもつまらないから、先に進ませてもらおう。本気で説明すると、大抵の少女は途中で寝てしまうからね」

 それは妙に同意できた。理科の授業で化学式がどうのこうのと解説されるよりも難しいというのは容易に推察できる。第一、真帆はSFよりも空想ファンタジーが大好きな人種だ。


「さてと。まともに説明してもつまらないだろうから、さっそく変身してもらうとしよう」

「いきなりですか!?」

 当惑する真帆をよそに、彼女の前にウィンドウが展開される。ウィンドウといっても日常生活で目にする「窓」ではない。下着姿の少女のマネキンの横には、髪の毛や目の色、そして衣装を選択できるアイコンが並んでいた。


 真帆も現代の中学生らしくゲームを嗜むからすぐに理解ができた。この画面は、ゲームを開始してすぐに直面するキャラメイキングというものだ。様々なパーツを組み合わせ、自分好みのキャラクターを作成することができる。

「詳しく説明する必要はないよね。まずは、変身する魔法少女を作成してもらいたい。浮かんでいるアイコンをタッチすればパーツを選べるようになるから、好きに組み合わせるといいよ」

 半信半疑で髪形のアイコンをタッチする。途端、ずらりと髪形のイラストが羅列された。ポニーテールやツインテールといった定番のものから、辮髪やらリーゼントといった(魔法少女にしては)ネタとしか思えないものもある。カタログを眺めているだけでいくらでも時間を潰せそうだ。


 魔法少女になれるというのなら、変身先の容姿は心に決めていた。なので、理想の姿に合うパーツを探り当てていくだけだ。

 黄金色の三つ編みツインテール。三角の藍色魔女帽子に、小さな星がきらめく瞳。帽子と合わせた色の袖が無いローブを身に着け、変身前と同じく低身長のロリ体型。そして、右手には豪奢な飾りがついた杖を握っている。

 アニメに詳しい者なら、その姿のモチーフはすぐにわかるだろう。真帆が年少時より憧れていた存在。伝説の魔法少女マジカル☆ドリーミィにうり二つだった。


 完成した少女の姿を見て、ネムも感嘆の音を漏らしていた。

「なかなか可愛いじゃないか。変身後は自分とはかけ離れた姿を作る子もいるみたいだけど、君は自分そっくりの姿を作るタイプみたいだね」

 遠回しにはなるが、真帆にとっては誉め言葉だった。頬に手を添えて歓喜に満ち満ちていると、ネムは鼻を高く上げた。

「それじゃ、さっそく変身してみよう」


「変身って、いきなりすぎませんか」

「君は魔法少女になるためにここに来たんだろう。ならば、早いに越したことはないさ」

 思惑を言い当てられ、真帆はぐうの音も出なくなる。とはいえ、心の準備というものがある。まごついているうちに、ネムは話を進めてしまう。

「変身するにしても、名前が必要だね。魔法少女の正体は秘密にするのが原則。よもや、魔法少女真帆だなんて名乗るつもりはないだろ」

 ネムの言う通りだった。せっかく変身できるのだ。可愛い名前をつけたい。


 では、どんな名前がいいか。いざ、名前をつけてもいいというと、存外に悩むものである。あっちこっちにうろうろしながら顎に手を添える。ネムが無造作に鼻を揺らしているのが催促されているようでもどかしい。

 ふと、真帆は昔読んだ本を思い出した。少女がライオンやかかしたちと一緒に冒険を繰り広げるファンタジー。気に入って何度も読んだものだ。あの物語の主人公はどんな名前だったか。


 その名を口にすると、妙にしっくりきた。同時に、とある文言も思い浮かぶ。タイミングを見計らったかのように、ネムは高々と鼻を振り上げた。

「さあ、変身の時だ! 今こそ魔法の力を君に与えよう」

 真帆の体が浮き上がり、光の粒子がらせん状に彼女を包む。


 着ていた服がはじけ飛んだが、不思議と羞恥心は無かった。全裸になったという認識すら追い付いていないのかもしれない。瞬きするよりも早く、真帆は着飾っていく。その衣装は、先ほどキャラメイキングで選んだものとうり二つ。いや、そのものだった。手には杖が握られ、最後に帽子をかぶると軽くウィンクする。


 地表へと降り立っても、いまいち変身したという実感はなかった。その間は一秒にすら満たない。自覚しろという方が無理な話である。

「ネムさん。本当に変身したのですか」

「ボクのことはネムでいいよ。間違いなく変身したね。ほら、ショーウィンドウを見てごらん」

 言われるがままに、先ほど自分の姿を確かめたウィンドウに立つ。


 そして、飛び込んできたのは、つい先刻自分自身で作り出した魔法少女だった。恐る恐る右手をあげると、鏡の中の自分も右手をあげる。しつこいようだが、真帆以外に人間はいない。なので、鏡に映る少女は間違いなく自分なのである。


 その事実を認めるや、真帆の内から歓喜が沸き起こる。年少時からの夢が現実となって立ち現れたのだ。居てもたってもいられなくなり、その場で繰り返し跳ね回る。

「さあ、名乗りを上げたまえ。新たな魔法少女の存在を知らしめるんだ」

 ネムに促され、真帆は頷く。セリフは自然と浮かんでいた。


「みんなの夢と希望を守る。星の魔法少女、ドロシー!」

 アニメのマジカル☆ドリーミィよろしく、煌びやかなポーズを取る。観客がネムしかいないのが虚しいが、そんなのは些末な問題だった。空想の中でしかできなかった所業を現実にやってのけたのだ。無我夢中で様々なポーズを披露する。


 真帆。いや、魔法少女ドロシーが歓喜に湧き上がっているのを前に、ネムは冷静に告げた。

「さて、魔法少女になれたんだ。さっそく、仕事をしてもらうよ」

「仕事って」

 夢心地で尋ねたドロシーだったが、次の瞬間、一気に現実に引き戻されるのだった。

「君には夢魔を倒してもらいたい」


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